単騎、万里を走る 「イチョウじいさん」
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虎跳峡の入り口を通りかかっている車列
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車列は雲南・チベット高原を走る。車内の標高計をみると、いつのまにか3000メートルを越えている。頭がくらくらしてきた。そのとき、車列は台地を這い上るように走り、目の前が突然広がった。暖かい日差しを身体に浴びて、頭もいくらか楽になった。車から降り、疲れた体を動かして、新鮮な空気を吸いこむ。望遠レンズ付きのカメラを担ぎ、高いところに上って周りを見渡すと、台地を2つに分割するように曲がりくねった道路が続いている。そびえ立つ雪山はすぐ目の前に迫り、手を伸ばせば触れることができそうな白い雲が、山の中腹に浮かんでいる。興奮して、カシャカシャとカメラのシャッターを押しつづける。
ふいに、小さな赤い点がレンズの中に飛び込んできた。赤い点は少しずつ大きくなり、こちらに向かってかなりのスピードで動いている。「あれを見ろ! 自転車に乗っている人がいる」と驚きながら仲間たちに声をかける。
近くまで来ると、赤いTシャツにスニーカー姿の、26インチの自転車に乗ったお年寄りであることがわかった。格好から見て、現地のチベットの人ではないようである。不思議に思いながらその人物に近づいて尋ねた。「こんにちは! 自転車でどこまで行かれるのですか?」
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考察隊に旅の話をする「イチョウじいさん」として親しまれている林金根さん
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彼はゆっくりと自転車を止め、頬ににじむ汗を拭いながら答えた。「茶馬古道に沿ってラサまで行きます」。このときはじめて、そのTシャツの背中に「我愛中華 単騎10万里(アイラブ中華、自転車で10万里)」という文字がプリントされていることに気づいた。「お一人ですか?」と尋ねると、彼は自転車から降り、つやつやした真っ赤な顔で答えた。「ええ。自転車で全国各地を回り、2008年の北京オリンピックをアピールするんです! 北京を応援するためにね」。その言葉を聞いて、心から彼を尊敬せずにはいられなかった。
彼、72歳の林金根さんは、浙江省麗水市の林業の技術者だったが、すでに定年退職している。長年にわたってイチョウの研究に携わり、地元の人々に「イチョウじいさん」という愛称で呼び親しまれている。2002年2月20日、彼はひとりで自転車に乗って、「我愛中華 単騎十万里」という壮挙に挑んだ。浙江省麗水市から出発して、28の省や直轄市、自治区にある1200余の県、市を走り抜け、国境すら越えて、タイ、ベトナム、カンボジア、ラオスまで行き、4年半かけて7万6890キロを走りぬいた。林金根さんは誇らしげに各国のビザの押されたパスポートと香港、澳門の通行許可証を取り出してわれわれに見せてくれた。「インターネットで林金根の三文字を検索すれば、わしを紹介する資料がたくさん出てくるんだよ」と林さんは楽しそうに笑った。誰もが彼をたたえ、次々に記念写真を撮った。
「0808、早く来い! わしは2008年8月8日まで自転車で走り続けるぞ! 北京まで走っていく。 北京オリンピックを応援するために」。そういうと彼は再び自転車に跨り、引き続き彼の万里の旅を走り出した。遠くに小さく消えてゆく後ろ姿を見つめながら、心の中で彼の成功を祈った。 (馮進=文、写真)
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