波乱に満ちた人生、時空を超えた感動 漫画『血と心』 創作談

2019-11-14 09:19:55

 

対談:王衆一(企画)×李昀(作画)

 

 

王:新中国成立70周年の熱烈な祝賀ムードの中、本書にようやくお目見えすることができましたが、いまどういう気分ですか?

:原稿はもともと国慶節(101日)前に完成していたので、これで70周年祝賀大会前に、お祝いムードをより盛り上げられればと思っていましたが、いろいろあって国慶節後に出版することになり、逆にこのムードを借りて読者に披露することになりましたね(笑)。

:李さんはこれをチャンスと捉えて、70周年祝賀大会の前に砂原さんが駐日中国大使館で孔鉉佑大使から記念章を授与されたシーンを描き加えましたね。これで最新の出来事がタイムリーに作品の中に盛り込まれました。

:王さんのヒントにインスピレーションが湧いたので、より工夫を重ねたわけです。受賞シーンの後に、本書も漫画の中に登場しています。普通なら描きたくても描くきっかけがないですね(笑)。

 

 

:確かに。この物語自身にも運命とも言える偶然に満ちています。李さんの素晴らしい筆致も加えて、不思議なことに満ちあふれた本となったわけです。

:完成すると今度は、企画当初に立てた志は漫画によって上手に表現されているのかと考えて、落ち着かなくなってきますね。

:この漫画は斬新な形で展開されていると思います。私は連環画()を読んで育った世代ですが、漫画なら表現方法はもっと豊かだと思ったので、李さんがこの物語を漫画で描くことに非常に期待していました。このような波乱万丈な物語を漫画にすれば、中国でも日本でも多くの人々に読んでもらえるでしょう。企画段階で、一人の人間の運命を通して大きな時代の変化をまとめるという、感動的で複雑なストーリーの制作を決心しましたが、正直言って確信が持てませんでした。今できあがった原稿を読んで、とても満足してほっとしました(笑)。

一つの物語を1ページごとのイラストで表現し、その中に文章を書いた絵本のような漫画)

:最初の打ち合わせ時点で、物語に共感を覚えました。今回、私に声をかけてくれた王さんは本当に先見の明があります(笑)。

 

:プロジェクト立ち上げの段階で真っ先に思い付いたことが、李さんに描いてもらうことでした。以前『人民中国』で李さんが連載していた『マンガキャラ 中国の諸民族』で、キャラクターを緻密に表現する技法が非常に印象に残っています。

:漫画家人生で一番大変な仕事でした。しかし、自分に挑戦し続け、多くのことを学ぶことができ、振り返ってみると喜びもひとしおです。特にありがたかったのが、作業をしながらいつも王さんのサポートを受け、人物と時代に対する理解を深め、何度も修正を繰り返して、作品を仕上げられたことです。

:一個人の人生を通して叙事詩的な展開を表現するという作業には、壮大な歴史を身近な感動にさせる才能が求められます。漫画を読んで、李さんは本当にそういう才能の持ち主だと分かりました。

:いえいえ。ですが、新中国成立70周年という節目に間に合わせるため、本当に全力で臨みました。今回は慣れていた従来のやり方を変えようと、個性的な登場人物のキャラデザに自分なりの試みを加えました。特に歴史の細部を描くことに当たっては非常に苦労しました。多くのご指摘をくださった劉徳有さんには本当に感謝しています。また、劉さんのアドバイスを巡って、王さんから具体的な修正方法をもらえて助かりました。

:この物語は、日本人の少年が近代中国の革命の中で、自分のアイデンティティーを失い、また見いだそうとするストーリーですね。主人公は中国の農村で生活し、解放軍に入隊し、そして人民空軍の航空学校の日本人と共に暮らしました。マイノリティーとして、彼はいつも皆とは違うという感覚を抱き、その中で己を見つめ直しながらも、常に異色な存在でした。先ほど、最初の打ち合わせ時点で物語に共感を覚えたとおっしゃっていましたね。この物語には李さん自身と何か共通点があるのではないでしょうか?

李:確かに、砂原さんの人生と自分自身の人生には共通点があります。私も家族構成が少し複雑で、ロシアの血も引いています。小さい頃は山東省で育ち、その後北京に進学し、現在も北京で暮らしています。大学では環境芸術デザインを専攻していましたが、漫画やアニメが好きだったので転身し、大学で学んだ多くのことを捨てました。こうした経験から、これまで積み重ねてきたものにいつか変化が起こると感じており、また自分の文化や考え方と全く異なる人といつも付き合ってきました。自身も他者との違いを感じていたので、砂原さんのお話にはすぐに引きつけられました。砂原さんは元々日本の軍国少年でしたが、時代に翻弄されて中国の農村で暮らすようになりました。それから解放軍戦士となり、そして日本に帰国します。大きな時代的背景において、個人の運命がドラマチックに展開してきたことに共感し、このストーリーを描く衝動が沸き起こりました。

 

 

王:他者を感動させる作品を描くには、まず自分自身が共感しなければいけないということですね。砂原さんと会うたびに話が非常に弾んでいたと記憶していますが、90歳近くの高齢者との交流でジェネレーションギャップや、砂原さんに現在の人々との違いを感じたことはありますか?

