中日企業、さらにAI交流を 情報のマッチングで共栄促進

2019-11-13 09:31:13

陳言=文

上海で今年8月に開かれた世界人工知能(AI)大会で、米国の電気自動車メーカー「テスラ」のイーロン・マスク共同創始者兼最高経営責任者(CEO)と、中国のEコマース最大手「阿里巴巴」(アリババ)の創始者・馬雲(ジャック・マー)の二人による、AI技術の将来を巡る対談があった。馬氏は国連の「デジタル協力に関するハイレベルパネル」共同議長も務めている。

対談ではまず、AIとは何かについてマスク氏と馬氏は自らの考えを披露した。マスク氏は、「AI」は中国語の発音で「愛」だと聞いたことがあると語り、満場の爆笑を誘った。一方の馬氏は、冗談めかして「私はAIはアリババ・インテリジェンスの頭文字だと思っている」と応じ、会場の雰囲気を盛り上げた。

そのAIの分野で、中日の企業がどのように提携するか。聞き慣れた話題かもしれないが、上海のAI大会を通じて、再びこのテーマに思い至った。

 

研究開発と生産に集中

 AI発展の道筋は、中国各地で大きなギャップがある。北京には数多くの大学、研究機関があり、当然AIの研究でも地理的に優位に立っている。また貴州省はここ10年、同産業重視を経てAIの発展が比較的速い。しかし、中国のその他の地域で、AI発展で優位な条件が整っているところは多くない。

 そんな中で、浙江省の杭州はここ数年かなり大きく変化している。アリババは創業当初の段階では規模が小さ過ぎ、上海では受け入れられず、やむなく杭州に移って来た。その後、同社は杭州で異例の急成長を遂げ、情報技術(IT)の分野における杭州の地位を一変させ、AI発展の基礎を築いた。しかし、今でも浙江省は近隣の上海や江蘇省と比べて、一人勝ちの浙江大学以外に国内で有名な大学は聞かない。

 上海AI大会と同じ頃、中日デジタルビジネス協会と日本貿易振興機構(JETRO)、それに東京大学と日本企業数社の関係者が、杭州にある北京大学IT高等研究院を視察した。研究院の院長特別顧問である杜軍博士(退職前はNEC中国研究院院長)が代表団に同研究院の現状を紹介した。

 ここには高文氏ら中国科学アカデミーの会員5人と米国科学アカデミーのジョン・ホプクロフト氏、元北京大学副学長の張国有氏らで構成するエリートチームがあり、AIの能力アップ(エンパワーメント)などの面で研究を深化させている。学術的な研究成果は、スマート製造業イノベーションセンターなどを通じて迅速に商品化している。同時に、ここの起業支援(インキュベーター)や産業ファンドなど一連のサービス施設は、成果の転換の面で促進役を果たしている。杭州に北京大学IT高等研究院を設立したことにより、杭州および浙江省のAIなどの分野における研究開発能力は向上した。それに加え、杭州にアリババがあることにより、今後当地のAI産業の強化に向けて、しっかりとした基礎がすでに構築されていると言える。

 上記の訪中団は杭州で、セキュリティーと交通安全分野の企業である大華テクノロジー社を視察した。日本のビデオ監視システムについて理解しているつもりだった筆者も、これほど多くの設備を見たことはなかった。画像処理の面では、杭州には大華だけでなく海康威視社もあり、こうした企業の存在や関連ソフトの開発、AIの応用によって、杭州のAIレベルはかなり上がってきている。

 

AI大会、日本企業はどこ?

 日本の訪中団は上海のAI大会も見学した。

 日本企業の出展状況は、ここ数年、貴州で開かれているビッグデータ博覧会と同じで、ほとんど見掛けなかった。ITやAI関連で発那科(ファナック)社のショールームを目にしただけだった。

 日本企業はITやAI分野で立ち遅れたのか? 代表団の専門家、企業家の数人と分析してみたが、決してそうではないという結論だった。日本は半導体生産やコンピューター開発、ITによる工業系制御システム、モノのインターネット(IoT)の具体的な運用などでは、非常に先進的な経験を持っている。にもかかわらず、中国のITやAI展開に日本企業はほとんど関心がないようだ。

 杭州の北京大学IT高等研究院で聞いた開発費や、大華で見た最新開発の製品のように、潤沢な研究開発費と常に繰り返す製品開発のやり方は、日本企業のように特定の分野でのスズメの涙ほどの研究開発費や、数年かけて一つの製品を開発するやり方とは異なる。開発費や製品の数量において、中国企業は絶対的に優位な立場に立っている。

 

8月下旬、上海の張江AI島を視察する中日デジタルビジネス協会訪中団(写真・筆者)

 

中日企業の「AI_DA」

 

 ITやAI分野で、日本企業と中国企業には行動パターンにかなり大きな相違があり、どのように中日企業間にパイプや連携の仕組みを構築するかが、大きな課題になっている。   中日デジタルビジネス協会の沈高平理事長は次のように考えている。もし、中日の企業間に相互の関連情報の交換ルートや製品マッチングのプラットフォームがあれば、多くの問題は自ずと解決される。

 

 例えば、日本では中小企業にAI導入の需要があるが、数多く複雑な需要であるために、その導入が難しい。しかし一方、大企業はAIの技術や製品を開発できる。ところが、日本の大企業の人的コストは非常に高く、研究開発の効果と利益の追求も明確なので、中小企業向けにAI製品を開発しようとすれば、ともすれば数千万円のコンサルティング料や研究開発費が必要となる。こうした費用は、中小企業は当然のことながら負担できない。

 

 「日本企業の需要と中国企業がAI研究開発における技術能力、経費・価格などを交流プラットフォームで公表すれば、日本の多くの中小企業がITやAIに求めている需要問題を解決できると思う」と沈理事長は語る。中日デジタルビジネス協会は、まさしくそうした方面の活動をしている。同協会のあっせんを通して中日双方の企業に交流と提携のチャンスを提供できる。もし関連ファンドの支援があり、資金面で保障されれば、中日企業はAIの分野での交流機会がますます増え、効果があれば大いに結構である。

 

 アリババ・インテリジェンスのAIではなく、もっと幅広い真のAIを用いてこそ、中日企業のAI_DA(あいだ=間)に冒頭で紹介したマスク氏の発言の「愛」という感情が生まれるに違いない。
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