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俳優文章が初監督『陸垚知馬俐』

 

文・写真=井上俊彦

中国映画を北京市民とともに映画館で楽しみ、そこで目にしたものを交えて中国映画の最新情報をお届けするという趣旨でスタートしたこのコラムも5周年を迎えることができました。中国社会がモノを消費する時代からサービスを消費する時代へと変化する中、この5年間で年間興行収入は130億元から440億元に急拡大、郊外や地方都市にもシネコンが続々開業して全国的に娯楽の定番となりました。その間にネット予約が当たり前になるなど、映画を楽しむスタイルも変化しています。そうした周辺事情も含めて中国社会の発展をよく映し出す映画は、日本人の私たちが中国を理解する一つの窓口にもなると思います。6年めもできるだけたくさんの映画をご紹介したいと思いますので、お付き合いいただければ幸いです。

 

「いい人」と「女漢子」の歯がゆい恋愛

この週末はジャッキー・チェンの新作『絶地逃亡』が大ヒット中です。ロシアからモンゴル、中国南西部を経て香港を目指すという壮大な冒険ドラマは、ジャッキー作品らしい笑いとアクションに加え、中国の美しい風景や珍しい民俗などもふんだんに盛り込まれており、夏休みを迎え、子ども連れや若者から幅広く支持を集めています。

そして、今週特に紹介したいのは『失恋の33日』(2011)や『西遊記~はじまりのはじまり~』(2013)などで知られる人気俳優の文章が、初めて監督した作品『陸垚知馬俐』です。市南部の映画館で見ましたが、公開から2週目に入っており上映回数は多くないものの、若いカップルや女性グループでかなり席は埋まっていました。

大学に入学した陸垚は同じ幼稚園に通っていた馬俐と再会します。陸垚は、美人でまっすぐな性格の彼女が大好きなのですが、彼女は在学中にいろいろな男子と付き合い、彼のことは友だちとしてしか見ません。卒業すると馬俐は留学してしまいますが、別れの時に陸垚はようやく「30歳になっても一人だったら僕が」と告げるのでした。そして6年が過ぎ、恩師の葬儀で二人は再会しますが……。

家族連れでにぎわうシネコンの入口

主人公の名前「垚」は日本語の読みは「ぎょう」、中国語では「yao(2)」ですが、中国人でもなかなか読めないようで、ポスターにもピンインが添えられていました。陸垚を演じるのが売り出し中の個性派俳優バオ・ベイアルと聞いて、彼の演技が全面的繰り広げられる作品かと思っていたのですが、実はソン・ジアの魅力が全編に散りばめられた物語になっていました。彼女は、『レッドクリフPartⅠ』(2008)ではリン・チーリン(林志琳)演じる小喬に似ているため曹操に仕えさせられる女性、『蕭紅』(2012)では主人公の蕭紅を演じましたが、いずれも抑制のきいた演技でした。ところが今回はそれらとは大きく違い、誇張のきいた“攻め”の演技で「女漢子(さっぱりした気性の強い女性)」を演じ、豪快な性格や輝く笑顔、大人の色気まで、さまざま魅力を見せています。

地下駐車場ギネス登録を告知するパネル 中に入ると3階建てのショッピングモールは巨大なアーケード街に見える

監督の意欲を感じさせる出来上がり

主人公たちは監督と同じ1984年頃の生まれと推定されます。しかし恋愛の背景に同時代性を強調するアイテムを並べ立てるのではなく、いわゆる「いい人」と「女漢子」カップルのじれったい関係を丁寧に描いています。作品としては派手さはないものの、構成もしっかりしており、安心して見ていられました。青春ものですが、人気アイドルなどを起用しておらず、また本人も出演していないところに、作品で勝負しようという意気込みが感じられます。さらに、監督がテクニックを試してみたのではないかと感じるシーンも見られました。成熟すればどんどんクオリティーも上がっていく監督ではないかと思います。なお、監督の人脈でしょう、さまざまな俳優が友情出演しているのを見つけるのも楽しみになっています。その中には監督の奥さん、女優の馬伊俐も含まれています。タイトルは「路遥知馬力、日久見人心(長い道を行けば馬の力が分かり、長く付き合えば人の心が分かる)」という言葉から取られていますが、偶然にしろヒロインの名前、奥さんのとよく似ていますよね。

なお、今週作品を見たのは、2014年末にオープンした新しいシネコンです。私にとって北京で80番目に訪れた映画館となった金逸国際影城薈聚店は、市南部にある超巨大なショッピングモールに併設されています。11ホール、2200席を有するIMAXシアターで、4K上映ホールもあります。しかし、それほどのシネコンも探さなければ見つからない大きなショッピングモールです。商業施設面積が21万平方メートルと言われてもピンと来ないのですが、地下駐車場の大きさがギネスブック認定の世界一だそうです。歩くと巨大なアーケードにしか見えず、これが一つの建物とはちょっと信じられない広さです。そしてさらに驚かされたのは、その巨大なモールが人であふれていることでした。土曜日の午後、昼食時間を過ぎた2時頃でしたが、飲食店の多くに入店を待つ行列がありました。中国の景気スローダウンがさかんに報じられていますが、庶民の旺盛な消費意欲を目の当たりにして驚きました。

 

【データ】

陸垚知馬俐(When Larry Met Mary)

監督:ウェン・ジャン(文章)

キャスト:バオ・ベイアル(包貝爾)、ソン・ジア(宋佳)、ジュー・ヤーウェン(朱亜文)、ジャオ・ジュンイェン(焦俊艶)

時間・ジャンル:107分/愛情

公開日:2016年7月15日

 

金逸国際影城薈聚店

所在地:北京市大興ク欣寧大街15号7-03-122-C1

電話:010-60200580

アクセス:地下鉄大興線西紅門下車、駅直結

 

ショッピングモールは地下鉄西紅門直結になっている  薈聚ショッピングモールの外観

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2016年7月26日

 

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