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峡谷を越え雲南・チベット高原へ

 

考察隊を迎える康司村の村民たち
  小中甸に到着すると、われわれの車列は国道214号線から離れ、近くにある康司村に入った。康司村の原生態資源と環境を守るために力を尽くした雲南省瑞雅生態発展有限公司の総経理であり、康司村の名誉村長でもある胡讚華さんが、茶馬古道考察隊がやってきたことを知って、村民たちとともに、広々とした牧草地でチベット式の楽しい歓迎の踊りで迎えてくれた。

 

 10月中旬の湿原は、青々とした「夏服」を脱ぎ、ずらりと並ぶハダカムギを干した棚とチベット式民居に彩られ、すっかり秋の気配である。早朝は標高が高くひんやりとしているため、あえて上着を余分に一枚重ねたが、意外にも昼になると太陽が頭上から照りつけ、にわかに暑くなる。紫外線も非常に強く、わずか半日で、頬が「高原紅」と呼ばれる高原特有の日焼けで真っ赤になる。

 

イシズェウン大師は敬虔な村民たちに「摸頂」で祝福する

 撮影スタッフがそれぞれ空撮の準備をしている間、ほかのスタッフは野原の石を拾い集め、モーターグライダー離陸のための臨時の滑走路を作る。集まってきた村民たちは、怪訝な顔をしてモーターグライダーを見つめている。そのとき、考察隊に同行した四川省ガンゼ県龍拉寺のサキャ派の道谷金剛上師イシズェウンが、草の上にあぐらをかいて朝の修行を始めた。スタッフを囲んでいた村民たちはそれを見て、次々と体を地面に伏せながら上師の前に集まった。上師から「摸頂」の祝福を賜ることを敬虔に願うのである。

 

 空撮が終わると、すでに昼に近くなっていた。ザシチーリンさんの家を訪れる。盛りだくさんのチベット料理が用意されていた。暖炉を囲みながら、ツァンパ(ハダカムギで作った主食)を食べ、バター茶を飲みながら、よもやま話に花が咲いた。中年にさしかかったたくましい体つきのザシチーリンさんは、村では腕のいい画匠として知られている。13ムーの耕地のほか、10頭以上のヤクを飼っている。今住んでいる屋敷は1998年に建てた2階建てのもので、2階建てで延べ面積は5600平方メートルにも及ぶ。1階では主に家畜を飼い、2階は家族の住まいである。木造で、天井が高く広く、立派なものだ。客間の真ん中に立っている太い柱が注意を引く。「ずいぶんと太い柱だ。ここの家の客間にはみなこのような柱があるようですね」と声をかけると、ザシチーリンさんは詳しく説明してくれた。

 

3つの口のあるかまど

大きな屋敷に住むザシチーリンさん夫妻と孫

ザシチーリンさんの美しいチベット式の家

 

 「チベット式屋敷の特色です。これはこの家で一番重要な柱で、樹齢百年以上の原木で作られたものです。柱は富と権力を象徴するのです。太ければ太いほど豊かな富、強大な権力を意味します。新しい家を建てるときには、まずラマ僧を招きます。お経を唱えてもらい、工事を始める吉日を占ってもらいます。さらに家を建てた後、村の女師匠に人々を率いて家の前で踊ったり歌ったりしてもらいます。ほかの師匠と歌や踊りの競い合いをすることもあります。歌詞は全て即興で、主に労働、日常生活や愛情に関するもので、繰り返してはいけないことになっています。踊りと歌の時間の一番長い人がチャンピオンです」

 

 こんな広い家に、奥さんと2人だけで住んでいるのかと尋ねると、「息子が2人いますが、1人はシャングリラで部屋の内装工事をやっています。もう1人はホテルで働いています。家に住んでいるのは私と女房と孫だけです」という答えが返ってきた。

 

 「畑仕事のほか、なにかをなさっているのですか?」

 

 「私はこの村の絵師です。新しい家が建てば、その家に彩色の絵を描きます。年に45000元の稼ぎになっています」

 

 ザシチーリンさんは、壁にかかっている家族の写真を指しながら、一人一人を紹介してくれた。

 

 バター茶を飲み終えたとき、この家には3つで一組の高さの違うかまどがあることに気づいた。奥さんに聞いてみると、「このかまどは私たちチベット族民居独特のものです。3つの口は、1つはお客さんのためにお茶を煎じる口、もう1つはご飯を炊く口、 一番下にあるのは家畜の飼料を煮る口です」とお茶をいれながら答えてくれた。村のお年寄りの話によると、かつてチベットに入るキャラバンは康司村を通り過ぎるとき、よく村で 茶を食べ物と交換していたという。村の人々は親しみをこめて彼らを部屋に招き、お茶をいれてもてなした。

 

 太陽が西に沈んだ。名残惜しみつつ、康司村を出発する。親切な村民たちが村の出口に集まって見送ってくれる。女たちは手をつないで一列になり、力強い調べを口ずさみながら、両腕を前後に揺り動かし、リズムに合わせて踊り続ける。

 

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