改革開放40周年を誇る中国 対極のアメリカ・ファースト

2018-07-30 16:35:23

江原=

 「アメリカファースト」の保護貿易主義の側面が際立ってきているようです。6月1日、米国が鉄鋼、アルミニウムの輸入制限(追加関税)の発動を決めたことに、欧州連合(EU)、カナダ、メキシコなどが報復関税を課す方針を明らかにしました。さらに米国は、自動車の輸入関税引き上げも検討中で、今後、「目には目を、歯には歯を」の報復措置の応酬合戦から貿易戦争に発展しかねないとの懸念の声が世界に充満しています。日本も、そして、中国もこうした保護貿易主義には大反対の立場にあることは言うに及びません。

 そんな中、中国は、今年、改革開放40周年を迎えます。改革開放政策は保護貿易主義の対極にあるといっても過言ではないでしょう。その証拠の一つとして、中国を最大の貿易パートナーとする国は、今や、世界120カ国(アジアでは16カ国)に及んでいることが指摘できます。中国が改革開放で中国市場を対外開放してきたことの成果といってよいでしょう。こうしてみると、改革開放40周年の「不惑」の年に、「アメリカファースト」の保護貿易主義的姿勢が鮮明化したことは、今後の世界経済発展にとって、「不幸中の幸い」とみられるのではないでしょうか。世界経済の発展に逆行するような動きに、今後、中国がどう対応するのか、世界の衆目が集まっています。

 

■ 世界経済の先行きにも影響

 過去40年間、中国は改革開放を発展、深化させることに大きなエネルギーを割いてきています。その結果、国内総生産(GDP)、対外貿易、対外投資、外貨準備、製造業などで世界経済をけん引する大国になり、かつ、小康社会(注1)の実現に王手をかけるまでになりました。対外的には、中国経済は、すでに、世界経済全体の15%強(世界第2位)を、同成長率への寄与率では30%余り(世界最高)を占めるまでになっています。今や、改革開放の成果は世界経済の隅々にまで浸透しています。例えば、最近、中国語を大学入試の選択科目とする国が増えていること、今年の世界トップ100ブランドに中国から22ブランド(主に企業名)が入り、その数が年々増えていること(2月12日の人民網)など、改革開放の成果やその世界浸透が読み取れる事例は枚挙にいとまなしです。

 「改革開放」と「アメリカファースト」の行方は、中米関係のみならず、世界経済の今後の発展と、何より世界経済ガバナンスの行方を見る大きな視点を提供しているといえます。

 

■ 画期的な「一帯一路」提唱

 1978年に打ち出された改革開放の40年の歴史をひもとくと、世界に類のない高成長(78年から2017年までの年平均成長率95%、経済規模にして39年間に34倍)を遂げてきたことが分かります。その間、10年に日本を抜いて世界第2位の経済大国となり、13年には、米国を抜いて世界第1位の貿易大国の座に就いています。

 改革開放はいくつかの節目の年を経ています。すなわち、①改革開放を加速させた鄧小平氏の南方談話があった1992年、②世界貿易機関(WTO)に加盟し、中国の社会主義市場経済が世界的認知を得たとされる2001年、そして③「一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)」が提唱された13年など。そのいずれの年も、中国市場の対外開放の拡大、中国経済と世界経済の連携強化へ向けたキックオフの年であったといえるでしょう。このうち、中国が貿易大国となった13年に「一帯一路」が提唱されたことは、改革開放の発展深化を見る重要な視点を提供しています。

 

■ 「先富論」と「ウインウイン」

 「一帯一路」は改革開放の国際化といえるでしょう。何より、両者には類似点が少なくありません。例えば、①改革開放では外資導入拠点(経済特区、自由貿易試験区など)が全土に次々設置されましたが、「一帯一路」でも外資導入拠点として沿線24カ国(75カ所)に海外経貿協力区(沿線辺境経貿合作区)が設置されていること、②両者ともインフラ整備を優先させていること、③改革開放の理論的支柱である「先富論」(共同富裕が目標)と「一帯一路」の原則である「合作共贏」(協力ウインウイン)に共通点があることなどが指摘できるでしょう。

