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故宮で働く『我在故宮修文物』

 

井上俊彦

中国映画を北京市民とともに映画館で楽しみ、そこで目にしたものを交えて中国映画の最新情報をお届けするという趣旨でスタートしたこのコラムも5周年を迎えることができました。中国社会がモノを消費する時代からサービスを消費する時代へと変化する中、この5年間で年間興行収入は130億元から440億元に急拡大、郊外や地方都市にもシネコンが続々開業して全国的に娯楽の定番となりました。その間にネット予約が当たり前になるなど、映画を楽しむスタイルも変化しています。そうした周辺事情も含めて中国社会の発展をよく映し出す映画は、日本人の私たちが中国を理解する一つの窓口にもなると思います。6年めもできるだけたくさんの映画をご紹介したいと思いますので、お付き合いいただければ幸いです

 

文化財保護スタッフにスポット当てる

日本映画『君の名は。』(中国題・你的名字。)が中国でヒットしていることは、日本でも盛んに報道されているようなのでご存じかと思います。すでに『STAND BY MEドラえもん』の記録を塗り替えました。ただ、この先は数字は伸びないと思います。というのも、もう上映回数が極めて少なくなっているからです。12月16日からチャン・イーモウ(張芸謀)監督の新作『長城』が公開され、全作品の上映回数の約半分を占めてしまっています。この作品、公開の週末3日間だけで約4億8000万元の興行成績を記録、日によっては全興行収入の7割近くを占めるほどでした。マット・デイモンらハリウッドスターと中国の「明星」が共演する作品に、普段は劇場に足を運ばない観客も多数押し寄せたようです。

実は、私は残念ながらまだ『長城』を見ていません。この作品と同時期に興味ある作品が何作も公開されており、それらは非常に上映回数が少なく、また数日で上映終了になってしまう可能性が高いため、週末はどうしてもそちら優先になったのです。ただ、そのおかげでなかなかユニークな作品にも出会うことができました。それが今回ご紹介する『我在故宮修文物』です。

タイトルからだいたいご想像いただけたと思いますが、なんと故宮で文化財修復を行っている人々にスポットを当てたドキュメンタリー映画です。こうした作品が劇場公開されること自体が日本人の私には新鮮ですが、さらに朝9時からの上映回に40人近い観客が来ていることにも驚かされました。そして、『長城』より『故宮』を選んだ映画ファンと共に、朝からゆったりしたリズムのドキュメンタリーを楽しみました。

最新の文化財修復を間近で

作品では、文化財修復の現状を見せています。故宮には多数の文化財が保存されていることは知っていましたが、大勢の人が故宮内にある修復を担当する部門で働いていることは、想像したこともありませんでした。仏像やついたてなど木造品の担当者、金属製品や時計など機械類の担当など、各部門に分かれての作業の様子を間近で見ることができました。

そこで働く人々は古代からの伝統技術と最新のテクノロジーを組み合わせて作業をしています。そして、年配のスタッフと若者は師匠と弟子とも言うべき関係を築いていることも新鮮でした。展示のためよりきれいに修復するか、残っている状態を尊重し保存を重視するかなど、文化財修復といってもさまざまなことを考慮する必要があり、担当する人の思考や経験がかなり反映される作業だということも知りました。

一方で、現在修復チームに入ってくるスタッフはみな芸術や化学を学んだ高学歴の人たちで、中には芸術家としてのジレンマを抱えている人もいます。「(芸術作品として)すでに死んでいる」ものを修復するのが仕事になっており、それは自分が学んできた芸術ではないと最初はとまどった、と語る人物もいました。

映像的には、何度も訪れたことのある故宮博物院の知られざる一面に引きつけられました。休館日の月曜日にスタッフが人っ子一人いない太和殿脇を自転車で走りぬけながら、「『ラストエンペラー』みたいでしょう」と笑うシーンには、「おお、本当だ」と見入りました。

全体的に比較的淡々としており、巧みの技の伝承、それにかける専門家の熱い思い、一生を文化財修復に捧げる覚悟、そういったものを期待するとやや失望するかもしれません。中国文化の歴史を背負っているんだというような強い自負などはあまり表立って語られず、朝出勤して勤務、その合間に猫に餌をやったり、アンズの実を収穫したりもして、夕暮れには鍵をかけて自転車で帰っていく、かつての中国の工場労働者を扱った映画のようなシーンが続きます。そして、それが私にはむしろ納得できました。細心の注意と根気が必要とされる仕事です。むしろ淡々とこなすことで安定した仕事ができるのでしょう。

 

【データ】

我在故宮修文物(Masters In Forbidden City)
監督:シャオ・ハン(蕭寒)
時間・ジャンル:86分/ドキュメンタリー
公開日:2016年12月16日

   
耀莱成龍国際影城・五棵村店のロビーはすでにクリスマスムード シネプレックスが入るショッピングセンターでは子ども向けのクリスマスイベントも行われていた

 

【データ】

耀莱成龍国際影城・五棵村店
所在地:北京市海淀区復興路69号卓展ショッピングセンター5階
電話:010-68188877
アクセス:地下鉄1号線五棵村下車B2口を出て北に進み玉園譚南路を右折、卓展ショッピングセンターの5階、徒歩15分。

この週末からスモッグが発生した北京だが、すかさず地下鉄やバス停にはスモッグ対策グッズの広告が登場、実に商魂たくましい


 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2016年12月21日

 

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