中日関係と情報発信

 

呉氷潔(東華大学)

「このホームページ、あなたが作ったんですか?」

目の前にいるこの人は、社内で唯一の日本人、松下さんです。彼は目を丸くし、顔を赤くし、非常に感激しているようでした。私はびっくりしました。「もしかして、ホームページの内容に何か間違いでもあったのかな?」とそわそわし、緊張のあまりその場で固まってしまいました。

「あのう、どなたですか。」私は小声で恐る恐る彼に尋ねました。

「ほら、これ。」彼は携帯でホームページを指差しました。

 私は画面を覗き込みました。「た、確かに、これは私が作ったページです。何か間違いがあったんですか。」私の心は落ち着かず、「どうしよう、どうしよう」と焦っていました。

すると思いがけず彼の口から「ありがとうございます。」と感謝の言葉を聞いたのです。私の緊張はすぐ驚きに変わり、「えっ」と思わず叫んでしまいました。

夏休み中、私はフランスの会社でインターンシップをしました。ある日、会社の先輩達が会社の制度や各部門の仕事内容、勤務の注意点等をどのように新入社員に簡潔に周知できるかを相談していました。

「ホームページで仕事の流れや注意点を動画の形式で説明すればどうですか。」私は上司に提案してみました。

「それはいいね。じゃ、この仕事は呉さんに任せるね。」

「はい。」

当初は中国語版のホームページしか作らなかったので、「うちの会社はグローバル企業で、外国人社員も多いから、英語版も作ってほしいな。」と上司に頼まれました。日本語学科の私は、「じゃ、日本語版も作っていいですか。」とすかさず自分の希望を伝えました。上司は社内には日本人もいるということで了承してくれました。

数日後、この中日英三か国語の「会社案内」がウェブ上にアップされました。それだけでなく、私と社内唯一の日本人との間の物語も始まりました。

「このホームページからは会社の私への配慮を初めて感じました。会社の資料やホームページはいつも中国語版、英語版、フランス語版だけです。社内にはフランス人やアメリカ人が多いので、仕方ありませんが、でも、私は日本人です。私も日本語で資料が読みたいんです。中国語の資料を読むことはできても、内心ずっと悲しい気持ちでした。自分が無視されているように疎外感を感じることもありました。でも、このホームページを見た私は今、この会社が好きでたまらなくなりました。」

松下さんの話を聞き、私は何を言えばいいか分かりませんでした。私はただ自分が日本語専攻で、日本語を使ってホームページを作りたかっただけです。しかし、彼は自分への配慮だと誤解したようです。しかし、この誤解のお陰で、私と松下さんは親しくなりました。

彼はホームページ上の日本語の誤りを指摘してくれ、ホームページの修正を手伝ってくれました。

八月の末、彼は休暇を利用して日本へ帰りました。彼は一度も日本に行ったことがない私のために、帰省中、毎日日本の写真を私に送ってくれました。私に送ってくれたはがきには、「呉さん、もし機会があれば、是非私の家に来てくださいね。」と書かれており、日本に親戚ができたように感じました。

日本語を学んでいる私達は、必要に迫られた時だけ日本語で話すのではなく、可能な限り自分の力で自分の生活と日本を繋げるべきです。例えば、情報を発信する時、日本語を使うようにすれば、発信した情報を見た国内外の日本人に「あっ、こんなに多くの中国人が日本語を勉強しているんだ」ということに気づいてもらえます。人間は自分と共通するものがある人には好感を持つものです。情報をできるだけ日本語で発信するようにすれば、より多くの日本人に温かさや親しみを伝えられ、より多くの日本人に中国を好きになってもらえます。そうすれば、中日関係もきっとよりよいものになっていくでしょう。

九月の末、私は授業のためインターンシップを辞め、ホームページの仕事は彼に引き継ぎました。ある日、私はそのホームページ上に新しい文章が載っていることに気づきました。本文は全て日本語で、私の作成したホームページにより繋がった二人の絆のことが綴られていました。文の最後には、「これは私と彼女の物語です。呉さん、もしよかったら、卒業後会社に戻って来てください。」と記されていました。

文章を読んだ瞬間、私は非常に感激しました。初めて会社のホームページに自分に関する内容が掲載され、会社での自分の存在感を感じ、松下さんが日本語版のホームページを見た時の感激を身をもって体感できました。

「あっ、あの時の松下さんの丸い目と赤い顔、懐かしいな。」画面の前で、和やかな気持ちに包まれ、思わず笑みがこぼれました。

 

人民中国インターネット版 2016年12月

 

 
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