:砂原さんに詳細なお話を聞くために会って話をすればするほど、どんどん共感を深めていきました。砂原さんの気持ちや境遇にジェネレーションギャップを感じることはありませんでした。しかし細かいところに対する見方や表現に対して、理解するのに苦労しました。砂原さんが語る歴史的事件や当時の環境の中を生きた人間の考え方など、私にとって理解しにくい部分は確かにありました。

:李さんにとっては大きなチャレンジでしたね。セリフを書く際は当時の歴史的背景をリアルに再現するために非常に苦労したと聞いています。ずいぶん昔のことなので、一部の言葉遣い、例えば当時の解放軍における会話の慣習的表現や、当時の歴史的背景に基づく一部表現にはやはり時代を感じます。しかし李さんは、最大限の誠意と努力をもってこの作品を完成させてくれました。この点に関しては頭が下がる思いでいっぱいです。作品はストーリー全体の一貫性を保つため、フィクション化を注意深く行ってくれていますが、基本的には砂原さんが語った歴史的事実に基づいて丁寧に再現しているので、リアリティは非常に高いです。人間関係についても過度な描写はせず、「等身大」の物語を誠実に描いてくれました。

:私自身、真実に基づいて再現するという約束を果たそうと努力しました。だいたい95%ぐらいのリアリティだと言っておきましょうか(笑)。

95%でも非常に難しいですよ。新中国成立まもなく、当事者がまだ健在の時に出た回顧録『紅旗飄飄』などにも、必要な芸術的加工が施されています。歳月がこんなに経った今日に、一人の口述に基づいて描いた漫画に95%の再現性があると自信を持って言えることが、この漫画の大きな特徴だと思います。

:ここまで来られたのも、王さんや劉徳有さんをはじめとした大勢の方々のご指導ご鞭撻のおかげです。

王:歴史に関する部分は、本当にいろんな工夫をして細かく描いていただきました。重大な歴史的事件では、自身の想像だけで描くのではなく、当時の写真を探し出して、それを参考にした上で芸術的加工を施してもらっています。太平洋戦争勃発、日本の敗戦などのよく知られたシーンが盛り込まれ、漫画の歴史的背景を説明する上で非常に説得力があります。

 

 

:古い写真や資料を大量に購入しただけではなく、専門的なブログ記事にも数多く当たりました。ミスや間違いがあるかもしれませんが、事実無根のフィクションや奇天烈なドラマのような手法を使って、歴史をむやみに改ざんするようなことは絶対に嫌でした。

:リアリティを再現する上で非常に工夫しながらも、漫画の表現技法はとても熟れていると感じました。例えば、主人公の心理状況は漫画ならではの形で上手に伝わってきました。主人公が孤独を感じている時、その苦悩が心の奥底で激しく動く感情や、意識の流れといった表現が極めて生々しく、読者も自然と李さんと共鳴することができるでしょう。これは、連環画では表現しきれないと思います。

李:これは漫画のメリットだと思います。いくつかのシーンでは、読者がいささかしつこく感じるんじゃないかっていうほど描いています。取材時、砂原さんが何度も感極まって、言葉を詰まらせたのがとても印象に残っていて、主人公の当時の極端な主観的感情や意識の動きを再現したかったので、大胆な試みをしたわけです。その試みが成功したかどうかは読者の方々に委ねますが、少なくとも私は心を揺さぶられました。中国や日本の友人に読んでもらいましたが、このような題材で漫画を描けることに多くの人が驚いていました。

:私も原稿を読んで感動しました。帰国する船に乗る砂原さんが、自分は何者かと考えて記憶がゆがんでいく様子や、悪徳地主に手酷く痛めつけられて意識が朦朧としている時の主観的な感覚などにはいずれも強い視覚的効果があり、読者の共感を呼び起こします。われわれも感情が極端な状態にある時にそのような心境に至ることがあるかもしれません。だから、このような主観的表現も真実味があり、人間の意識に合致しています。また、作品の最後の時空を超える描き方も感動的で、徐克(ツイ・ハーク)監督の『智取威虎山』(2014年)のラストを思い起こさせました。

:あの映画の、米国に留学した少年が数年後に帰国して、老人たちと一緒にご飯を食べている時に、老人たちが匪賊討伐部隊だった頃の若い姿に変わるというシーンは、観客の涙を誘いました。そのシーンは確かにヒントになりました。徐克監督には歴史や文化による隔たりがあり、自分には世代間の隔たりがあり、どちらもその隔たりを埋める努力をしています。作品では、歴史を描くとともに人間の感情も強調させようとしました。この作品に登場する革命の先駆者たちがもし今日まで生きていれば、70年に及ぶ新中国の発展をどのように見るのだろうかと考えた私は、若々しい姿の彼らが中国の今日の様相を目にするシーンを描きたいと思いました。このシーンを描いたことで願いが満たされ、喜ばしい気持ちになったので、とてもやり甲斐のある試みだったと思います。

