ビタミン剤よりリンゴ
ある日私は、外国の大統領のお供をして、ある「郷」を見学しに行った。「郷」とは県の下にある行政単位で、この「郷」はわずか数年で貧困から抜け出し、豊かになった。
だが郷長さんはたくさんの数字をあげて、経済がいかに発展し、人々の生活がいかに改善されたかを次から次に紹介するばかりだった。数字を理解するのに忙しく、大統領一行は、こうした説明を聞いてもあまりよくわからなかったようだった。
その後で一行は二軒の農家を訪れた。二人の主婦が素朴な日常生活の話をしたが、かえって大統領はそれに興味津々。笑いの渦の中、次から次へと質問をし、最後には満足して引き揚げた。
外国の人に中国の状況を紹介するのに、大きくは中国の社会の進歩、経済発展、文化と伝統、都市と農村の様子、環境保護などがあり、小さくは、中国人の衣食住と交通手段、冠婚葬祭などなどがある。外国人はそれを聞いて、まるで主人が自分の果樹園から摘んできたリンゴをもらったかのように、大変興味を持った。
しかし、リンゴをわざわざジャムにしたり、砂糖づけやドライフルーツに加工したりしてから友人に贈るのが好きな人もいる。さらに、手軽さや効率を求めて、リンゴの中からビタミンCだけを抽出し、客に出す人さえいる。
こうすると、中国の豊富多彩で生き生きとした現実の話が、味気ない数字と政治的結論に変わってしまう。中国のすぐれた文化の姿が「中国文化は広くて深い」というような決まりきった数語にまとめられてしまうのだ。
新鮮なリンゴは美しくておいしく、栄養価が高い。友人に贈るには最高である。いっぱい手を加えたものが、生の味よりもっとおいしいとは限らない。多くの人はリンゴが食べたいのであって、ただのビタミンCを食べたいとは思っていない。あなただってそうでしょう?
趙啓正 1963年、中国科学技術大学核物理学科卒業。高級工程師などを経て1984年から中国共産党上海市委常務委員、副市長などを歴任。 1998年から国務院新聞辦公室・党中央対外宣伝辦公室主任。 2005年より全国政協外事委副主任、中国人民大学新聞学院院長。 |
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人民中国インターネット版 2009年5月