「あなたたちの敵はここにいません!」――80年前の1938年、凛{りん}とした芯の強い女性の声が、戦場に響き渡った。26歳のエスペランティスト長谷川テルは、日本軍の侵攻による中国の惨状を目の当たりにし、強く心を痛めた。そして、停戦と平和を訴えるために、武漢、重慶の戦場から電波を通して日本兵に心の声で呼び掛けたのだ。
その40年後、中日平和友好条約が締結。日中友好に命を捧げた先人をしのび、平和友好に対する信念を後世に受け継ごうと、長谷川テルの勇敢な一生がドラマ化された。森開逞次、福本義人両監督による栗原小巻主演の初の日中合作テレビドラマ『望郷の星 長谷川テルの青春』(1980年)である。
放送から再び40年近くたった今年、中日平和友好条約締結40周年を迎えた。この喜ばしい節目の年に、改めてこの作品の時代を超えた意義と今日における長谷川テルの精神の意味について問い直した。今回、長谷川テルとその夫・劉仁の墓参のために訪中した2人の関係者――長谷川テル役を演じた栗原小巻さん、長谷川テルの遺児・長谷川暁子さんを招き、日本中国文化交流協会専務理事の横川健氏と中日映画交流史の専門家劉文兵氏を交え、本誌編集長・王衆一が北京で話を聞いた。