杭州市で上海万博テーマフォーラム
--都市の交通渋滞は解決できるか
王新玲=文
あるタクシー運転手は北京と上海の交通渋滞を語って、「北京では、大渋滞に巻き込まれるともう動きが取れないが、上海では、ゆっくりながらも動くことができる」と述べている。中国では大都市の交通渋滞が深刻だ。人々は、なぜ渋滞するのかにはもう何の関心もなく、ただいつになったらこの渋滞が収まるのかに関心を持っているのである。
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人口約50万のコペンハーゲン市では「出勤族」の34%が自転車通勤だ。(東方IC) |
十月六日、浙江省の杭州市で「調和のある都市と住みよい生活」をテーマに上海万博テーマフォーラムが開催された。
ケン・リビングストンロンドン市長は、ロンドンがなぜ権威ある雑誌『エコノミスト』の「世界の住みよい都市ベストテン」に入ることができないのかに触れて、次のように語った。「過去三十年間にわたって、ロンドンは労働者のための住宅建設を怠ってきたうえに、交通渋滞もひどい。これではとてもベストテン入りは難しいだろう」
中国国内のある機関が行った「中国の住みよい都市ベストテン」評定では、北京が第三位にランクされた。上海、広州も上位を占めている。この結果に疑いを持つか、信用ならぬ、と思う人はきっと多いことだろう。交通渋滞が「住みよい都市」という評価から北京を大きく遠ざけているのである。九年前にはほんのわずかの積雪から都市交通機能がまひする大渋滞が発生したが、今年の中秋節の連休期間にも、夕方からの雨が北京市街区の道路という道路を車で埋める大渋滞が発生した。市民は「絶望的」という形容詞を使ってはばからない。
中小都市でも交通渋滞は「大問題」
今年六月、中国科学院は『二〇一〇年中国の新しい都市化に関する報告』を発表したが、データの中には、五十の人口百万以上の都市での出勤にかかる時間の統計もあった。平均三十九分で、ヨーロッパの同様の人口規模の都市の十二分に比べると、中国の都市では出 退勤に多くの時間がかかることが分かる。中でも、北京では五十二分、広州では四十八分、上海では四十七分というデータが示されているが、この数字には三都市の多くの「出勤族」が首をかしげるに違いない。実際にはもっと多くの時間がかかっていることを身をもって知っているからだ。
この『報告』には、イギリスのコンサルタント会社リージャスが十三の国と地区を対象に調査した結果も載せられているが、中国大陸部の「出勤族」が毎朝、勤め先に着くまでにかける時間は、世界で最多との芳しくない「ナンバーワン」が掲げられている。
中国科学院で持続可能発展研究グループを率いる牛文元教授は次のように述べている。「(都市問題では)就業、住宅、交通、環境、公共サービスをどう均質化するかが重要だ。つまりこの五方面で最大多数の市民の満足が得られてはじめて住みよい都市と言えるのであって、不均衡を克服することが大きな課題なのである」
「五方面」の中で、交通は貧富の違いにかかわらず、誰もが逃れられない「課題」である。都市化にいっそうの拍車がかかる今日、この課題は北京、上海、広州に限らず、これまで渋滞とは無縁だった中小の地方都市でもクローズアップされてきており、文字通り中国が抱える「大問題」なのである。
「自転車王国」から「自動車大国」に
昨年の十二月、デンマークの首都コペンハーゲンで開かれた国連気候変動会議(COP15)によって、中国の多くの市民がコペンハーゲンの町を知ることになったが、町では交通手段として自転車が大活躍している光景が何よりも印象的だった。一九七〇年代に世界を震撼させた「石油ショック」から教訓を得たコペンハーゲン市では、自転車の価値を高く評価し、交通手段として、その普及を積極的に進めてきた。電車には自転車を置くスペースが設けられ、すべてのタクシーには同時に二台の自転車を吊るすことのできる改造が施され、ホテルや旅館には宿泊客用のレンタル自転車が用意されているなどなど。現在、コペンハーゲン市の市民が利用する交通手段は自転車がトップで三七%、バスや電車などの公共交通機関は二八%、自家用車・公用車は三一%、徒歩が四%となっている。
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上海市呉淞路の朝の出勤ピーク時。「ゆっくりながらも動くことが出来る」(東方IC) |
