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チャオ・リーインの魅力『我們的十年』

 

文=井上俊彦

中国映画を北京市民とともに映画館で楽しみ、そこで目にしたものを交えて中国映画の最新情報をお届けするという趣旨でスタートしたこのコラムも5周年を迎えることができました。中国社会がモノを消費する時代からサービスを消費する時代へと変化する中、この5年間で年間興行収入は130億元から440億元に急拡大、郊外や地方都市にもシネコンが続々開業して全国的に娯楽の定番となりました。その間にネット予約が当たり前になるなど、映画を楽しむスタイルも変化しています。そうした周辺事情も含めて中国社会の発展をよく映し出す映画は、日本人の私たちが中国を理解する一つの窓口にもなると思います。6年めもできるだけたくさんの映画をご紹介したいと思いますので、お付き合いいただければ幸いです

前年の成績を下回った夏休み興行

夏休みが終わりました。ジャッキー・チェン(成龍)の『絶地逃亡(SKIPTRACE)』、ルハン(鹿晗)、ジン・ボーラン(井柏然)の『盗墓筆記』がそれぞれ10億元前後の成績を残しましたが、昨年に比べるとヒット作に恵まれず、夏休み期間中の興行収入は昨年を若干下回る約124億元でした。もう何年も右肩上がりが当たり前だった業界にとって、マイナスの成績は大きなショックだったに違いありません。実は最近、俳優の出演料高騰が話題になっており、ある業界関係者によれば、今や制作費の半分以上が出演料という作品が当たり前だそうです。これは当然のことながら脚本や撮影期間、ロケなどさまざまな面に影響を及ぼし、結果として作品のクオリティーに対する圧力となっているということです。確かに、私もこの夏休み興行期間中にたくさんの作品を見ましたが、このコラムでご紹介したいと思わせるものはごく少数でした。この興行成績が、業界にとって何かのきっかけになればいいと思います。

そうした夏休み明けの9月2日、「80後」の大学時代とその後の合わせて10年の愛情と友情を描く青春映画が公開されました。上映許可ナンバーは昨年のものですから、本来はもっと早く上映する予定だった作品かもしれません。一般にこうしたものは卒業シーズンの6月に上映されることが多いのです。

控えめで友情を重んじる大学生の張静依(チャオ・リーイン)は、ルームメートでピアノの才能に恵まれた陳伊諾(ウー・インジエ)のために、男子学生郭宇辰(キミー・チャオ)との仲を取り持つ役を買って出ます。ところが、宇辰はむしろ静依に好意を持ち、静依も同じ趣味を持つ好青年の宇辰に引かれていきます。宇辰は伊諾に本当の気持ちを打ち明けようとしますが、伊諾は事故で腕を骨折しピアノのコンクールに出場できなくなります。それを見た静依は自分のせいだと感じて身を引くことを決意しますが……。

「80後」青春回顧ブームは終わったか?

ヒロインを演じるチャオ・リーインは、映画よりもテレビドラマで大人気の女優です。昨年は『花千骨』が大ヒットしましたし、現在も『老九門』が放送中で、出演作の放送が途切れることがない印象です。日本でも『後宮の涙』などで華流ドラマを代表する存在として知られており、上品・清楚で親しみのあるキャラクターが同性にも支持されるようです。この作品でもまっすぐで善良、自分より友だちを優先してしまう少々引っ込み思案な女性を見事に演じ、観客を感情移入させています。また、学生時代のおかっぱ頭が会社勤め後のロングヘアーに変わるのと同時に、しぐさや表情の作り方も大人の女性風に自然に変化させています。こうした自然さが彼女の大きな魅力です。

作品としては全体的にちょっとおとなしめの『致青春』(2013)といった雰囲気で、ルームメートと好きな男子の間で板挟みになるヒロインの10年を描く、ほろ苦い青春ものです。いきなりSARS下の学園生活からスタートするなど、「80後(1980年代生まれ)」の青春に関わったさまざまな時代背景が登場しますが、彼らにしか起こりえなかった青春という印象はありません。そのあたりも原因なのか、残念ながら大ヒットにはつながりませんでした。一昨年、昨年と類似の作品が大量に公開された結果、もはや「80後」の青春回顧という設定だけでは、なかなか観客は呼べないのかもしれません。

ところで、同時期に日本映画の『寄生獣』が公開されており、好評を博しています。中国映画では全く見かけないパターンの作品で、映画ファンも驚いたようです。今月23日には『ちびまる子ちゃん イタリアから来た少年』も公開予定になっているなど、今年は明らかに日本映画の上映が増えています。

中国でも評判の高い『寄生獣』

【データ】

我們的十年(Days Of Our Own)
監督:ジョー・マ(馬偉豪)、リウ・ハイ(劉海)
キャスト:チャオ・リーイン(趙麗穎)、キミー・チャオ(喬任梁)、ウー・インジエ(呉映潔)、バン・ジアジア(班嘉佳)
時間・ジャンル:90分/学園・愛情
公開日:2016年9月2日

 

映画館のロビーでは、最近やや凝った宣伝ディスプレーを見かけるようになった。この点での努力も進んでいるようだ。

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【データ】

北京世茂国際影城
所在地:北京市海淀区羊坊店路18号 光耀東方広場4階
電話:010-57536166
アクセス:地下鉄7、9号線北京西站駅下車、A口から地上に出て羊坊店路を北に進み右手のビル、徒歩6分

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

映画館そばの北京西駅前は工事が進み、道路を囲っていたフェンスが取り払われ、駅舎もはっきり見えるようになった

 

人民中国インターネット版 2016年9月6日

 

 

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