「一帯一路」呼び掛け 習主席 欧州3国訪問

2019-05-08 20:23:08

=()国際貿易投資研究所(ITI)チーフエコノミスト 江原規由

2019年の3分の1が過ぎようとしています。この間、2月の伝統的な祝日の春節(旧正月)、中国経済・社会の一年の計となる3月の「両会」(全国人民代表大会と中国人民政治協商会議) 、アジアと世界の関係を語り合うボアオ・アジア・フォーラム(3月末、海南省ボアオ)など多彩な行事と国内会議、国際会議が続きました。さらに、習近平国家主席の今年初の外遊だった3月末の欧州3カ国(イタリア、モナコ、フランス) 訪問がありました。4月末には、第2回「一帯一路」国際協力フォーラムが開催されます。こうした一連の行事に対する世界の反応を見ていると、これまでの「中国への関心」から、「中国への期待」へと変わりつつあることが分かります。

 

国際色豊かになった春節

 例えば、春節は国際色がさらに豊かになってきました。ニュージーランドではアーダーン首相がチャイニーズ・ニューイヤー・フェスティバルに出席し、華人たちのニュージーランドの発展への寄与を高く評価したと報じられています(人民網2月3日)。このほか、春節への祝賀を表明する海外要人のニュースは枚挙にいとまなしです。

 一方、中国では、親が子どもの家に赴き春節を過ごす「逆行」現象がトレンドになったり、「逆方向の春運」(注1)が大幅に増加するなどの変化が生まれたりしています。春節という中国の伝統・文化がさらに国際化し、現地に根付きつつあるところに、世界の中国に対する関心の高さと期待のほどが感じられます。

 

ハイクオリティーの発展

 第13期全国人民代表大会(全人代、日本の国会に相当)で世界が注目したのは、政府活動報告で、①今年の経済成長率予測を6・0~6・5%と近年ではこれまでになく低く設定したこと②新たに外商投資法を可決し、20年1月1日より施行されることなどが指摘できます。

 前者は、いわば、中国経済が本格的なダイエット&フィットネスに入ったことを高らかに宣言したといえます。すなわち、中国は量的、速度重視の成長からイノベーションに基づくハイクオリティー(中国語では高質量)の発展を図ることになったのです。例えば、供給側(サプライサイド)構造改革の徹底、減税・料金引下げ、行政簡素化、国有企業改革の深化、個人消費促進策、貧困対策強化など。

 後者は、ぜい肉を削り筋肉をつけるフィットネス、いわば、筋肉づくりといえるでしょう。その代表が外商投資法の制定ということになります。1978年からの改革開放により、中国は世界第2位の経済大国、世界の工場として世界経済におけるプレゼンスを大いに高めてきました。この点、外資企業に中国市場を段階的に開放してきたことによるところが大きかったといえるでしょう。今回の外商投資法は、そんな過去の経験を、次元を変えてもう一度再現し、外資企業との新たなウインウイン関係を構築しようとの意欲が感じられます。

 その外商投資法は、中外合資経営企業法(79年)、外資企業法(86年)、中外合作経営企業法(88年)の外資三法を一本化したもので、国内外情勢の変化に対応させた措置といえるでしょう。その特徴として、①対中投資における外国人投資家への制限緩和および中国人投資家と同等待遇の付与②外国人投資家への投資機会(ハイテク分野、製造業など)の拡大③対中投資における信頼感の強化、などが指摘できます。この点、商務部(省)の王受文副部長(副大臣)は、「外商投資法は外資企業に参入前内国民待遇や対中投資のネガティブリスト管理制度を確立した」と前置きし、さらに、「中国では外資企業が政府調達などに十分参加できない、地方ではよく技術開示や企業への譲渡が求められるなど知的財産権の保護が不十分であり、外資企業は不利益を被っているとの不満をよく耳にするが、外商投資法は公平な競争環境を整えた」と、強調しています(注2)。

