「爆買い」招いた代理購入終焉?

2019-03-19 14:19:34

日本を訪れる中国人観光客が大量の商品を買い込む「爆買い」現象は、日本人に強いインパクトを与えた。2015年には流行語大賞にも選ばれたほどだ。その爆買い現象の背景にあるのが、中国人による「代理購入」(1)だった。

代理購入とは、文字通り一般の消費者が海外の商品を、専門の業者または個人(外国に住む中国人や海外旅行のツアーガイドら)に代理で購入してもらい、輸入することである。このビジネスは、代理購入する業者や個人が、発注者から購入発送手数料などを上乗せすることで成り立っている。

 

「携帯」で多くの中国人が経験

「産業」としての代理購入の始まりは05年頃である。留学生や海外で働く人々が帰国する際に、親戚や友人たちに腕時計やバッグ、アクセサリーや化粧品など、当時の中国では高価な物品を買って行ったのが、そもそもの始まりだった。その後、海外旅行のツアーガイドやキャビンアテンダントなども行うようになると、一部の目ざとい人たちがビジネスの匂いを嗅ぎ付け、代理購入を手掛けるようになった。これらの業者は、代理購入のために中国―外国間を行き来し、外国で安く商品を購入し、それを中国国内で高く転売して利ざや(2)を稼ぐ。

中国人の微信(ウイーチャット、LINEのようなSNS)の連絡先リストには、個人で代理購入を営む友人の連絡先が登録されていることが多い。そして、都市に住む多くの中国人は、海外旅行に行ったり、外国で留学や生活している友人を通し、海外の有名ブランド品や粉ミルクなどの購入を頼んだ経験がある。このように、代理購入は中国人の日常生活の中にすっかりと定着していたと言える。

ところが昨年、飛ぶ鳥を落とす勢いだった個人による代理購入も、ついに一巻の終わりか、と思わせる出来事があった。「中華人民共和国電子商取引法」(以下、「電子商取引法」)(3)が成立し、19年1月1日からの施行が決定されたことである。

 

「電子商取引法」で様相一変

「電子商取引法」では、個人による代理購入に対し厳しい規制が行われることになり、違反した場合は最高200万元の過料が科される。また、「電子商取引法」の登場により、代理購入した物品をオンラインで販売する場合、大きな影響を受けるが、オフラインでの販売については、関連する規定がないため影響は小さい。

「電子商取引法」における代理購入に関する規定の概要は次の通りである。(1)市場主体登記の義務化。電子商取引プラットフォーム内で事業を営む代理購入業者であるか、自らウェブサイトを立ち上げ、または他のネットワークサービスを通して事業を営む代理購入業者であるかを問わず、全ての経営主体が法に基づき市場主体登記を行わなければならない(2)納税の義務化。電子商取引経営者は、法に基づき納税義務を負う。この規定により、個人で代理購入を営む人々は、事業の継続が極めて困難になる。上記の二つの規定から見ると、外国に留学している中国人学生が代理購入を行う場合も、「電子商取引法」の規定に基づき中国において経営主体登記を行い、納税する必要があるということになる。

これらの規制により、個人で代理購入を営む人々の気勢が大きくそがれた。「青子」と名乗る代理購入の個人事業主は、税金を納めなければならなくなると、代理購入業界は立ち行かなくなってしまうと訴えている。「例えば、ジバンシーのルースパウダー(化粧品)。セフォラ(フランスの化粧品専門店)では595元で売ってるけど、私は韓国で300元で買って380元で売りに出してます。でも、税金を払うことになれば、利益を出すのは難しいでしょうね」

 

落ちた「ダモクレスの剣」

また、代理購入を営む人々は、利益を手にする一方で、密輸(4)や脱税、偽物を摘発されるといったリスクが、さながら頭上につるされた「ダモクレスの剣」のように、いつ降りかかってきてもおかしくない状態にある。そういった例を二つ紹介する。

一つ目は微信上に昨年11月に掲載された淘宝網(タオバオ、中国アリババが運営するECサイト)の「代理購入店店主の謝罪文」だ。これがネット上で話題となり、一時騒然となった。

謝罪文には以下の内容が記されていた。「みなさん、ごめんなさい。今わたしは広州女子刑務所にいます。越境代理購入をしたことで、懲役10年、罰金550万元の判決を受けたからです。(後略)」

