花落的声音

2017-11-14 15:36:38

花が落ちる音

  家中养了玫瑰,没过多少天,就在夜深人静的时候,听到了花落的声音。起先是试探性的一声“啪”,像一滴雨打在桌面。紧接着,纷至沓来的“啪啪”声中,无数中弹的蝴蝶纷纷从高空跌落下来。
 家の中でバラを育てていると、数日もしないうちに、深夜に静まり返っているとき、花が落ちる音を聞いた。最初に探りを入れるようなパチンという音がして、雨粒が一滴テーブルに当たったみたいだった。続けてパチンパチンという音がして、弾に当たった無数のチョウが次々と空中から墜落してきた。
 
  那一刻的夜真静啊,静得听自己的呼吸犹如倾听涨落的潮汐。整个人都被花落的声音吊在半空,像听一个正在酝酿中的阴谋诡计。
  そのときの夜は本当に静かで、自分の呼吸の音が潮の満ち引きのように聞こえるほどだった。人ひとりが花の落ちる音によって丸々中空につるされ、醸成されつつある陰謀を聞いているようだった。
  
  早晨,满桌的落花静卧在那里,安然而恬静。让人怎么也无法相信,它曾经历了那样一个惊心动魄的夜晚。
 明け方、テーブルいっぱいに落ちた花が静かにそこに横たわり、安らかで落ち着いていた。それらが、あれほどまでに手に汗握る夜を経験したとは、全く信じられなかった。
 
  玫瑰花瓣即使落了,仍是活鲜鲜的,依然有一种脂的质感,缎的光泽和温暖。我根本不相信这是花的尸体,总是不让母亲收拾干净。看着它们脱离枝头的拥挤,自由舒展地躺在那里,似乎比簇拥在枝头更有一种遗世独立的美丽。
 バラの花びらは、落ちてもいまだみずみずしく、脂のような質感を持ち、シルクのような光沢と温かさを持っていた。私はこれが花の遺体であるとはまるで信じず、いつも母が片付けようとするのを許さなかった。それらが枝の窮屈さから逃れて、自由にのびやかにそこに横たわっているのを見ると、枝を取り巻いているよりも、一種の世間離れした、自立した美しさがあるようだった。
 
  这个世界,每天似乎都能听到花落的声音。像樱、梨、桃这样轻柔飘逸的花,我从不将它们的谢落看作一种死亡。它们只是在风的轻唤声中,觉悟到自己曾经是有翅膀的天使,便试着挣脱枝头,试着飞……   
 この世界では、ほとんど毎日花の落ちる音を聞くことができるようだ。サクラ、ナシ、モモのような軽く柔らかに散る花は、それらが散るのを一種の死であると私は考えたことはない。それらは風が軽くうなり声を上げる中で、自分がかつて羽根を持った天使であったことを思い出し、枝から抜け出して、飛び立とうとするだけなのだ。
 

   有一种花是令我害怕的。没有任何预兆,在猝不及防间整朵整朵任性地鲁莽地骨碌碌地就滚了下来,真让人心惊肉跳。

  私を恐れさせる花もある。いかなる予兆もなく、虚をつかれて身構える間もなく、一輪また一輪と丸ごと、気ままにがさつに、くるくると回って落ちて来て、人を驚かす。  

 
  曾经养过一盆茶花,就是这样触目惊心的死法。我大骇,从此怕茶花。怕它的极端与刚烈。不知那么温和淡定的茶树,怎会开出如此惨烈的花。  
 かつてツバキの花を育てたことがあり、これはまさにこのように心を乱す死に方をする。私は驚き、このときからツバキを恐れるようになった。その極端さと激しさを恐れたのだ。あんなに優しく穏やかなツバキの木が、どうしてこんなに凄惨な花を咲かせるのだろうか。  
 
  只有乡间那种小雏菊,开得不事张扬,谢得也含蓄无声。它的凋谢不是风暴,说来就来,它只是依然安静温暖地依偎在花托上,一点点地消瘦,一点点地憔悴,然后不露痕迹地在冬的萧瑟里,和整个季节一起老去。
 田舎に咲く小さなヒナギクのような花だけが、派手さもなく咲き、音も立てずにひそかに散る。これがしぼんで落ちるのも、嵐のようににわかにやって来るのではなく、いつも通りに、静かに温かに花床に寄り添っていて、少しずつ痩せて、しぼんで、そののち跡形もなく冬の枯れ野の中で、一つの季節とともに老いてゆくのだ。

 节选自张爱玲散文《花落的声音》

    張愛玲のエッセイ『花が落ちる音』より一部抜粋

 

 

翻訳にあたって

 張愛玲(19201995)は戦時下の上海で活躍した女性作家で、魯迅と並び評されるほどに海外における評価が高い。作品に『傾城の恋』、映画『ラスト、コーション』の原作『色、戒』などがある。今回紹介したものも、彼女らしい華麗さのある独特な感性をもつ作品だ。(福井ゆり子)

   

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