専攻による就職の難易
入学するには同じくらいの点数が必要なのだが、李鵬さんのように社会的な需要が少ない専攻の学生と、外国語や会計など需要が多い専攻の学生とでは、就職するときに大きな差がある。「需要が少ない専攻」は就職難の主な原因の一つになっている。
一般的に、需要が多い専攻とは、経済、会計、通信、コンピューター、外国語、観光などの実用性の高い学科であり、需要が少ない専攻は、歴史、哲学、物理、数学などの基礎的な学科だ。北京大学や清華大学など有名大学の学生であれば、専攻によって就職に差が生じるということはあまりないが、普通の大学の需要が少ない専攻の学生だと、就職活動は相当厳しい。
不合理な課程の設置
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福州大学は2004年から企業と共同でインターンシップ制度を開始し、これまでに20社あまりの有名企業と契約を結んでいる。これにより、大学生の就職は大いに促進された(新華社) |
1990年代末までは、中国の大学進学率は10%にも達していなかった。そのため、大学教育は研究と理論に重きをおくエリート教育だった。とくに一部の基礎的な学科、いわゆる需要が少ない専攻ではなおさらそうだった。実用性の高い勉強は、専門学校で行う。たとえば、同じように中国語・中国文学を専攻しても、大学なら文学史や文学理論などを教えるが、専門学校の場合は公文書の書き方など事務的な内容が重点となる。
しかし大学教育が大衆化し、北京や上海など大都市の大学進学率が50%以上に達したいまでは、これまで専門学校にしか入れなかった学生も大学に入学できるようになった。ところが大学側の課程の設置はこの変化に適応できておらず、依然として理論を重視し、実践に重きをおかない教育をしている。
このため、学生たちの多くは、公式や定理は頭いっぱいに詰め込んでいるものの、実践能力に欠け、企業の要求に応えることができない。この状況は理工系の学生により顕著だ。
大学卒業生2000人を対象にしたアンケート調査によると、30%の人が、大学で学んだ知識は社会の需要からかけ離れていると答えた。2006年の大学生の就職状況の分析と予測によると、調査を受けた企業の60%が、学生が大学で学んだ知識は実際の仕事に生かすことができないと答えた。
中国では、大学卒業生は就職してから1年または1年半たってようやく、一人で仕事ができるようになる。先進国の場合は、会社への適応期間は2、3カ月だという。
そのため企業は、大学卒業生の職業能力を養成するよりも、低コストで技能を持った専門学校の卒業生を雇うほうがいいと考えている。このため近ごろは、「大学卒業生はブルーカラーに及ばない」と言われるようになったのだ。
専攻による就職難は偏見?
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北京で開かれたITやコンピュータ関連の人材を求める大規模な就職説明会。数百メートルの列ができた |
大学生たちは、自分の専攻した学科は需要が少ないために就職するのが難しいのだと文句を言っているが、それは偏見にすぎないと指摘する専門家もいる。外国語や会計など需要が多い学科は、毎年募集人数を増やしてきたため、すでに供給が需要をオーバーし、就職率は需要が少ない学科より低いのだという。
江蘇省教育庁の発表によると、2002年の大学卒業生の平均就職率は73.77%だったが、需要が少ない専攻といわれている哲学やマルクス主義理論、天文学などの卒業生の就職率は100%に達した。
この状況に対して、江蘇省・河海大学の学生募集事務室の担当者は次のように話す。「需要が少ない専攻が人気のない理由は、仕事を見つけにくいからではなく、みんながそういう先入観を持っているからです。たとえば、測量・製図工学や地質工学などのような需要が少ないといわれる専攻の供給と需要の比率は1対10です。多くの人々はこの事実を知らなかったり、あるいは苦しい野外での仕事に従事したくなかったりで、こういった専攻への入学を希望しない。そのため、需要が少ないように見えるのです」
また、需要が少ない専攻の就職難とは、外資系企業や大手国有企業、国家機関などに就職しにくいことを指すことも多い。もし学生たちが就職の視野を広げれば、就職できないという状況はありえないのだ。
李鵬(24歳) |
2006年、大連理工大学卒業。専攻は環境工学
大学では環境工学を学びましたが、今は不動産関係の会社に勤めています。専攻とは合っていませんが、しかたありません。
環境工程学部は、高い点数を取らなければ入学できないのに、卒業後、仕事を探すのは難しい。私は大学での成績がよかったため、わりとはやく今の仕事を見つけることができましたが、成績が普通のクラスメートたちは、たくさんの会社に履歴書を送っても梨のつぶてで、しかたなく大学院を受けたりしました。でも、大学院を出てからもいい仕事が見つかるかどうかはわかりません。
環境工程学部は、研究室での勉強が多く、実際の応用とはかけ離れています。私たちが学んだことは、企業では必要とされておらず、企業が必要としていることは、私たちは学んでいない。しかも、私たちが学ぶ課程は、生物、化学、土木、それに歴史や人文など、かなり広範囲にわたるのですが、どれも深くはありません。だから、雇用者側は化学や土木工程を専攻した学生を採用します。
環境保護は現在勢いのある産業であるにも関わらず、社会はそれほど多くの環境専攻の学生を必要としているわけではないのです。
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Q 仕事を探すのは難しいと思いますか。
A 大学で学んだことと実際の社会で求められていることが合っていないので、就職するのはかなり難しい。私たちの専攻では、博士課程を修了しても仕事が見つからない人も多い。
Q あなたの理想の職業は何ですか。現在の仕事は希望通りですか。
A 私の理想とする仕事は、毎日変化があって、常に新しい問題を解決していくような仕事です。毎日毎日同じことを繰り返す仕事ではありません。いまの会社には満足していません。
Q 大学生の就職難の主な原因は何だと思われますか。
A 社会全体がそわそわと落ち着かないため、大学生も目標を下げて就職しようとしない、企業も新人にチャンスを与えない、だからだと思います。
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