この店主は、淘宝網で12年にわたって店舗を開設しており、ここ3年は香港で購入した衣料品を淘宝網で販売していた。衣料品の大部分は宅配便で中国大陸部に運んでいた。店主自身が持ち帰ったり、「運び屋」に運ばせることもあった。17年3月20日、店主は中国大陸部への移動時に九洲税関密輸取締分局に身柄を拘束され、同年4月27日、刑法(普通商品物品密輸)違反の容疑で逮捕された。昨年2月24日、一審の広東省珠海市中級人民法院(日本の地裁に相当)は、普通商品を密輸したとして、店主に対し懲役10年、罰金550万元の実刑判決を下した。店主側は量刑が重すぎるとして控訴したが、5カ月後、同省の高級人民法院(高裁に相当)は原審の判決を維持する最終判決を下した(中国では通常は二審制)。

これについては、刑罰が重すぎると感じる人もいるだろう。昨年騒がれた某有名女優の脱税事件では、何億元も脱税していながら8億元余りの追徴金を命じられただけで、刑事責任は追及されなかった。それと比べ、どうしてこの店主は300万元余りの脱税で服役しなければならないのか。

実は、この女優が刑事責任を免れたのは、中国の刑法では、税務当局から納付通知を受けた後、速やかに税金、滞納金及び罰金を納付すれば、刑事責任は追及されないという規定があったからである。一方、この店主の場合は、脱税だけでなく密輸もしていたことで刑罰がより重くなった。普通商品密輸罪を構成する要件が整っており、また一般人から見れば300万元でも十分に巨額な脱税であるという事件性に照らし、法律上は10年以上の懲役と、脱税額の2倍以上5倍以下の罰金または財産の没収という二つの刑の併科が相当とされたのだ。

さらに、昨年下半期、特に年末頃に中国各地の税関が海外旅行者の携帯品に対する管理、関税の課税を強化した。これにより、爆買いは大きな打撃を受けるとの見方が出ている。

税関が検査を強化していることから、大量のぜいたく品を持って税関を通ると関税や過料が賦課され、最悪の場合は刑務所送りとなる恐れがある。以下は代理購入のリスクの二つ目の例だ。昨年、西安空港の税関で、海外留学から帰国した女学生が手首足首にブランド腕時計を計8個付けているのが摘発された。さらに検査したところ、女子大学生のスーツケースの中にブランド腕時計21個、ブランドバッグ20点、アクセサリーと健康食品約100点が詰め込まれているのが発見された。その時価総額は35万元で、この学生は約10万元を脱税した疑いで刑事事件として立件された。

通常、一般の旅行客が海外で購入した自己使用目的の物品は、総額5000元までは非課税扱いとなり税関申告は不要だ。5000元を超える物品に対しては、税関審査で自己使用目的であると見なされれば5000元を超えた金額に課税される。だが、もし単体で5000元を超えた物品の場合は、その時価の全額が課税対象となる。

 

ニセモノ防止効果も期待

こうした出来事などにより、今では個人による代理購入は今年で終焉を迎えるという声も聞かれる。とはいえ、「電子商取引法」は代理購入した物品のオンライン販売を禁止しているわけではないので、法に従っていれば事業を差し止められることはない。実際、同法の狙いは、代理購入行為に対する法によるルール作りと規制だ。長期的に見れば、代理購入の発展に有益であると言える。

「電子商取引法」の登場は、一方で偽物の氾濫を防ごうという側面もある。同法の施行後、微信のモーメンツ(LINEのタイムライン機能に相当)やライブ配信などを利用して商品を販売する代理購入は電子商取引に当たり、「電子商取引法」が適用される。これにより、偽物の氾濫が問題となっている分野の管理が強化され、偽物を巡る消費者紛争(5)がより適切に解決されることが期待されている。

 

1         代理購入

2  差价       利ざや

3  子商    電子商取引法

4  走私       密輸

5  费纠纷       消費者紛争

 

弁護士 鮑栄振(ほうえいしん)

北京市の環球法律事務所のパートナー弁護士1987東京大学大学院で外国人特別研究生として会社法などを研究中国政法大学国際環境法研究所研究員、同大法律碩士学院客員教授、中国法学会弁護士法研究会理事、中日民商法研究会副秘書長等を務める。

 

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