お茶

2018-04-28 14:07:57

藍草青=文 砂威=イラスト

 

 張さんはお茶好きで、毎日出勤するとまずお茶を入れ、それから新聞を読み、そして仕事にとりかかる。

 張さんが飲む茶葉は自分で買ったもので、とても高価なものだった。もちろん事務室には経費で買った茶葉もあったが、その茶葉を張さんは気に入らず、彼の言葉を借りて言えば、「人様にたかるつもりはない」。

 張さん以外の事務室の人はお茶を飲まなかった。経費で買った茶葉は、客が来た時だけ使われるものだった。

 しかし、事務室にやって来る客には、公的な用事の人も、私的な用事の人も、知り合いも、見知らぬ人もいた。上司や同僚の親戚や友人がやって来ると、経費で買った茶葉はあまりおいしくないのであまり手が伸びず、同僚たちは自然と張さんの茶葉を使おうとした。張さんの茶葉は事務机の左側の引き出しに入っていて、鍵もかけていないので、取り出しやすく、またおいしく、さらにこれが肝心なのだが、張さんは気前のいい人だったので、事務室に客人が来ると、経費で買った茶葉が使われなければ、張さんの茶葉が登場した。当初、張さんは気にしていなかった。何と言っても人が彼の茶葉を飲むということは、彼のお情けを受けていることになるからだ。茶葉はお金で買えるが、人情を金で買うのは難しい。こう考えると、張さんはとても寛容な気分になった。

 しかしそれが長く続くと、問題が発生してきた。張さんが居る時、茶葉を使いたい人は、声もかけず、自分で勝手に引き出しを開けて取っていく。張さんが居ない時、茶葉が使われても、後で一声かけることもしない。「茶を飲むのはいいが、声くらいかけろよ、俺の情けで使わせてあげているんだから」と彼はひそかに思っていた。

 数日続けて、張さんがお湯しか飲んでいないことを発見した事務室の人は、奇妙に思った。張さんは、「この間、自分くらいの年になるとあまりお茶を飲み過ぎるのは良くないという記事を見て、仕方なくお茶を我慢しているんだ」と言った。言い終えるなり、張さんは手を伸ばし、引き出しから茶筒を取り出して、「ここにまだ少し茶葉はあるから、必要な人は自由に使ってくれ」と言った。そこにいた数人の同僚は声をそろえて、「張さん、悪いね」と言った。

 張さんは仕事を終え、家に帰るなり、すぐさまおいしいお茶を一杯入れたのだった。

 

 

翻訳にあたって

 中国では、事務所などで手軽にお茶を飲む場合、コップに茶葉を入れ、ポットのお湯を注ぎ、茶葉が開いて沈むのを待って、茶葉をうまく避けながら飲み、お湯が減ったら継ぎ足してそのまま飲み続ける。いいお茶ほど味が長持ちするので、同じ茶葉で一日持たせることも可能だ。

 私が最初にこの文章を読んだ時、公の経費で買ったお茶を、私用でやって来たお客様に出すのははばかられるため、みんな張さんのお茶を使うのかと思ったが、実際には、経費で買ったお茶は美味しくないので、みんな張さんのおいしいお茶を使ってメンツを立てるという内容になっている。日本人的発想による勘違いの典型的な例で、日中のお国柄の違いが良く分かる文章とも言えるだろう。

 最終段落の「老,你真意思」は「張さんはさすがだね」などと褒めたたえたというのが正確な訳だが、日本的な会話の流れとしては、張さんの言葉に対し、「悪いね」とか「申し訳ないね」と応じるほうが自然だろう。   (福井ゆり子)

 

 

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