たった一つの手抜かり

2019-07-09 16:20:20

黄健=

砂威=イラスト

 

 今日の午後、局で植樹活動が行われる。今回の活動は市が統括・組織するもので、われわれの局には200株の苗を植える任務が与えられた。局長は、自らが音頭を取って今回の活動を行うので、全職員が参加するようにと命じた。

  こうした活動にはまず下準備が必要だ。きちんとした下準備は、総務部にとって他に押し付けることができない仕事である。ましてや今回は局長と数人の副局長が植樹に参加するのだから、軽んじるわけにはいかず、少しも手を抜けない。私はすぐさま準備に取り掛かった。

  植樹だから、鉄のスコップ、バケツは当然欠かせない。植樹は力仕事だが、みんな普段はぬくぬくと暮らしているので、柔な手をしていることだろう。鉄のスコップのようなやたらと重い物を持って、万が一水膨れでもできたらまずい。だから、軍手もしっかり準備しよう。時は春も盛りの3月で、ぽかぽかと暖かく、日差しは強烈とはいえないが、みんな普段は空調の効いた部屋にいるので、外で風や日にさらされることは少ないに違いない。長い時間いると耐えられなくなるだろうから、日よけの帽子をかぶると少しは楽になるだろう。

  さらに、みんな普段は力仕事をしないから、少し動けば汗をかき、喉が渇くだろうから、ミネラルウオーターも数箱持って行かねばならない。そうだ、ハッカ油も持って行こう。熱中症の人が出たら役に立つ。さらに植樹の前に、局長はきっと「重要なお話」をするだろうから、拡声器も持って行かなくては。私はリストをつくり、何度も考えて、持って行くべきものを記し、お店に出掛けては必要なものを一つ一つ買って来た。

  午後の出発前、私は人に頼んで準備したものを全て台車に乗せてもらい、綿密にリストともう一度突き合わせてから、ようやく安心して出発した。目的地に着くと、案の定まず局長が話を始め、私はやっぱり先見の明があった、拡声器は役に立ったとひそかに得意がった。

  10分後、局長の「植樹活動を始める!」という命令とともに、私が道具を一つ一つ配り終えると、誰かが突然、「木の苗は? 持ってきたのかい?」と聞いた。私はその瞬間、冷や汗でいっぱいになり、振り返って局長を見ると、局長は冷ややかな目で私を見つめており、私は力いっぱい自分の頬を殴った。「しまった! 他の物の準備に追われて、木の苗を忘れていた。200株の木の苗は局の倉庫の中だ!」

 

翻訳にあたって

 タイトルの「百密一疏」とは、緻密に考えた中に偶然わずかなミスが出ることを言う。「、粮草先行」は、「兵馬が実際に動かないうちに、食糧や餌などを先に動かしておく」、つまり、何かを実際に始める前に、先にきちんと準備をしておくことを指す。中国で「公室」というと、普通はオフィスや事務室のことを意味するが、この場合は日本では総務や庶務に当たる管理事務を取り行う部署のことを指している。「油精」は日本でいうハッカ油のことで、緑色をしたオイルで、皮膚に塗るとすっとする。中国ではどの家庭にもある常備薬といえ、消炎作用があり、頭痛緩和、痛み止め、かゆみ止め、酔い止めなど、さまざまな用途に使うことができる。(福井ゆり子)

 

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