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人々の保護神 熱帯雨林

 

調和と詩趣の熱帯雨林

19世紀、植物学者たちは、地球上の湿った酷暑地帯の常緑高木の森林植被を、熱帯雨林と呼びはじめた。熱帯雨林は主に、年間の平均気温が24度以上、あるいはもっとも寒い月の平均気温が18度以上の熱帯の湿った低地に育つ。主に南米、アジア、アフリカに分布し、ほとんどが北緯23.5度と南緯23.5度の間に位置している。

雲南の熱帯雨林のガジュマル(新華社)

メコン川の流れるインドシナ半島にも、数万平方キロに及ぶ熱帯モンスーン雨林が分布している。この地の冬は温度が低く、雨は少ない。夏は高温で雨が多く、季節は雨季と乾季の二つのみ。

熱帯雨林は、ふつう3層から5層にわたって植物が生い茂り、各層の植被の密度は、太陽の光が上の層の木々を貫いてどれほど届くかにかかっている。差し込む太陽の光が多ければ多いほど密度は高くなる。アジアの熱帯モンスーン雨林でもっとも高い木は「望天樹」と呼ばれるパラショレア属の高木で、7、80メートルほどの高さに育つ。望天樹の下にはさらにさまざまな植物層があり、互いに入り組み、生存権を手にするために、太陽の光と空間を奪い合う。ごくわずかな空間も逃さず、根も節も曲がりくねって入り組み、互いを押さえつけあったり、高い木の幹にくっついたり、寄生したりとさまざまなスタイルで、対立、衝突、依存、寄生しあいながら成長してゆく。長い年月の変遷をへて、熱帯雨林は地球上で生物の、もっとも複雑で、多彩で、種類の豊富な生態系となった。ここでは、光と水と空間の結びつきが、詩趣の境地のごとく精密に、美しく、調和している。

雨林に暮らす人々

熱帯雨林は、大メコン川流域(GreaterMekong Subregion=GMS)の国々にとってもっとも重要な地形であり、天然資源である。もちろん、我々のドキュメンタリーシリーズ『同飲一江水(同じ川の水を飲んで)』の重要なテーマでもある。ここで、気になるふたつの状況を目にした。

花なのか果実なのか見分け難い熱帯雨林の植物

陶器のような形の巣

メコン川流域の熱帯雨林の生態系は多種多様

豊富で多彩な熱帯雨林生物

ナパガー村の住民はラオスのラーオ族の人々である。ラーオ族の人々はもともとほとんどが熱帯雨林の中で暮らしており、メコン川は密林の奥深くを流れている。現在でも雨林と互いに頼りあうようにして、昔ながらの生活を続けているラーオ族の人々もいる。

ナパガー村の村人たちは、毎年「神樹祭」を挙行する。この儀式ははるか昔から続いてきた、古代のアニミズムの原始信仰に由来する。この地の人々は、大地の育むすべての動物、石、樹木、草花、洞窟、河川、渓流などあらゆるものに神が宿っていると見なしている。雨林にある村々には、それぞれに自分たちの樹木の神がある。樹木の神を祀るのは、村の歴史が受け継がれ、今後も神霊のご加護が得られるようにと願うためである。  

祭りでは、村の祈祷師が村中の老若男女を引き連れ、雨林の神と見なしている高くそびえ立つ大木の下に跪き、火をともし、声を張り上げて祈る。  

神様! 参りました。村中の老若男女をつれて参りました。貢ぎ物を持って参りました。あなたさまを拝みに参りました!

パーアさま、パーリさま、パーバイさま、すべての神様、聞こえますか。早くこちらにお越しください。おそろいですか。おそろいでしたら、始めさせていただきます。  

祈祷師の助手が、大急ぎで木の下に鶏、米、花、果物などの品々を並べる。  

神様! お食事をご用意しました。お召し上がりください。わが村の平安をお守りくださいませ。食べものに困らず、着るものに困らず、必要なものに困らず、病気にならず、生活がますますよくなりますように。

神様! 貢ぎ物をご用意しました。神様!どうぞお召し上がりください・・・さあ、どうぞ・・・

祈祷師はナパガー村の村民たちを引きつれて神樹を祀る。前で赤いスカーフをつけているのが祈祷師

カンムスオエンさんは木のウロの中から陸蟹を捕る

ナパガー村は60世帯からなり、村の祈祷師は神霊とのコミュニケーション、世俗の事務的なことを取り仕切る村落の責任者であり、村の長老である。村の代表者として、事務的なさまざまなことの決断を下し、伝統と経験を次の世代に伝えてゆく。これは威信によって自然に形成された長老会であり、どの村にもふつう4、5人の長老がいる。

55歳のカンムスオエンさんはナパガー村の長老の一人である。村の生活はシンプルで詩趣に満ちており、カンムスオエンさんはいつでも口笛を吹いている楽しげな人だ。

熱帯雨林はナパガー村の人々に食物、燃料、基本的な生活物資をもたらしてくれる。季節によって、雨林がもたらしてくれる食べ物は異なる。この地の住民は、ほぼ毎日のように雨林の中に食べものを探しに行く。乾季には、カンムスオエンさんは雨林の中で陸蟹を見つけることができる。彼は雨林の中のすべてを熟知しており、この時期の陸蟹が木の根の下に隠れて微動だにせず、英気を養って力を蓄えていることも知っている。

雨季がやってくると、雨林の中に隠れて見えなかった川が氾濫し、たちまち木の根が水没すると、蟹たちは自由を回復して泳ぎ始める。しかしこのとき、村全体は水浸しになり、村人たちはかえって身動きがとれなくなってしまう。村人たちは雨林の生活にすっかりなじみ、足元を木のくいで支えられた高床式の小屋を作りだす。竹で編んだ籬の仕切りは、洪水による水浸しや動物の攻撃を防ぐだけでなく、とても涼しくさわやかで、雨林の猛暑に対する対策にもなっている。雨林では、乾季と雨季の温度差はあまりなく、気温はふつう30度前後である。

カンムスオエンさんが蟹を掘りに行くところは村から5、6キロ離れた、徒歩で1時間あまりかかるところにある。雨林での食物採取は、まずこの土地の神霊に知らせ、神霊の加護を求めなくてはならない。  「神様、私はこれから雨林に食物を探しに参ります。どうか驚かれませぬよう。どうぞ私をお守りください。たくさんの収穫がありますように」  カンムスオエンさんは食物がなくなる心配などしたことはない。自分たちを庇護してくれている雨林は、何日も夜を徹して歩き続けても果てまでたどり着くことはできないほどに、とてつもなく大きいのだから。

 

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