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書店めぐりと古書市探検 「本の虫」にはたまらない

高原=文・イラスト 馮進=写真

本の好きな人ならどこを旅行しても、その地の書店を一度はのぞいてみたくなるものだ。ベストセラー、ロングセラーは、どこでも同じようなものだが、どんな本を選んでどう並べているか、書店ごとにさまざまなので、のぞくたびにわくわくする。書店は店主の持ち味を反映し、書店街はその都市の品位を物語っていると言ってもいいだろう。

山ほどの本をいつ読む?

上海で書店めぐりをするなら、お勧めは福州路だろう。にぎやかな南京路の歩行者天国から信号二つの距離で、福州路に入ると人込みはなくなって、ぐっと静かな雰囲気になる。書店に行かない人でも、南京路の活気に溢れた賑わいを逃れて、ここで一休みすると、ざわついた気持ちを落ち着かせることができる。

インターネットカフェを「網吧」というが、書店兼喫茶店は「書吧」。夜のとばりに包まれたEASO ROOM

 住宅街の路地にある渡口書店の店内。こじんまりしたつくりだが、本の並べ方もユニーク

福州路の人気書店の中で、もっとも大きく、もっとも人目を引くのが六階建ての「上海書城」だ。各分野の図書がそろっており、航空母艦級の書店といったところだろう。こうした大型書店はウォルマートのようなスーパーマーケットの印象を与える。しかも、最近の書店はプラスチック製の買い物カゴを用意しており、ますます「スーパー感覚」だ。

こうした「空母書店」に一歩足を踏み入れると、たちまち「スーパー感覚」が伝染してしまい、もともと買いたかった本以外にも、「おもしろそうだ」「おもしろいかも……」「この際、ついでにもう一冊」などの理由で全部買ってしまう。家に運んで帰り、本の山を前にして、いつ読み終えることか、とため息を着く羽目に。いつもながら、山ほど買っても、読むのは大仕事。

これが書店の魅力なのだろう。ネット書店がかなり普及したとはいえ、ネットで見て気に入った本は、せいぜい「お気に入り」にしまいこんで、急いで買おうとはしない。ところが、書店で手に取ると、インクのにおい、紙の手触り、文字のフォント、行間、そして装丁や文字の美しさ…… すべてが五感に訴えてきて、ついつい買い物カゴに入れてしまう。   近い将来、コストが安い電子ブックが読書の主流になるかもしれない。そうなると、紙製で糸でとじた書物などはぜいたく品になってしまうかもしれない。そう考えると、本好きのわたしたち貧乏読書家は金持ちのぜいたくを先取りしていることになる。

古書市で掘り出し物探し

文廟書市は上海でもっとも有名で最大規模の古書市だ。毎週末に開かれ、上海中の「本の虫」がみんなやって来たような賑わいで、「宝探し」が始まる。念願の宝物をいち早く探し出そうとする多くの人が午前七時前にはもう文廟の門前に集まって開門を待つ。その人たちを目当てに、門前には以前から古書の露店が並ぶようになり、これがだんだん早くなり、前日の午前零時には人が繰り出しはじめ、門前に「夜店」が開かれるようになった。これが有名な「文廟鬼市」だ。

わたしたちが文廟に着いたのは午前十時。いちばんにぎわう時間帯だ。入場料の一元を払って門内に入ると、境内は思ったほど広くない。上海は「土一升、金一升」というように地代が高い土地柄で、何でも北京よりも一回り小さい。その感覚にも慣れなければならない。

毎週末にだけ開かれる文廟古書市。本を手にとって、じっくり宝物を探す古書ファン

 通勤客に重宝がられている地下鉄駅構内の「季風書店」

古書市をひとめぐりしてみて、人がいちばん多いのが「連環画」を扱う屋台であることが分かった。連環画は、中国独特の絵物語本で、各ページに一枚ずつ絵が描かれており、その下に物語が数行載っている。聞くところによると、連環画は文廟古書市の最大の特色で、上海市連環画協会の会員の多くがこの古書市で育てられたそうだ。会員たちは「宝探し」の常連で、中には、珍しい連環画全集を見つけたものの、持ち合わせのお金が足りず、乗ってきた自転車を代金に充てた人までいたとか。

