人々の祈りをのせて水神のドラゴンボート
各地のドラゴンボートレース
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ベトナムのメコン川の河畔の町 |
娘のノエさんも、もちろん両親にとても愛しまれて育ってきた。ノーアンさんの妻の手作り牛肉団子も有名で、一家は家の近くの市場で自家製の牛肉団子やビーフン、ラオスの伝統食品などを売る小さな屋台を営んでいる。今年21歳のノエさんはなかなかのやり手で、家事から父母の身の回りの世話、さらに母親と一緒に屋台の商売までこなしている。ラオスの伝統では、息子は結婚して他家に行き、娘が家に残る。
ノエさんもドラゴンボートを愛している。父親がノエ号を造っている時、ノエさんがナーガの夢を見たことから、この船に彼女の名がつけられた。そのことを彼女は誇りに思っている。
大メコン川流域において、ドラゴンボートレースを開催する時期はそれぞれ異なり、季節や各地の川の水の状態、人々の信仰によって決められる。川の水が豊富でありながら、水の流れが激しくなく水面が穏やかな時期にだけ、ドラゴンボートレースは可能となる。
中国では例年春に開催するが、メコン川下流の人々は、雨季の終わった10月末ごろに開催する。ベトナム北部では4、5月、南部は9、10月が多い。もちろん、その拠りどころはそれぞれに大切にしている信仰と文化の伝統にある。
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カンボジアの「水祭り」で、レースに備えるドラゴンボート(新華社) |
祖国に忠誠を尽くした屈原だったが、奸臣に陥れられ、川に飛び込んで自ら命を絶った。屈原は中国において知恵と忠実、勇敢の象徴である。その詩や業績は津々浦々に知れ渡り、代々、脈々と伝えられている。端午の節句は屈原の命日と言われる。この日を迎えるにあたって、女性たちはならわしにもとづいて、さまざまな木の葉で米やさまざまな餡を包んで粽をつくる。端午の節句の当日、粽を川に投げ入れ、まず詩人・屈原を祀り、それからドラゴンボートレースを開催する。
梁秀庭さん率いるシアロン村の祥集通りのドラゴンボートチームは再びレースで優勝した。優勝した船に竜の頭が釘で打ちつけられ、さらに賞品を獲得した。村のならわしでは、優勝チームは大きな豚の頭を、最下位のチームは豚のしっぽを与えられる。
ラオスのビエンチャンのドラゴンボートレースは雨季の終わったころに行われる「開門節(ブン・オークパンサー)」のときに開催される。「開門節」当日、ラオスでは各地の寺院で法事が執り行われる。ノーアンさんは朝早くから、寺院の付近の住民たちとともに敬虔な気持ちで生花や果物、その他のお供え物を携え、近くの寺院へ足を運び、お布施をし、法事に参加する。
仏教の戒律の規定によると、僧侶たちは一年のうちの3カ月に及ぶ「臘期」(寺院にこもり、ひたすら仏教の道理や哲理を悟ることにつとめる期間)を守る。「臘期」には雨が多く、メコン川の水位が上昇し、人々が外出するのに不便な時期である。そのため人々は「臘期」の最初と最後の一日をそれぞれ「迎水節(ブン・カオパンサー)」と「送水節」と呼ぶ。水を見送る「送水節」は「開門節」とも呼ばれ、毎年10月の中旬ころにあたる。「開門節」が終われば、僧侶は外出が許され、庶民は結婚が許される。「開門節」には提灯をともし、灯篭舟を流し、ドラゴンボートレースが開催されるなど数々の祝賀行事でにぎわう。
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ベトナムのメコン川のそばにたたずんでいた老人 |
ラオスでは、ドラゴンボートはいずれもナーガという水神とみなされ、ボートの胴体には花が飾られるなど丹念な装飾が施される。ドラゴンボートを造るために木を切る際、ドラゴンボートレース開催前には、船主は必ず神霊の加護を願って祈祷を行う。
ラオスのドラゴンボートは細長いもので、普通一隻の船に54人が乗り込む。ビエンチャンのドラゴンボートレースは規模が大きく、毎年「開門節」の翌日に行われる。全国のドラゴンボートがメコン川に沿ってビエンチャンにやって来るさまは壮大である。
年に一度のビエンチャン・ドラゴンボートレースがまもなく開催される。優勝の常連であるノーアンさんのノエ号が今年も連勝するかどうかが人々の注目の的である。
ラオスの「開門節」よりやや遅れて、カンボジアの「水祭り」も始まる。この「水祭り」はカンボジア最大の祭りであり、ちょうどトンレサップ湖が干潮の時期にあたるため、ドラゴンボートレースを開催して祝うのである。全国から4、500ものドラゴンボートがプノンペン郊外のトンレサップ湖に集まり、3日間レースを展開する。水面には浮き台が設けられ、色とりどりの花で飾られ、夜には灯火で明るくなる。国王もドラゴンボートレース参観に来臨し、レースは盛大かつ熱狂的なものとなる。
瀾滄江及びメコン川流域の各国では、竜、またはナーガが王権の象徴とされている。
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食べものを満載したタイのボート |
一方、ミャンマーのインレー湖のドラゴンボートレースでは、ほかの地域のものと異なり、漕ぎ手が手ではなく足で櫂をこぐ。毎年収穫の季節、つまり、大自然から豊作を賜ったことを感謝する時に開催される。
ベトナムのドラゴンボートレース開催期間には、川の神様、海の神様、月の神様、豊作の神様、氏神様など、さまざまな神様を祀る行事がある。そして祖先を祀り、幸福を祈って吉祥を納める。
ラオスのノーアンさんは今年、ノエ号が優勝ではなく二位だったため、不機嫌であった。すっかり落ち込んでしまった彼はレース後の集会やあらゆる行事への参加を拒否し、ようやく例のカフェに姿を見せたのは、一週間後のことであった。
そのころ人々の話題はもはやドラゴンボートレースではなく、もっぱらサッカーの試合のことになっていた。
人民中国インターネット版 2008年12月29日