:砂原さんの状況は普通の革命参加者と若干異なります。人民解放戦争に対し、彼は当初傍観者として、自分の経歴を通して当時の中国革命に共感します。革命時代の新中国はまさに青春時代にあり、新中国の初心とは、人々に素晴らしい生活を送らせ、公平と正義を追求することでした。砂原さんは自ら志願して入隊し、幾多の戦いを経験してきました。日本人の彼は、時代の流れに乗って、中国の大きな変化を目撃し、自身の価値観やアイデンティティーも根本的な変化が起こり、心を入れ替えて再出発しました。

:砂原さんは歴史の目撃者として革命に共感し、そして時代の流れに巻き込まれたのだと思います。

;しかし最終的に、部隊長から日本に帰るよう説得され、指示に従って軍服を脱いで帰国しました。日本に帰った砂原さんは、革命部隊で培った精神を頼りに、孤軍奮闘しました。それ以降、彼は海を隔てたところから新中国を見守るようになりましたが、時間の推移とともに、郷愁の念はますます強くなっていきます。このようなことを描いた物語は、これまでほとんどありませんでした。砂原さんは経験者であり、目撃者でもあります。一衣帯水の隣国にいたおかげで、彼の革命の初心はそのまま保たれたのです。

 

 

:砂原さんの当初の精神状態が終始保たれているばかりか、現在でも高まり続けているということが、十分に評価されるべき点だと思います。

:それこそが砂原さんの物語の特色です。新中国成立70年という節目に、この物語は新中国の来た道を生き生きとした形で説明してくれ、新中国の青春時代の初心を再現してくれています。

:砂原さんの物語を読むと、無垢な心を見つけられたかのような自己発見ができます。この物語は砂原さんの体験談であり、主観的な感情で満ちあふれていますが、客観的な視点で観察もしているから面白いのでしょう。

:私のような年齢の人間が読んでとても感動した点は、日本人の眼差しで物語を語っているので、中国革命を認識する上で独特な視点が提供されていることですね。当時の中国革命は中国の運命を変え、中国の問題を解決するための革命であるとともに、非常に包容性を持つ革命でもありました。主人公が最終的に、共産党が指導する解放軍を認めた極めて重要な原因は、当時の中国の革命が公平と正義の基礎に立つ、単純な民族主義を越えた革命であったためで、そこには貴ぶべき国際主義の精神が溢れていました。作品の中で、砂原さんが北京を離れる際に車窓越しに天安門を目にするというシーンがありますね。彼の目に飛び込んでくる「世界人民大団結万歳」というスローガンは、彼自身の立場とぴったり一致しています。実際、この言葉はまさに新中国の初心の一つです。天安門の両側に掲示されている「中華人民共和国万歳」と「世界人民大団結万歳」の二つのスローガンは、新中国の広大な志と世界的視野を表しています。今日中国が提唱している人類運命共同体は、まさにその延長だと考えられます。「天下をもって公と為す」「天下大同」という中国文化の中に脈々と受け継がれてきた思想が、一人の日本人が経験した物語によって示唆されているのです。

:中国は初心をずっと変えず、現在でもこのような国際主義の精神を持ち続けていますね。

:このような文化の力はアイデンティティーの異質性を強めるのではなく、最終的に全員が一つの共同体の中で自らの居場所を見つけることにつながります。

:砂原さんは日本人として、自らのアイデンティティーに戸惑いや苦しみがあったかと思いますが、最終的にそこから足場を見いだすことができました。砂原さんが日本人なのか、それとも中国人なのかというのは大きな問題ではないでしょう。最も重要なのは彼がこの国際主義の精神に感心し、その中から心の拠り所を見つけたことです。彼はこの精神を持つ人間であり、単にある国だけに属する人間ではありません。これこそ彼の一番すごいところだと思います。

:創作を通して、砂原さんの物語は今日の中日両国の若者にとってなにか普遍的意味を持っていると思いますか?主人公との共感でも共鳴でもいいですが、どうでしょうか?

:漫画の中でも私自身の認識について触れています。グローバル化が進むに伴い、人口移動はもはや珍しいことではなくなり、本籍地以外での教育や留学もますます便利になってきました。移動する生活が日常化した今日において、世界中の若者も砂原さんと同様の戸惑いを覚え、同様の苦境に立つことになると思いますが、似たような解決策を見つけ出そうとするでしょう。砂原さんの解決策とは、精神的な拠り所を見つけるというものでした。彼には素晴らしい信念がありました。では私たち若者世代はどうすべきでしょうか。この課題が取り上げられたことは、両国の若者にとって意味があるでしょう。ここでは答えは出せませんが、皆でこの課題に関心を持てば、より前向きな考えが生まれると期待しています。

 

人民中国インターネット版 20191114

 

関連文章