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東西文化の調和に尽力 書道家・芸術学者 王岳川氏

本誌特約ライター・李艶平

王岳川教授(本人提供)
2013年3月12日、両会(全国人民代表大会と中国人民政治協商会議)が開催されている北京の小雨が降りしきる春の午前、私は中国の著名な学者で北京大学の大学院で教鞭を執る王岳川教授を訪ねた。彼の書斎「天地斎」で、中国文化の紹介に尽力している王教授と文化対談を楽しんだ。

王教授は温厚で優しく、いつも温かい笑みを浮かべている。彼の学術研究の成果は顕著で、4巻セットの「王岳川文集」「発見東方」「文化輸出」「中国文芸美学研究」「書法美学」、4巻セットの「中国思想精神史論」「芸術本体論」「文芸学美学方法論」、9巻セットの「20世紀西方文芸理論叢書」などの東洋・西洋文化芸術研究に関する著作に加えて、さらに中国国内および海外の学術刊行物上に発表された学術論文も400本以上あり、まさに中国文化の世界化に力を注いでいる。

東西洋文化の対等な交流

グローバル化時代では、東洋と西洋の対等な交流が何よりも大切だ。王教授は1998年から2000年まで日本の金沢大学で客員教授を務めた。日本の西洋化と民俗伝統文化の保存が、彼に「文化的自覚、文化的自信」についての思考を深めさせた。

王維の詩

彼は常に追求し、探索を続けることにより、「発見東方」「文化輸出」「中国文化身分立場」「大空文明時代」「中国思想体系整体創新」などの新説を唱えた。この世界には、ただ西洋の法治精神だけでなく、東洋の道徳精神も必要であり、東洋と西洋の双方が互いに歩み寄り、理解を深めて調和するならば、共に発展していくことができる。中国には儒教、仏教、道教という三つの文化領域があり、儒教で強調されているのは「調和の境地」であり、その目的は安定した国の統治だ。道教では「大自然との調和」が強調され、物事を自然の成り行きに任せることに重きを置いている。その目的は修養を積むことだ。仏教では、「慈悲の境地」が強調され、その主な目的は心を癒すこと、つまり貪欲に加えて功利主義から覇権主義まですべての邪念を心から除くことだ。衝突が頻発し、競争が激化しているこの世界において、中国は「和美天下(平和で和やかな社会)」を提唱するべきだ。

中国文化が持つ「美」の精神

中国文化の精神について、王教授は深い解説をしている。中国の精神では、「徳」が強調されている。儒教の経典の一つである『大学』では、「大学之道,在明明德、在親民、在止于至善(大学の道は、明徳を明らかにするに在(あ)り、民に親しむに在り、至善に止まるに在り)」と述べられている。「徳」という金文文字の左側の行人偏は、行くべき十字路と理解することができる。そして右側の上部に「目」があり、下部には「心」が記されている。この文字には、十字路では己の心に目を留めて、内省を怠らず、右へ左へと逸れることなく、前だけを見て真っすぐに進むようにという諭しが込められている。「明」は心にある小さな徳を大きな徳へと成長させることを指す。徳のある美しい品格は、人の本性に宿るものであり、心の垢を日々洗い落とさねばならない。

篆・隷・楷・行の各書体による作品

また「親民(大衆的)」も強調されている。宋代の著名な儒学者である朱熹は親民を「新民」と解釈した。新民は伝統に逆らうでたらめな新思想ではなく、むしろ人民と共に向上させて示すべき美しい性質だ。

他にも「止」が重視されている。止とは、例えば硬貨に両面があるように、危険の一歩手前で踏み止まるという一面と人として非の打ち所がない最高レベルに達するまで止まらないというもう一つの面とがあり、そのための努力は命ある限り続くものだ。「止観」は、粘り強く追求し続けることを強調している。古代中国の詩人である屈原はかつて、探し求め続けるがゆえに、たとえ9回死んだとしても悔いはしないと記した。またこの文字は壮大かつ堅実な志向も強調しており、諸葛孔明は「命ある限り献身的に尽くさなければならない」という名句を残した。何事も引き際をわきまえ、忠義を尽くして国に報いた岳飛や「留取丹心照汗青 (丹心を留取し汗青を照らさん)」と書き残した文天祥などの人生にも「止観」の精神が表れている。

文化の精神を書道で紹介

王岳川教授は、新時代において玄奘三蔵の精神を提唱し、中国文化の思想を世界各地に伝えなければならないと率直に語った。

「天地五行」

王教授はかつて半年ほどかけて、英、仏、独、伊、西、露の6カ国語における文学作品の翻訳状況を研究した。1900年から2000年までに中国で翻訳された外国の作品は10万冊を超えたが、西洋諸国で翻訳された中国の作品はわずか800余冊しかない。文学作品における交流の格差は百倍以上にもなっており、中国文化の輸出が目前に迫っている。

中国文化の精神をどのように伝えるかについて、王教授は「まず中国書道を世界に普及させる必要があります」と確信を込めて語った。そして「書道がユネスコ無形文化遺産に登録された後に、海外で行われたアンケート調査で、書道が中国文化を代表するシンボルとして海外で広く知られていることが分かりました。東洋と西洋の芸術分野には、いずれも文学、絵画、音楽、舞踊、彫刻、建築がありますが、書道だけは東洋独特の芸術です。そこで、中国書道を世界に紹介し、徐々に国際化を進めなければなりません。書道は、西洋ひいては全世界が中国に親しむ上で最高のシンボルだと言えます」と付け加えた。

屈原「漁父辞」(篆書)

海外で中国文化のイメージを広める過程において、書道が持つ文化的なソフトパワーを侮ってはいけない。現在、海外の孔子学院は、中国語の読み書きができる外国人を6000万人以上も育ててきたが、その内の多くは書道ができない。それゆえ、書道の海外市場は非常に大きいと言える。より多くの人々が中国語をそして書道を学び、中国の「調和文化」に親しめるように努力する必要がある。

「新西洋」文化学校を設立

「書道以外に、文化を効果的に紹介する別の方法は、百編からなる文化ドキュメンタリー番組『美しい中国』を海外向けに放送することです」と王教授は語った。「十八大開催後、政府は美しい国づくりを目標に掲げました。ドキュメンタリー『美しい中国』の制作意義は、中華の思想・文化・芸術による中国文化のイメージを全面的に映し出し、中国の悠久の歴史や人文・地理、現代的な精神を海外の人々に理解してもらい、世界に向けて中国の真実かつストレートなイメージを示すことにあります」

「行脩而名立 理得則心安」(聯句) 「蘭亭序」(臨書)

また、王教授は「新西洋」文化学校の設立と中国語検定HSKや中国文化に関連した試験の更なる整備の必要性を主張している。「この学校は中国語教育と中華文化の普及に取り組む孔子学院とは違い、全面的に各種の伝統文化および芸術の精髄を教え、音楽、囲碁、書道、絵画、唐詩、宋詞、茶道、座禅、経書、史書、諸子、詩集など多種多様な伝統文化の価値を広めることを意図しています」と語った。「より多くの西洋人や留学生が中国に来て中国語と文化および芸術を学び、中国文化の良き理解者また愛好者となることが私の願いです。東洋と西洋文化の交流による調和は、人類が作り出せる最も魅力な文化だと言えます」と今後への期待を表明した。

 

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