 サクラ咲く3月下旬、龔正・山東省長をはじめとする同省ミッションが来日し、東京で山東投資合作交流会が開催されました。会場は日本企業関係者を中心に満員御礼の盛況でした。山東省と日本との経済交流はすでに密接なものがありますが、外商投資法の施行による投資協力拡大への期待が伝わってくるような雰囲気に会場は包まれていました。筆者は、これまでのように「投資商談会」といわず、「投資合作交流会」としたところに新鮮さを感じ、新時代の日中経済交流のあるべき方向を指し示しているようだと感じました。今後、中国からの対日投資も間違いなく増えるでしょう。そんな未来の双方向投資時代の到来を、投資合作交流会のタイトルは言い当てているようです。

 外商投資法の決定は日本の対中投資に弾みをつける一大事であることに違いはありません。また今後中国には、自由貿易協定(FTA)網の整備、とりわけ、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、日中韓FTAなどで日本と連携してこれを実現させ、さらに、一帯一路で経済交流の新たな機会拡大を創出するなど、中国が第三国投資の拠点となるような大胆な改革開放の深化、さらなる法整備を期待したいものです。

 

パリで3月26日に開かれた中仏グローバルガバナンスフォーラムの閉幕式には、習近平主席とマクロン大統領に加えて、ドイツのメルケル首相、欧州委員会のユンケル委員長が参加し、保護主義の台頭、グローバルガバナンスのあり方などをめぐって4者会談を行った(新華社)

 

「一帯一路」がキーワードに

 ボアオ・アジア・フォーラムのテーマは、「共同運命、共同行動、共同発展」でした。60余りの国から2000人以上が参加。議論の中心は中国経済、とりわけ、「一帯一路」に関するものが多く、「一帯一路」の進展でユーラシア大陸が経済交流の新たなプラットフォームになりつつあることをほうふつとさせました。

 また、習主席の訪欧でも、「一帯一路」が共通したキーワードであったといえます(注3)。イタリアでは、両国は「一帯一路」共同推進に関わる了解備忘録に署名。イタリアは主要7カ国首脳会議(G7)メンバー国初の「一帯一路」参加国となりました。さらに、「一帯一路」事業の展開と密接に関わっている第2回中国国際輸入博覧会の主賓国となるイタリアで、この20年間最大規模となる769件の中国文物芸術品の返還があったことは特筆に値するでしょう。国家主席として初訪問となったモナコでは、習主席より、「モナコが『一帯一路』共同建設の国際協力に積極的に参加することを歓迎する」との発言がありました。また、フランスでは、習主席より、「マクロン大統領が中国側と『一帯一路』実務協力を実施する意向を繰り返し表明していることを称賛する」との発言があり、マクロン大統領からは、「第2回『一帯一路』国際協力サミットフォーラムと第2回中国国際輸入博覧会に積極的に参加したい」との表明があったと報じられています。注目点は、会見前にマクロン大統領から習主席に1688年にフランスで初めて出版された『論語導読』のフランス語原書が贈られたことでしょう。

 イタリアの「一帯一路」への参加表明、かつてのシルクロードを経由してフランスにもたらされたと思われる『論語』のフランス語版の贈呈、イタリアの中国文物芸術品の返還などは、東洋と西洋の新たな関係が構築されつつあることをほうふつさせてくれるようです。

 

(注1)若い世代が故郷に帰郷する従来のパターンから、自分が暮らす都市に両親・子どもを呼び寄せて春節を過ごすこと。

(注2)外商投資法は強制的な技術移転を禁じ、知的財産権保護を強化。

(注3)フランスでの中仏グローバルガバナンスフォーラムの閉幕式に習主席とマクロン大統領、メルケル独首相、ユンケルEU委員長が参加、保護主義の台頭、グローバルガバナンスのあり方などをめぐって4者会談が行なわれた。

 

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