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中国茶文化国際検定協会会長、日中友好漢詩協会理事長、中国西北大学名誉教授。中国茶の国際検定と普及、日中交流に精力的な活動を続ける。 |
武夷山市に到着して、茶店を訪ねてみると、今年大きく変わったことは、どの店でも大半が「大紅袍」を売っているということです。
ちょっと、一軒のぞいてみました。席について試飲会の始まりです。さまざまな値段の「大紅袍」を飲んでみると、なぜか味も香りも微妙に違います。
「これが『大紅袍』ですか?」
「そうですよ。みな『大紅袍』です」
「いや、奇丹の茶樹を『大紅袍』というのだから、ちょっと違うでしょう」
「奇丹(大紅袍)のことを知っているのですか? 今は、武夷岩茶を一般的に『大紅袍』といって販売するのです」
話がかみ合いません。
私は、武夷山の友人の茶農と山を歩くことにしました。一般的に「大紅袍」と呼ばれる「奇丹」の母樹を見たあと、さらに慧苑坑、牛欄坑、大坑、流香澗、悟源澗一帯の山に分け入ります。
「先生、これは『武夷肉桂』。これは『武夷水仙』。そしてこれが、『大紅袍』として販売できる茶葉です」との説明。これは一体どうしたことでしょう。この秘密について私なりに説明してみます。
一般的に、武夷岩茶にはさまざまな種類があります。なかでも「大紅袍」「白鶏冠」「鉄羅漢」「水金亀」は、4大名そうと言われ、よく知られています。1943年、林馥泉氏の調査によれば、慧苑坑には830種余りの名そうがあり、そのうち、279種は名前がはっきりしています。現在では、1000種類以上の武夷岩茶があると言われているのです。
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流香潤
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慧苑寺
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近年までは「有性繁殖」、つまり種子で繁殖が行われていたため、茶樹のある場所によって、味や香りに変化が出て、さまざまな名前が付けられていたとのこと。茶樹としては、武夷岩茶と総称すればよいというわけです。
街中に出ているお茶のほとんどが「大紅袍」という名前になっているのは、武夷山を代表する武夷岩茶の名茶は、一番有名な「大紅袍」の名で販売したほうが儲かるからです。武夷岩茶の「大紅袍」が有名になればなるほど、「大紅袍」だけが売れて、他の名茶が売れなくなってきたことが原因かもしれません。商業文化としての茶販売の影響でしょう。
現在、武夷山のお茶を分類すると、「武夷奇種」「武夷水仙」「武夷肉桂」「武夷烏龍」「武夷仏手」に分かれます。さまざまな名前の武夷岩茶は「武夷奇種」に分類されるということです。「大紅袍」として売られている現在のお茶は、「武夷奇種」のブレンド茶なのです。これで、幻の名茶と言われた「大紅袍」が、どこの店にも並ぶようになった秘密がおわかりになったかと思います。
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