昨年十月、コペンハーゲン市は、市内の最も繁華な通りで、「通行は徒歩か自転車のみ、その他の車両はいっさい禁止」という画期的な試みを実行した。三カ月後、クラウス・ボンダム技術・環境担当市長は、過半数の市民の賛同を得て、この通りを「歩行者・自転車天国」とすることを宣言、以後、一台の自家用車・公用車もこの通りを走ることができなくなった。
“There are nine million bicycles in Beijing .That’s a fact. It’s a thing we can’t deny. Like the fact that I will love you till I die”
「♪北京には九百万台の自転車。ほんとうだよ。誰も否定できない。死ぬまで僕が君を愛するのと同じくらいの真実なのさ♪」
イギリスの若いミュージシャンが北京で作ったというこの『九百万台の自転車』が、北京では、道路が渋滞するたびに交通情報を知らせるカーラジオから流れ、車を運転するほどの者には、すっかり耳になじんでしまった。
たしかに中国は、かつて「自転車王国」と呼ばれ、自転車の所有台数が世界一の国だった。しかし、当時の自転車は健康のためのスポーツアイテムではなく、必要不可欠の交通手段だったのだ。近年、中国は世界一の自動車販売台数を誇る「自動車大国」になり、そして自動車がまき散らす排気ガスと交通渋滞が今、大都市では深刻な生活問題となってしまったのである。
世界中で渋滞解消に向けたさまざまな解決策
私たちはあらためて自転車に関心を払うようになった。杭州市では二〇〇八年から市内レンタル自転車システムを整備、すでに千以上のレンタル自転車コーナーが市内各所に設けられている。公共交通網を補完するためにバス停の前後「一キロの路程」を自転車で補充しようという試みである。上海や武漢などの大都市でも、自転車を都市交通の補助手段にする試みが行われている。
二〇〇九年九月二十二日、中国住宅・都市農村建設部(省)は「中国都市ノーカー・デー」を試行した。ラッシュ時には自転車が高効率であり、自動車よりもずっと速いことを人々に知らせるためである。
世界中の都市が多かれ少なかれ交通問題で頭を悩ませている。解決のための知恵を世界に求めているが、結論はおおむね公共交通の充実にたどり着くようだ。
スイスやドイツではカーレンタルのシステムを充実させ、どこでも借りられて、どこでも返せるという利便性を整えている。人々に自家用車を買うよりカーレンタルを利用するよう呼びかけているのである。
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北京市第三環状道路東部分の「国貿橋」立体交差。渋滞が続く(CFP) |
米国のシアトルでは、相乗りする人々のために専用道路を設け、停車や駐車にも優遇措置を行っている。一人で一台のマイカーを運転している者には、一時間四ドルの駐車料金を徴収する。オーストラリアのパース市では、商業・金融区には無料のシャトルバスが運行しており、英国のロンドンでは、交通渋滞税の導入を考えているが、多くの専門家が支持している。
マイカーがステータス・シンボルになっている現実
中国の都市はどこも人口が多いという特徴が顕著だ。諸外国で奏功している解決方法を導入できるかどうか、疑問視する向きも多い。複雑な客観的条件のほかに、もっと難しい問題が中国には横たわっているからだ。マイカーを持つことが、中国では一種ステータス・シンボルになっているために、マイカーの購入を控えるように導くことが極めて困難な状況にあるのである。
公共交通の普及と充実を長年訴えてきた沈青・米国ワシントン大学建築・都市計画学部教授は次のように述べている。
「マイカーの利便性は公共交通に比べて高い。それは大都市ではいっそう顕著で、マイカーがいかに便利であるかを知ってしまった人々の足を公共交通が取り戻せるかどうかは、たいへん難しい問題なのである。政府にできることは、新都市区を開発するにあたっては、公共交通と都市計画を十分に関連させることである。多くの人々がマイカーを購入する前に公共交通が十分に発展していれば、人々はその利便性に依存するようになるだろう」
人民中国インターネット版 2010年11月2日