このほか、私は古書市でもうひとつ興味深い掘り出し物を見つけた。人事档案(永久保存される個人の学歴や履歴、表彰や処罰などの記録)だ。  一軒の屋台で分厚いクラフト紙製の袋を見つけた。ある紡績工場の名前が表書きしてある。好奇心から開けて見ると、中にきちんと容れてあったのは十数人分の档案だった。勤務評価から経歴、賞罰までそろっている。紙は黄色く変色しており、筆跡は手書きで、かなり以前のものらしい。

「これは売り物?」と、聞いてみた。「一袋二十元だよ」と店主。档案に記録された人物のずしりと重い一生に比べると、何と安いことか。

風変わりな書店兼サロン

以前から上海には変わった「アクセント」を付けた渡口書店という名の小さな書店があると聞いていた。行って見ると、思っていたよりも狭く、二十数平方メートルあるかないかで、本棚が四、五本並び、展示台が一つ、座ってお茶を飲んだり本を読んだりできる四角い机が一つ、それにレジがあるだけだ。書店というより、誰かの家の書斎といった感じだ。  本の並べ方もユニーク。明確な分類はされておらず、どの本も一冊だけ。大陸版、香港・台湾版、それに英文版も一緒くただ。中には、ぼろぼろになった本もあり、買う人がいるのだろうかと思わせるほどだ。本の選び方は「紳士的」で、よく売れている通俗読み物などは、まったく無視されている。歴史、文化、社会を問わず、思想性を重んじているが、堅い学術的な読み物は多くない。

暫くして気が付いたことだが、ここは「書店」の看板を掲げたサロンなのだ。本好きの人たちがここに集まり、お茶を飲みながら友情を深め、胸のうちを語り合う。こうした小さな店で、好きな本や本の情報を交換しあうのは、たしかに楽しいことに違いない。

若い読書ファンに気に入られている EASO ROOM

左の写真はのテーブルの上においてある「情報交換箱」。本の交換を希望する人は書名などを書いたメモをここに入れておく 

わたしたちは以前、香山路にある喫茶店「EASO ROOM」でそうした活動に参加したことがある。店はたいへん小さく、一階にはレジがあるだけで、壁は格子状の棚になっていて、女の子が好きそうな小物を並べて売っている。二階に上がると、そこが喫茶店だった。三、四卓のテーブルがあるだけで、傍らには本棚が二つ。その本棚に客が持ち込んだ古書やCD、DVDなどが置かれている。

本を交換したいと思う人は毎週火曜日の夜に、本を持参してやって来ればよく、一冊で一冊と交換する。専門書と教科書はお断り。この活動に参加する人は上海の隅々からやって来るそうで、ふだんは「豆瓣」サイトを通じて連絡し合っている。「豆瓣」サイトは主に書籍、映画、音楽をテーマに情報を提供・交換する人気サイトだ。参加者の中には、家にある不要の図書を一度に数十冊も運び込んで「新しい主人」を探す人、仕事が忙しいので、友人に頼んで本を速達で送って来る人、また、中には何度も参加しているのに、いつも一册の本も持たずにやってきて、ここで友人と会い、好きな話をして時間を過ごすのが無上の楽しみだと言う人もいる。

information

上海書城 場所/上海市黄浦区福州路465号 アクセス/地下鉄1、2、8号線「人民広場」駅

文廟古書市 場所/上海市黄浦区文廟路215号 アクセス/地下鉄8号線「老西門」駅

渡口書店 場所/上海市巨鹿路828号 アクセス/地下鉄2、7号線「静安寺」駅

EASO ROOM 場所/盧湾区香山路32号 アクセス/地下鉄1、10号線「陝西南路」駅

 

人民中国インターネット版 2010年11月

 

 

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