 「一帯一路」の参加支持国は100カ国余りで、その経済規模(昨年、以下同じ)は世界経済全体のほぼ30%、対外貿易で中国全体の265%、対外投資で同12%、対外請負では同50%超を占めており、いずれも今後の拡大が期待されています。改革開放の反保護主義、グローバリズム精神は、「一帯一路」の理念、沿線関係各国との連携強化を通じて、今後ますます「一帯一路」で、そして、世界で実践されていくとする識者が少なくありません。

 

■ 注目される上海国際輸入博

 中国では、今年7月1日より、輸入自動車関税と輸入日用品関税をそれぞれ約25%、約55%引下げる決定をしました(注2)。商務部(日本の省に相当)によれば、輸入拡大は既定の政策目標(注3)であり、輸出入バランスの適正化のための重要な措置、消費者の質の高い生活へのニーズに応える必然的な要求でもあるとしています。自動車の輸入関税引き上げを検討している「アメリカファースト」の姿勢とは対照的です。

 1980年代から90年代にかけて、日本も貿易摩擦が激化し通商問題が生じたことから、市場アクセス改善策や輸入促進税制などを柱とする輸入拡大策をとったことがありました。その後の経緯はともかく、歴史は繰り返すということでしょうか。目下、中国も同じような状況に置かれているといえます。

 この点、中国の輸入拡大策については、関税引下げに加え、習近平国家主席が、昨年5月の「一帯一路」国際サミットフォーラムで発表した「第1回国際輸入博覧会」(今年11月上海で開催)が注目されます。今年4月末時点、同博覧会には、61カ国が正式に参加を表明、1022社(米国を含む先進国企業34%、「一帯一路」沿線国34%、後発開発途上国10%)が出展契約を結んでいると報じられています(4月27日の新華網)(注4)。同博覧会開催の意義は、中国の市場開放の実践区、中国の内需拡大への貢献、「一帯一路」の推進、国際貿易の拡大に集約できるでしょう。総じて、国際輸入博の開催は、改革開放の深化(国際化)の最前線であり、保護貿易主義に対するアンチテーゼといってよいでしょう。

 世界最大の貿易大国にして、世界第2位の輸入大国である中国が、一部の輸入品目の関税引き下げに踏み切り、史上最大規模の輸入に特化した博覧会を開催し、市場開放に積極的に取組もうとしている姿勢は、中国の国内要因への対応ということもありますが、現下の保護貿易主義の台頭に大きな一石を投じていることは間違いないでしょう。

 さて、今年6月8日から9日までカナダで主要7カ国(G7)首脳会議が、時を同じくして、9日から10日まで中国青島で上海協力機構(SCO)首脳会議(注5)が開催されました。G7がアメリカファーストの米国とそのほかの6カ国との間に、G6+1の意見の分岐対立が目立ったのに対し、SCOは多国間貿易体制の強化、「一帯一路」の推進、地域経済協力の向上などでコンセンサスの形成を目指す姿勢が鮮明に打ち出されました。果たして、改革開放40周年の「不惑」の年に、グローバルガバナンスの羅針盤はどの方向を指すのでしょうか。

 

1.2020年までの実現を目指すややゆとりのある社会のこと。エンゲル係数では、17年に富裕レベルに到達。

2.改定後の関税率は、それぞれ、25%20%から15%、平均159%から71%。

3.直近では、今年4月開催されたボアオアジアフォーラムで、習近平国家主席が、改革開放の深化拡大として、市場参入の制限緩和などとともに輸入の積極拡大を強調。

4.契約準備中を含めると、101カ国地域の約1800社(5月2日の人民網)。 

5.中国、ロシア、インドなどの途上国が主要加盟国。

 

 

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