写真=長舟真人 文=萩原晶子
1930年前後に建てられた住宅が多く残る復興中路。そのなかでも特に目を引くのが、ルネッサンス様式の煉瓦造りの集合住宅「克莱門公寓(クレメンツ・アパートメント)」だ。建築面積は18,500平米。その周りに、ヘチマの棚や花壇のある、駐車場を兼ねた庭がある。ねこたちが住みやすそうな環境が整った住宅地だ。
「克莱門公寓」は1929年竣工のフランス式住宅
上海市内のこういった小区(住宅の敷地)内には、たいてい住民たちにかわいがられている庭ねこたちが住んでいる。誰が飼っているというわけでもないが、ねこ好きの住民がエサ、水、寝床などを与えたり、糞の清掃を行っている。
「でも、ここの住人たちはあまりねこが好きではないみたいで。虐待の跡があるねこもいます」
そう語るのは、「克莱門公寓」の一角に画廊「Shun Art Gallery」を構えるギャラリストのShunさん。いま、今年の初夏にふらっとやってきた庭のねこを世話している。もともと住宅の敷地内に野良として住んでいたそうだが、しっぽに怪我を負っていた。「住人にやられたのかもしれない」とのことだが、エサを与えるとすぐに懐いたという。
この一角にある「Shun Art Gallery」の入り口ドア付近が頼頼の居場所
名前は「頼頼(ライライ)」。由来は「私たちの画廊を頼ってくる、ずっとここにいるねこという意味」だそうだ。入り口のドア付近をエサ場にしたところ、ギャラリーの窓枠に座ってくつろいだり、作品の搬入作業をするアーティストをなごませたりする存在になった。
窓辺にて。平らな上瞼がポイント
「飼うつもりはなかったが、縁あってねこと一緒にいるようになった」という人が意外と多い上海。もともとねこはそんなに得意ではなかったというShunさんも、頼頼がギャラリーにやって来てからというもの、彼に会わない日は不安になるほどだという。出張先でスタッフに頼頼の写真を送ってもらうこともあるそうだ。年齢はわからないが、オスねこということでいまではギャラリーの「看板親父」として活躍している。アート作品を観にくる人たちにも、彼の存在が口コミで広がっている。
会える確率が上がるのは、夕方のご飯の時間
Shun Art Gallery
上海市復興中路1363弄3号楼108室
敷地内の庭にはほかにも数匹の庭ねこがいる