ハイブリッドコーンの父 50年間人の4倍働き研究

2021-12-29 15:18:21

 

山東省萊州市の自社のトウモロコシ畑で新品種の成長をチェックする李氏

 

コンパクト型(実が詰まっているトウモロコシ)ハイブリッドコーンの分野で卓越した貢献を果たした李登海氏(72)は、有名なハイブリッド米の専門家である故袁隆平氏と並んで「南の袁、北の李」と称えられている。収穫量の多いトウモロコシを栽培するために、李氏は中国工程院の院士に選出される貴重な機会を捨て、さらには自分が創設した上場企業の董事長職を辞し、チームを率いてハイブリッドコーンの研究開発の第一線で一心に打ち込んでいる。

「時間が惜しいので、生きている限り学び、働きます。この50年間、週末も祝日も過ごさず、8時間労働制を課すこともなければ、定年退職することもなく、来る日も来る日も夜が明ける前に畑に出る生活でした。私たちは農業科学研究の第一線で闘い、1年で4年分働かなければなりません。院士の肩書きがなくてもそのレベルの研究力があれば十分です。実務の方が自分にはより向いていると思います」

高収量化トウモロコシ試験畑でチームのメンバーとトウモロコシの成長を確認する李氏

 

農家の視点で科学的に栽培

知識人の家庭に生まれ、正規の高等教育を受けた袁隆平氏と違い、李登海氏がハイブリッドコーンの研究開発を始めた時は、中学校卒業の学歴しかない普通の農家だった。子どもの頃は凶作で木の皮や草の根、水草を食べたこともあり、飢えの記憶が骨身に染み付いている。1966年に李氏は中学を卒業、故郷に戻って農業に従事した。当時、李氏がいた山東省萊州市の後鄧村の1ムー(約0067)当たり収量は小麦115余り、トウモロコシ135余りで、収穫しても村人の腹を満たせる程度で収入にならず、村は貧困のせいで有名だった。

72年、23歳の李氏は村の農業科学隊長に就任し、村の人々がたくさんの作物を収穫し、おなかを満たせる手助けをすることを決めた。その年、市内の農業専門家が村へ調査に来た際、李氏が彼らの持っていた資料を読んだところ、そこにはこう書かれていた。「米国の農家ウォレス氏が革命的な種苗会社を設立、春まきトウモロコシの1ムー当たり収量1250を達成」。このニュースに打ち震えた李氏は、「米国の農家ができるなら、中国の農家にもできるはずだ」と決意し、「中国産トウモロコシの高収量化の道を切り開き、世界のトップレベルに追い付き追い越す」という人生の奮闘目標を立てた。

収穫量増加という難関の克服は、中学卒業の学歴しかない農家にとって言うのは簡単だが実際は至難の業だった。日中、李氏は数人の助手と共に畑に入り、溝切りや種まきの方法、栽植密度、有機肥料と化学肥料の使い方などを研究し、夜は灯油ランプをつけて品種改良関連の書籍を読みあさり、学びながら試行錯誤を重ねた。74年に推薦によって山東省の萊陽農校(現在の青島農業大学)に入学し研究の高度化を求めた。実践において問題を抱えていた李氏は、1年間で土壌肥料学、作物栽培学、遺伝育種学など12の科目を履修し、その後のハイブリッドコーンの品種改良活動を展開する基礎を固めた。

 

317日、海南省の三亜南繁拠点で収穫したトウモロコシの生育状況を記録する研究者たち(cnsphoto)

 

記録更新の陰に苦労あり

中国はトウモロコシの栽培大国だが、長年栽培してきたのは主にフラット型(葉が平らなトウモロコシ)だった。李氏はフラット型トウモロコシを何年も研究し、このハイブリッド品種では1ムー当たり収量700の限界を突破するのが難しいことに気付いた。そこで発想を変え、葉が上向きで密植栽培に適したコンパクト型ハイブリッドコーンの新品種を選抜育種した。79年に「掖単2号」の1ムー当たり収量が776に達し、フラット型ではずっと越えられなかった700の大台を突破、中国のハイブリッドコーンがフラット型からコンパクト型に移行する歴史的転換を実現し、中国産トウモロコシの高収量化の道の第一歩を踏み出した。

