城勝義 医療を核に多分野で協力・開発

2020-07-20 11:07:42

王衆一=聞き手

 

  勝義 (じょう かつよし)

日東電工株式会社執行役員、日東電工(中国)投資有限公司董事長総経理

2006年に日東電工株式会社入社。2015年に上海日東光学有限公司総経理に就任。17年から日東電工(中国)投資有限公司総経理。18年から中国区統括を兼務。同年7月から日東電工株式会社執行役員。

 

日東電工グループは長年にわたり絶えず製品の研究開発と革新に集中してきた。

取材班は昨年、日東電工(上海)イノベーションセンターが設立したテープ共同実験室を見学し、上海のほかに山東省青島にも研究拠点があることを知った。同センターの半導体共同実験室と自動車共同実験室は、顧客と共に製品の性能を評価・確認でき、また生産・研究開発の問題を解決できることで、日東電工の研究開発と製品の生産をぐんと顧客に近づけている。

今年の新型コロナウイルスの感染拡大以降、日東電工にはどんな変化が起きたのか? 特に防疫が大衆の関心事になってから日東電工の重要な技術はどのような面で使われ、今後はどのように新しい市場を開拓するのか? 日東電工株式会社執行役員で中国区を統括する城勝義氏に話をうかがった。


――今年の春節(旧正月)前に新型コロナウイルスの感染が拡大しました。その後の4月28日、日東電工は上海市医薬衛生発展基金会に寄付金を贈りましたね。


   城勝義 感染拡大後、私たちは直ちに仕事のやり方を調整し、2月中旬まで基本的に在宅勤務としました。その後、上海などで感染拡大はすでに落ち着いていましたから、政府の規定に基づき、私たちの大部分の工場は生産を再開しました。4月27日に武漢事務所も正式に業務を再開し、第1段階の戦「疫」は基本的に終了しました。

私自身の感覚では、感染症が最も深刻だったのは2月で、上海が積極的に武漢市と湖北省に応援を派遣するニュースを見ました。戦「疫」期間中に、上海市の医薬衛生部門が武漢に1667人の医療従事者を派遣したことを知り、弊社では中国の関係機関への支援金を贈るルートを絶えず探していました。そして4月28日、上海市医薬衛生発展基金会に100万元を寄付することを決めました。同基金会では寄付金の一部を、武漢の防疫と医療分野の人材育成に充てます。今回の寄付が世界の医療技術の進歩に貢献できるよう願っています。


――寄付だけでなく、日東電工は近年、医療分野での研究開発も急速に進めていますね。

 

 日東電工が展開しているライフサイエンス事業のコア技術の一つは「肌に優しい粘着剤」です。単純なものでは、血液検査後の血止めや点滴で針を固定する際に使うテープがあります。このようなテープは、しっかり固定できて、皮膚がかぶれにくく、水にぬれても取れにくく、また取る時に皮膚を傷つけないという矛盾する特性が求められます。日東電工102年の歴史の中で70年以上に上るテープ生産の経験と知見があり、今もさまざまな用途での研究開発を続けています。私たちが作る医療用テープは、患者さんや医療関係者の皆様から好評をいただいています。

また今日、医療衛生テープの用途は大きく広がっています。中国でも急速に発展しているIoT(モノのインターネット)、IoH(ヒトのインターネット)、ウェアラブル(身に着けられる)端末を駆使したヘルスケア分野において、患者さんなどの利用者に負担をかけずにセンサーを固定する素材としてニーズが高まっています。遠隔医療や介護、スポーツなどでも、日東電工の製品やサービスの用途はますます広がっています。

一方、長時間にわたって身体の特定の部位に固定する必要のあるこうしたテープのほか、経皮吸収型テープ製剤もあります。この製品の特長は、特殊な技術で粘着剤の中に必要な薬剤を注入し、皮膚に直接貼り、皮膚を通して薬剤を体内に送り込み、徐々に効果を及ぼすことです。これまで、すでに心疾患や高血圧、ぜんそく、局所麻酔、統合失調症の治療で使われています。薬の服用や注射と比べ、経皮吸収製剤は放出速度と薬効をよりうまくコントロールできます。特に低年齢の子どもや高齢患者の体の負担や投薬リスクを低減し、患者の生活の質(QOL)を改善できます。現在、ぜんそく治療の貼り薬「阿米迪®」がすでに中国で広く使われています。高齢化が進む中国でその重要性は高まってきており、私たちも市場のさらなる開拓に期待しています。

そして、医療衛生テープや経皮吸収製剤の他に、日東電工は核酸医薬の研究開発(創薬)や受託製造を行っています。日東電工は特に、核酸医薬研究の最先端市場である米国で、臨床試験、製品開発に不可欠な核酸受託製造事業でトップシェアを誇るとともに、肺繊維症やがんなどに対する革新的な治療薬の研究開発を行っております。


――今回の感染症の影響で中国も医薬分野の研究開発を強化しています。

 

 私たちは、中国の医薬の研究開発における新しい成果にとても注目しています。この1、2年、華南地方で核酸医薬学会など研究開発活動が活性化しており、弊社も現地と絶えず情報交換しています。私たちは、新薬開発を加速させる核酸受託製造において、米国で培った豊富な経験と実績を生かし、ぜひこれから中国でもさまざまな企業の研究開発をお手伝いし、難病治療に貢献したいと願っています。


――中国企業との協力では、どのように日東電工の技術の特長を説明しますか?


 日東電工グループでは、102年の歴史で培ってきた高分子合成・加工技術、そこから生み出された粘着、塗工、高分子機能制御、高分子分析・評価技術がコア技術となっています。これらを産業や社会のさまざまな課題やニーズを解決するために複合・発展させ、多分野のお客様に価値を提供し続けるのが私たちの強みです。発展・進化が著しい中国においても、今日お話しした医療だけでなく、電子、自動車、住宅、環境など注目すべき市場が多く、より多くの企業と協力し、イノベーションを起こしていきたいと考えています。

 

日東電工から上海市医薬衛生発展基金会への寄付金の贈呈式(写真提供・日東電工)

 

編集長のつぶやき

100年以上の歴史を持つ日東電工は、電気絶縁材料やテープの製造からスタートし、現在は高分子合成技術を土台にさまざまな最先端技術を融合し、医療分野で絶えず革新を起こしている企業だ。ポスト・コロナの時代、日東電工のような企業が中日交流で発揮する役割は、必ず人々に驚きを与えるだろう。

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