オリンピックのために、北京では12の競技場や体育館が新たに建てられ、11が拡張・改築され、さらに8つが臨時に建設された。全部で31の競技場や体育館で競技が行なわれる。「緑色五輪」「科技五輪」「人文五輪」という3つの理念は、この競技場や体育館に、具体的にはどのように投影されているのだろうか。典型的な6つの競技場や体育館を選んで、ご紹介しよう。
揺りかごの形に未来を託すメーンスタジアム「鳥の巣」
「鳥の巣」の名前ですでに世界に知られるようになったメーンスタジアムの「国家体育場」は、北京・オリンピック公園の中心区の南にある。敷地面積は20万4000平米、建築延べ面積は25万8000平米。観客の座席は9万1000。オリンピック期間中、ここでは開幕式、閉幕式、陸上競技、男子サッカーの決勝が催され、48個の金メダルが授与される。
「鳥の巣」は、2001年にブリツカー賞を獲得したスイスの建築ユニット「ヘルツォーク&ド・ムーロン」と中国の建築家李興剛らによって共同設計された。その形はまるで生命を育む巨大な鳥の巣のようであり、また揺りかごにも似ており、未来に対する人類の希望を託しているようだ。設計者たちは、このスタジアムに余分な処理をまったく加えず、建築構造をそのまま外にさらけ出したにすぎない。その結果、自然にこうした建築の外観ができあがったのである。
「鳥の巣」の外側の構造は、42000トンの巨大な鋼材をアーチ式に組み立てたもので、巨大なネット状の構造の内部には一本の柱もない。観客席は、碗の形をした座席で、視線を遮るものは何もない。最大のスパンは333メートルあり、これはオリンピック史上、最大の鉄鋼構造の建築物である。
米国の『タイム』誌は、2007年の「世界10大奇跡」の一つに「鳥の巣」を選んだ。「鳥の巣」の天井は884枚のエチレン・テトラフルオロエチレン(ETFE)という高性能プラスチック・フィルムでつくられており、その面積は四万平米近い。自浄作用があるばかりでなく、紫外線を遮断することもできる。
「鳥の巣」の天井の内側にも吸音性のあるETFEフィルムを材料として採用している。また鉄鋼でつくられた構造の部材の上にも吸音材料が設置され、場内では特殊な拡声システムを使用するので、どの場所にいる観客もはっきりと放送を聞き取ることができる。
設計者たちはまた、流体力学を用いて設計し、91000人が競技を見る時の自然の通風状態をシミュレーションし、すべての観客がみな、自然光と通風を享受できるようにした。このほか「鳥の巣」は、身障者のために200以上の車椅子の座席を設置し、聴力や視力に障害のある人々のために、それぞれのニーズに応じたサービスをする。
「鳥の巣」の背後には、サッカー場6つ分に相当する雨水総合利用システムがあり、雨水を収集する面積は22万平米に達する。このシステムは24時間休みなく運転され、毎年、回収し、利用する水資源は約67000トンに達する。収集し、処理された雨水は競技場や体育館の芝生の灌漑やエアコンの冷却水、トイレの水、緑化、消防用水などに使われる。
中国伝統の哲学に符号する水泳センターの「水立方」
国家水泳センターは「水立方」とも呼ばれている。北京オリンピック公園の中心区の南側にあり、建築延べ面積は8万平米。
「水立方」は中国建築工程総公司とオーストラリアのPTW建築事務所、ARUPオーストラリア有限公司が合同で設計した。「水立方」と「鳥の巣」は、北京の中心を南北に貫く中軸線の北の両側に建っていて、それぞれ生命の本源と生命の揺りかごを象徴している。また、中国の伝統文化の中にある「天円地方」(天は円く、地は四角い)や「水主北方」(水は北方をつかさどる)という哲学的観念と暗に符合し、中国式の人文的考えを集中的に表している。
オリンピック期間中は、17000人収容できる「水立方」では、競泳、飛び込み、シンクロナイズド・スイミングなどの競技が行なわれ、42個の金メダルが授与される。
「水立方」の建築の外装は、内外2層のETFE フィルム構造で覆われている。その面積は10万平米に達し、世界最大のフィルム構造建築である。フィルムの厚さは0.3ミリ前後しかないが、その中の一つ一つの気泡(バブル)は、車1台の重量に耐えられる。全部で3000以上のバブルからなっている。
