伝統を伝える努力と工夫

 

 大勢の観光客の注目を集める「一本麺」づくりのパフォーマンス

黄竜渓古鎮には今なお数多くの風習が残っている。「一本麺」は宋代から続く現地の有名な伝統麺料理だ。黄竜渓を育む平原には肥沃な土壌ときれいな水があり、小麦の生産が盛んだ。黄竜渓の人々は新年や祝日などの祝い事の際に小麦粉を練り一本麺を手作りする。今日でも古鎮の名物であり、各店舗の前には連日多くの人が集まり、商売繁盛している様子がうかがえる。

麺職人は若く見えるが麺作りの経験は豊富だ。職人がボウルの中から長い麺生地を取り出すと、麺を切ることなく伸ばしていき、さらにリズムに乗って踊るように動く。麺も空中で円を描き、ロープのように飛び跳ねる。そしてちょうどいい細さまで伸ばされた麺がお湯をたっぷり張った大鍋に飛び込む。そしてゆで上がった一本麺をスープの中に入れれば出来上がりだ。濃厚なスープが絡んだ麺をかむとツルツルシコシコした食感を味わえる。一本麺はその1本の麺の先端から最後まで食べるものであり、食べ終わるとお代わりが欲しくなる。「一本麺を食べなければ、黄竜渓に来た意味がない」といわれるほどだ。

ここにはまた古くから「焼火竜」の風習がある。毎年の旧正月の2日から元宵節まで黄竜渓で最も盛り上がる伝統行事だ。起源は南宋時代までさかのぼるといわれ、もう800年以上の歴史を持つ。当時の人々が神話を基に創った独特な「火竜灯舞」は、現在では1年に1度の新春を迎える定番行事になっている。

「夜だ!布団に入れ!戸締りと火事に気を付けて、早寝早起きしろ!」。どらの音に合わせて遠くからしわがれた大声が聞こえる。古鎮に今なお残る夜回りの風習だ。夜回りは亥の刻(午後9時)から始まり、卯の刻(午前5時)まで続く。2時間ごとにどらをたたき、1回目はどらを1度、2回目はどらを2度たたくというように、合計5回行う。もう20年間夜回りをしている謝さんがこの町と同様愛着を持っているのが彼の手の中にあるどらだ。どらをたたくのもこつが要り、弱すぎると音が響かず、強すぎるとどらを壊しかねない。叩く角度と力が重要だと謝さんは満面の笑みを浮かべながらどらにまつわる自身のエピソードを話してくれた。「私はこれまで一度もどらを壊したことがありません。もし壊す日が来るとしたら、それは私が年を取ったということで、それならいっそ壊れたどらを売って酒代にしますよ」と言い、朗らかな笑顔を見せた。もしこの古鎮に泊まることがあれば、人が寝静まった夜に聞こえる澄んだどらの音が心地よい眠りにいざなってくれるだろう。

 

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