伝統医学の知恵

2021-10-29 17:51:57

姚任祥=文

不摂生が生む痛み

中国医学には「不通即痛」(通じざればすなわち痛む)という言葉がある。まさに理にかなった至言だ。日常生活の中で、多くの人が「気」や「血」の循環が悪いため、さまざまな凝りや痛みの症状が出て治療を求める。

西洋医学の治療法では、通常、痛み止めの薬を処方する。だが、それでは一時的に痛みは治まるが、根本的な解決にはならない。逆に副作用として胃や肝臓、腎臓を傷めることもある。だから中国人は、一般的に体がだるかったり凝りや痛みがあったりすると、伝統的な治療法に頼る習慣がある。

体の凝りや痛みの原因は、事故や転倒など不測のけがによる後遺症を除くと、長年の不摂生の積み重ねによるものがほとんどだ。まさに「氷凍三尺、非一日之寒」(厚さ三尺の氷は一日の寒さではできない=ローマは一日にしてならず)だ。

私自身、現在の体のあちこちのだるさや痛みは、若い頃に養生知らずで体に負担をかけ過ぎたこと――車を長時間運転したり、足に合わない靴やハイヒールを長時間履いたり、重いものを持ったり運んだりしたときに力の入れ具合を間違ったことなどが遠因だと思う。最近では、運動不足やパソコンの前に長く座り過ぎること、姿勢の悪さなどが原因だろう。いずれも自分がまいた種だが、50歳近くになるとそれが次々とわが身に逆襲してくる。

現代の若者にも、さまざまな凝りや痛みの問題がある。運動のやり過ぎで筋肉を傷めたり、冷房の部屋に長居し過ぎて適度な発汗がなかったり、冷たい飲み物をしょっちゅう飲んでは血行を悪くしたり……その結果、体を冷やし過ぎて体内に「寒気」や「湿気」が溜まってしまう。また、肩や首を露出し過ぎると、体が冷えてこわばり、血の巡りも悪くなる。そして日が経つと首回りが凝ったり痛んだりする。

また、脳の酷使と運動不足、これも現代人共通の悪習慣だ。さまざまなストレスを適宜発散せず、体が常に「戦闘状態」にあると、脳と体のバランスが崩れて慢性的な疲労状態に陥りがちだ。ひどい場合は気分が落ち込んだり、気性が荒々しくなったりすることもある。これを心理的な問題と誤解して、間違った薬を飲んでいる人もいる。

私たちはどうやって自分の体と上手につき合っていくべきだろうか。私の経験では、普段から体の手入れを心掛け、リラックスすることを学び、特に柔軟運動をよく行い、発汗と血行の循環を促すのが良いだろう。今流行のストレッチ系の気功、太極拳やヨガなどは、リラックスと中国の伝統的な健康呼吸法「吐納」を兼ねていて、体内の気や血行を全身に行きわたらせ、体を解きほぐすのにとても効果があると思う。

また中国医学の理論では、肝臓は筋肉に影響し、腎臓は骨に影響する。このため、筋肉の凝りや骨の痛みの原因として、打撲や捻挫、過労の蓄積による肝臓や腎臓の働きの低下などがある。こうした問題が長引くようであれば、食事療法によって肝臓や腎臓の働きを整え、体内のうっ血を取り除いて血液の循環を促すのが良いだろう。体内の「寒気」と「湿気」を取り除き、体の「元気」(活力)を増やすことができる。

 

中国医学の巧みな治療法

いずれにせよ、痛みがあれば治療すべきで、放っておいて病気になり心身に余計な負担をかけるべきではない。伝統医学のさまざまな治療法は、全て血液のスムーズな循環を優先している。「気」と「血」の流れが回復し、筋肉が柔軟性を取り戻せば、体も回復して健康になる。

私たちの伝統医学の理論には、「痧」と呼ばれるものがある。これは、血液の循環が悪いために引き起こされる暑気や「邪熱」(のぼせ、ほてりなど)が皮膚の表面に溜まり、風邪や発熱、暑気あたり、頭痛、熱中症、筋肉の硬直による凝りや痛みなどを引き起こすことだ。これらは「刮痧」「拍痧」という方法で治療することができる。

古い方法によると、閉め切った部屋で上着を脱ぎ、水牛の角で作ったヘラで背中をこする。また、首筋の両側から肩にかけて、さらに両肩から脊椎の両側へとこする。こうすると、毛細血管が拡張し、通常は皮膚から暗赤色や鮮血色の「痧」(暑気や毒素)が出てくる。その後に体を拭き、赤砂糖の入ったショウガ茶を飲んで汗を出せば、体はスッキリし楽になる。

普段は旅行好きな私だが、最近は長い時間飛行機に乗るのがつらくなった。体が座席に固定され、長い時間がたつと両足が痛くなるからだ。前に一度、搭乗する前に拍痧棒で太ももを軽くたたいてみたが、数分後には「痧」が出てきて、座っていても足が痛くならなかった。

「抜缶」(カッピング、吸い玉)は、陰圧状態のガラス容器を使った吸引の原理により、筋肉にたまった酸性物質(老廃物)を皮膚の外に吸い出すことで、血行を刺激する作用がある。寝違えやパソコンの使い過ぎによる腕の痛みに抜缶は非常に効果的だと思う。

 

市販のカッピング(抜缶)の道具。使用時は力加減に注意が必要。やさしく丁寧にが大切だ

伝統的な抜缶は、竹筒やガラスのカップの中を火であぶって熱し、それを具合の悪い部位に吸着させて治療する。以前、私は五十肩に苦しみ、腕が全く上がらなかった。ところが専門の施術者に瀉血をしてもらったら、たちまち症状が和らいだ。中医の経験と伝承には頭が下がるばかりだ。

具体的な施術はこうだ。まず痛みのあるところの周りの筋肉をもみほぐす。続いてはりでその部分を均一に刺し、抜缶のカップを当てて吸引する。普通ははりを刺したところからドロっとした血液が出てくる。このドロドロした血液が、体の調子が悪くなる原因だ。

  ツボと経絡は、中国医学の用語としておなじみだ。私たちの祖先は異なる症状に応じて、人体に365カ所ものツボがあることを発見した。また経絡は、体の各臓器と組織の間を結んで気(生気)と血を流す経路という役割がある。

「針灸」(はりきゅう)医学の基本原理では、長さの違う細いはりでそれぞれのツボを刺し、その刺激によって対処治療を行い、生気と血行の流れを回復させる。現在では美容やダイエットにも効果があるという。

 

「針灸」(はりきゅう)のはり

針灸は、最も古く有名な中国医学の医術といえる。はりを打たれたその瞬間、ズーンとした独特な感じがするが、痛みもなければ出血もない。それを試した人の多くは、とても驚き不思議に思うものだ。

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