さらにすごいのは、「水立方」の外装が色を変えることのできる視覚の芸術になっていることだ。晴れた日には「水立方」はキラキラと輝く青い色を発し、夕日の下では、温かい黄色に変わる。夜には光に溢れ、目を奪う輝きを発する。
「水立方」の外側のバブルの内層フィルムと内側のバブルの外層フィルムには、密度の異なる細かい斑点がメッキされ、太陽光のもたらす熱を減少することができ、室内の温度が高くなりすぎないようにしている。同時に、2層のバブルの間の空間は密封され、断熱ブロックを形成している。「水立方」の外側の底の部分は、1メートル余りの高さの百葉箱の形をした通風口があり、換気によって熱を排出し、温度を下げる効果をもたらすことができる。
国際的基準では、競泳用プールの誤差は1センチを超えてはならないが、「水立方」の10あるコースの誤差は2ミリしかない。10メートルの飛び込み台の水面までの誤差は、国際基準では10センチを超えてはならないが、「水立方」の誤差はわずか2センチに過ぎない。
競技場内で選手たちが接触するすべてのタイルは弧の形をしている。また選手たちが活動するすべての区域は、更衣室やトイレ、プールサイドなどを含め、みな床暖房になっている。「水立方」は世界でもっとも精密につくられた、もっとも快適な水泳場と言われている。
特殊なフィルム材料とそれに適した技術を採用したおかげで、「水立方」は毎日、9時間54分、自然の光を利用することができる。そのうえ、エアコンの余熱を収集したり、プールを加熱する際に電力を節約したりして、「水立方」は一般の水泳場より30%以上、エネルギーを節約している。
さらに「水立方」は、雨水の回収システムを特別に設計し、1年で雨水10000トン前後を回収する。これは百戸の居民の1年の使用量に相当する。「水立方」で消耗される水の80%は、循環使用される。
緑の中に水面が広がる北京オリンピック水上公園
北京オリンピック水上公園は北京市順義区にあり、163万平米を占めており、北京オリンピックで最大の競技会場である。オリンピック期間中、ここではボート競技、カヌー競技などが行なわれ、32の金メダリストが誕生する。
これまでのオリンピックでは、カヌー競技などを行なう「流水区」と、ボート競技などが行なわれる「静水区」とがかなり離れてつくられ、コストがかさんだだけでなく、選手たちにも不便であった。そこで北京オリンピック水上公園は競技場が並列し、堤で隔てられるという方法を採用した。これによっていくつかの競技場が一カ所に集中し、世界で唯一の「流水区」と「静水区」が一体となった水上スポーツの競技場となった。
水上公園の水面面積は約63万5000平米。緑地面積は約58万平米で、緑化率は82%を超す。さらに周辺の地区も緑化され、ここは名実ともに「天然の酸素吸入バー」となっている。
水上公園の建物の建築延べ面積は約32000平米。全部で1200の固定の座席と25800の臨時の座席があり、そのほかに10000の立ち見席がある。立ち見の券を買った人は、レースのコースの両脇に指定された区域内で、自由に場所を選び、草地にゆったりと腰を下してレースを観戦することができる。
競技場の水質を保証するため、水上公園にはコースの水を地下で循環し、処理するステーションが建てられ、毎日72000トンの汚水を処理することができる。1カ月ですべてのコースの水が浄化される。このほか、水上公園には最終排水処理場が建てられ、排出汚水ゼロが実現した。
水を節約するために、公園は乾燥に強い植物を選んで植え、セントラル・コンピューターによる灌漑コントロールシステムを採用した。それぞれ異なる植物と土壌の水の需要に基づいてコンピューターのプログラミングが設定され、自動的な灌漑が実現し、節水率は30%に達した。同時にまた公園は、各種の措置をとって雨水を回収し、平均で毎年、約72万トンの雨水を利用し、利用率は85%に達する。
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