その後40年余り、李氏のチームが育成するハイブリッドコーン品種は次々に新記録を打ち立てた。89年、「掖単13号」が夏まきトウモロコシで1ムー当たり収量109629を達成し、世界記録を樹立。2005年、コンパクト型スーパーコーン新品種が1ムー当たり収量140286を達成し、夏まきトウモロコシ収量の世界記録を塗り替える。13年、「登海618」種の春まきトウモロコシが新疆ウイグル自治区で1ムー当たり収量151174を達成。中国産トウモロコシの高収量化の道がますます広がっていった。

李氏が育成したトウモロコシの品種は、最も多い時期で中国のトウモロコシ栽培面積の432%を占めたこともある。これまで、彼が率いる科学研究チームは90種余りのコンパクト型ハイブリッドコーンを世に送り出し、中国産夏まきトウモロコシの収穫量記録を7度も塗り替え、2度世界記録を更新した。「登海」シリーズの品種は中国の1ムー当たりの人口扶養力を1人から45人に高めた。

これらの成果の陰には、李氏とそのチームの長年にわたる懸命な働きと献身がある。李氏のチームが研究員を採用する際、最初に見るのは苦労をいとわない人材であるかどうかだ。彼らは普段、早朝4時半に畑に出て、真昼の日差しが最も強い時間帯に授粉し、夜8~9時に撤収する。東北拠点では春まき、山東拠点では春まきと夏まき、広西拠点では春秋まき、海南拠点では四季まきという具合に李氏のチームは渡り鳥のように全国を飛び回り、毎年計9回の種まきで3、4品種の選抜育種を終わらせなければならない。これは中国北部で121年かかる科学研究業務を42年で終わらせたことに相当する。

 

スタッフとハイブリッドコーンの品種をより分ける李氏(左から2人目)

食事の重点を量から質に

トウモロコシは現在、中国で栽培面積が最大で収穫量が最も多い農作物であり、稲や小麦を超えている。しかしその一方で中国が今も海外から大量のトウモロコシを輸入していることに疑問を持つ人は多い。税関総署の最新データによると、中国の今年第1四半期の食糧総輸入量は3760万6000に上り、前年同期比623%増。そのうち、トウモロコシの輸入量は672万7000で、4378%増だった。

中国には悠久の水稲栽培の歴史があるが、トウモロコシの起源は南北アメリカ大陸といわれており、中国人がトウモロコシを栽培した歴史は500年に満たない。そのため、トウモロコシの種子という資源が豊かではなく、ハイブリッドコーン研究の歴史も欧米諸国に遅れている。しかしトウモロコシは社会経済の発展にとって非常に大切であり、米が中国人の「おなかを満たす」という問題を解決するというなら、トウモロコシは人々が「おいしい食事」を食べるための基礎だ。

「トウモロコシは食料でもあり、飼料でもあります。私たちが口にする卵、肉、乳はどれもトウモロコシの収穫量の上に成り立っています。そのため、トウモロコシは中国の経済と社会の発展、人々の生活の質の向上にますます貢献しています。『おなかを満たす』という問題をほぼ解決した今、次は『おいしい食事』という課題に取り組まなければいけません。国家が発展し、人々が素晴らしい生活を送る上で、トウモロコシの生産は必ず保障しなければなりません」

この約50年間、李氏のやったこと、考えたこと、夢見たことはトウモロコシのことでいっぱいだ。今ではさらに高い目標を見据えている。「現在、中国産トウモロコシの品種改良は世界でも上位にいますが、最高レベルの国とはまだ差があります。私たちは中国産トウモロコシの高収量化の道を切り開く上である程度の成績を収めたにすぎず、世界に追い付き追い越すためには引き続き努力しなければなりません。さらに投資し、イノベーションし続け、市場競争力が高いトウモロコシの新品種を開発する必要があります。トウモロコシの1ムー当たり収量の記録更新はとどまることなく、私たちのトウモロコシは1600を超え、今後10年で2000の大台を突破するよう全力で取り組みます」

「これからさらに20年間励み、研究開発とイノベーションの分野で6080年分の業績を挙げれば、それは来世の分まで働いたことになります」(高原=文  新華社=写真)

人民中国インターネット版 2021

 

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