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低予算でも工夫で驚かせ!『発条城市』

 

文・写真=井上俊彦

中国映画を北京市民とともに映画館で楽しみ、そこで目にしたものを交えて中国映画の最新情報をお届けするという趣旨でスタートしたこのコラムも5周年を迎えることができました。中国社会がモノを消費する時代からサービスを消費する時代へと変化する中、この5年間で年間興行収入は130億元から440億元に急拡大、郊外や地方都市にもシネコンが続々開業して全国的に娯楽の定番となりました。その間にネット予約が当たり前になるなど、映画を楽しむスタイルも変化しています。そうした周辺事情も含めて中国社会の発展をよく映し出す映画は、日本人の私たちが中国を理解する一つの窓口にもなると思います。6年めもできるだけたくさんの映画をご紹介したいと思いますので、お付き合いいただければ幸いです。

 

映画と「洗銭」の問題をストーリーに

劇場に飾られたポスター

6月までの興行成績が245億元だったことが明らかになっています。前年は202億元でしたから、ここ数年に比べるとゆるやかな伸びになっています。『美人魚』という大ヒット作があった上での数字ですから、やや頭打ち傾向が見えてきたのかもしれません。そして1年の後半がスタートしましたが、学校が夏休みになったため、映画館は若者向け作品、子ども向け作品が多く公開されにぎわっています。目下ヒット中の国産映画は、香港警察アクションの『寒戦2』、大作アニメの『大魚海棠』、人気アイドルたちが出演の『致青春 原来你還在這裡』などです。

そんな中で、今回は『発条城市』をご紹介しましょう。監督はかつてニン・ハオのカメラマンを務めたこともある湖北省出身のジアン・タオです。彼には2011年に『無底洞』というシャー・イー(沙溢)、イエ・チン(葉青)主演の弁護士サスペンスものがありました。爆破シーンや大立ち回りなどがほとんどなくても、練りこまれた謎解き、全編にあふれる軽いユーモアがあってなかなか楽しく見ました。さらに、法律・裁判制度整備など社会の動きをうまく背景に取り入れており、観客観客を退屈させない工夫に感心した記憶があります。このためこの作品を楽しみにしていましたが、期待にたがわず楽しい作品でした。ちなみに、「発条」はご存じの通りぜんまいのことですが、監督はキューブリック作品にヒントを得てつけたということです。

映画の現場で大道具を担当している宋戈(ワン・ズージエン)、小風(ワン・ニン)、阿正(シウ・ルイ)の3人。ある日、小風の幼なじみの多多(リウ・ヤースー)がやって来ます。小風の母によれば彼女と結婚して身を固めるなら不動産を処分して結婚資金を渡すとのこと。目先の金がほしい3人は色めき立ちますが、実は小風は世話になっている金親分のために、彼の子を宿す女・驕陽(ワン・オウ)と偽装結婚させられていたのでした。離婚しなければ多多と結婚できず、金も手に入らないことから、3人は離婚を迫るため驕陽のところに押しかけますが……。

コメディー作品ですが、映画とマネーロンダリングというタイムリーな話題を盛り込んでサスペンスの味付けがしてあり、笑いよりむしろそちらの方がよくできている印象です。映画や美術品をめぐるマネーロンダリングのやり方には、(事実かどうかは分かりませんが)「なるほど、そうするのか」というものがあり、リアリティーを感じました。

悪をだますトリックにも見応え

現在最もヒットしている『寒戦2』

リアリティーといえば、主人公たちの仕事についても触れておきたいと思います。登場人物が映画関係者というと、またかという気がします。ほかの世界を知らないためか撮影場所に困らないためか、映画の現場を舞台にする低予算作品がやたらに多いのです。ところがこの作品はそれらとは一線を画しています。主人公たちが映画の大道具係という設定は、実は最後の大掛かりなトリックにリアリティーを持たせることにつながっているのです。なかなかの工夫でした。ほかにも、低予算で楽しくハラハラさせる工夫は前作同様さまざまありましたが、ハラハラ感を高めたいためか、形勢逆転を多用させ過ぎていて、いささか散漫になっている感は否めません。登場人物を少し減らし、ストーリーももう少し整理した方がよかったかもしれません。ただし、これも私の事前の期待の高さから出た文句で、もしふらっと立ち寄った映画館で見たら、とてもラッキーだったと感じたはずです。個人的には、もっと大きなバジェットの作品を見てみたい監督です。

今回、登場人物として注目したのは、宋戈を演じた大きな目玉が印象的なワン・ズージエンです。実は彼は「80後トークショー」という番組を持つ人気のスタンダップ・コメディアンです。これまでも何本か映画に出演していますが、今回は悪者にさんざん殴られるシーンがあるなど体を張って熱演しながら、独特のとぼけた味わいも見せており、俳優としても貴重なキャラクターであることを証明しています。

最後にロケ地についても触れておきます。タイトルに「城市」とありますが、実は海南省の海口、福建省の平潭、深圳という三つの都市でロケが行われたようです。このうち平潭で撮影されたと思われるれんが造りの建物や壁の間を駆け抜けるカーチェイスはなかなか迫力がありました。ドローンを使うなどして独特の風景を印象的に見せており、こうしたサービスにも手抜かりなしというところです。

 

 

【データ】

発条城市(Foolish Plans)

監督:ジアン・タオ(江涛)

キャスト:ワン・ニン(王寧)、シウ・ルイ(修睿)、ワン・ズージエン(王自健)、ワン・オウ(王鴎)、リウ・ヤースー(劉雅瑟)

時間・ジャンル:113分/コメディー・サスペンス

公開日:2016年7月8日

海淀工人文化宮の外観
海淀工人文化宮のロビー

海淀工人文化宮

所在地:北京市海淀区万柳華府北街2号 光耀東方広場4階

電話:010-82567215

アクセス:地下鉄10号線巴溝站駅下車、C口から地上に出て南へ、徒歩3分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2016年7月14日

 

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