肖寧嘉=文
砂威=イラスト
歓笑鎮(中国の行政区画の一つ)で、20歳の女の子のように若々しく、顔には一本のしわも無い60歳の婦人がいるという大スクープが報じられた。人々は口々に「整形じゃないの?」「整形の専門家が見たけど、整形じゃないんだって」「そんなはずはないだろう。60歳なのに20歳にしか見えないなんて、あり得ない」などと言った。
テレビ局のキャスターが、今その60歳の婦人にインタビューしているところだ。「あなたの顔にはどうしてしわがないのですか?」婦人は、「私が10歳の時、30そこそこの母は毎日笑っていたために、顔中しわだらけなのを見て、その時から、私は母みたいにはならないと決心し、10歳の時から今まで笑ったことがなく、それが私にしわができない秘密なのです」と答えた。
キャスターは注意深くその婦人の顔を観察したが本当にしわ一つなかった。キャスターは、「つまり、あなたは50年間笑ったことがないということですね。どうやったらそんなことができるのですか。笑わないなんて、みんな笑うのが好きな歓笑鎮では、ほぼ不可能に近いのでは?」と尋ねた。婦人は「最初はとても難しかったです。周りの人がみんな笑っているのに、私だけが笑わないなんて。でも、心に大きな目標がある時には、頑張れるものです」と答えた。
キャスターはしきりに感心し、「本当に驚きです。整形よりも効果があるなんて。私が60歳の時、今のままでいられれば、どんなにいいでしょうか」と言った。
その婦人は有名になり、広告会社が次々とやって来て、彼女を広告や雑誌の表紙に使ったので、婦人はたっぷりお金を稼いだ。
間もなく、歓笑鎮の人はみんながあまり笑わなくなっていることに気付いた。以前は町を歩くと、「ワッハッハ、ハハハ、クックック」という笑い声を聞くことができたのに、今ではそうした笑い声をまったく聞くことができなくなったのだ。たまに大人が子どもに、「また笑って。大人になってしわだらけになったら、笑っていられなくなるわよ」と叱っているのを聞くこともあった。
その後、歓笑鎮の人は皆笑わなくなった。歓笑鎮の人は、笑わなくなったら、顔のしわがどんどん減り、皮膚が引き締まって、とても若く見えることに気付いたのだ。歓笑鎮の人は喜んだが、当然うれしくても笑うことはできなかった。
それから何年もたち、歓笑鎮の人々は皆とても若く見え、顔にはしわもなかったが、ただ玉にきずなのは、歓笑鎮にはもはや60歳以上の人はおらず、多くの人が60歳になる前に亡くなることだった。
歓笑鎮は以前は有名な長寿鎮で、100歳以上生きる人も十数人いた。しかし、今なぜそんなに寿命が短くなったのか。鎮長はどれほど考えても分からなかった。鎮の医者はその理由を見つけ出すことができなかったので、鎮長は仕方なく医学の専門家を外部から呼んで来た。
専門家は念入りに歓笑鎮の人々を検査した後、残念そうに「機器での検査では何の原因も見当たりません。しかしちょっと不思議に思ったんですけど、あなた方の鎮は歓笑鎮というのに、私がやって来てからこんなに長い間、笑っている人を一人も見掛けないのはどうしてですか」と言った。
鎮長は、「笑うとしわになるからです。みんなしわをつくりたくないんですよ。だからわれわれ歓笑鎮の人々は長年笑ったことがありません」と言った。医者はしばらく考え、歓笑鎮のために処方箋を書いて、鎮を去った。鎮長が専門家の処方箋を開いてみると、そこにはただ一字、「笑え」とだけ書かれていた。
翻訳にあたって
中国人は日本人に負けず劣らず、「長寿の秘訣」「美の秘訣」を探ることに熱心だ。特に医食同源の考え方が広く浸透しているため、元気なお年寄りを見るとすぐ、「いつも何を食べているのですか」と尋ね、長寿の秘訣を手に入れようとする人が多い。「美中不足」は美しい中にもわずかに欠点があるという意味で、日本語の「玉にきず」に当たるが、より「玉にきず」に近い「白璧微瑕」という表現もある。「皱纹(=しわ)」は日本語では「寄る」「できる」という動詞を使うが、中国語だと「生じる」というニュアンスを持つ「长」という動詞を使う。(福井ゆり子)
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