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万博の成果を都市化に生かそう

陳言

コラムニスト、『中国新聞週刊』主筆。1960年に生まれ、1982年に南京大学卒。中日経済関係についての記事、著書が多数。

「より良い都市、より良い生活」をテーマとする上海万博は、半年の開会期間中に中国内外から約7000万人の来場者を引き付けた。都市は経済発展の結晶であり、最先端の技術が集積される。一国の過去、現在そして未来を、その国の展示から垣間見ることができた。

 国内の来場者の多くは、中国のメイン展示会場を見た後、サウジアラビア、ドイツ、イギリス、日本のパビリオンに向かった。都市化関連の新しい理念、最新の科学技術、未来の生活へのあこがれや好奇心にかられて、ひたすら見学を楽しみに、時には六時間以上の待ち時間にも耐えていた。

 国外の来場者は、何といっても高くそびえ立っている赤い中国パビリオンを目指す。途中で中国の各自治体や企業の展示を見て、現代中国にアプローチする。小説、映画に描かれた中国のイメージと、万博で見たものとはかなり違う。中国を何度も訪問した人でも、ここで多様性に満ちた中国に対する理解をより深めることができたはずだ。

最新科学技術の全容を展示

 万博には中国も1876年から展示品を出してきた。しかし、最初の百年間に中国が出品したのは、シルク、骨董品、玉細工、陶磁器、筆、家具、墨などの農産物製品か手工芸品が主だった。農業中心の中国には、世界に公開できる先端的な工業製品が少なかった。工業先進国のイギリス、ドイツには遠く及ばなかったし、後に急速に世界の先端に仲間入りした米国、日本と並ぶこともできなかった。

 中国は上海万博で最新の科学技術、グリーン・パビリオン、生活に対する新しい理念などをできる限り集め、初めてその全容を展示した。

 照明一つ取ってみてもその一端が見える。「万博エリアでは80%以上の夜景の照明は、LEDランプを使っている。それだけでも3割以上の電力を節減ができる」と、上海半導体照明エンジニアリング研究センターの熊峰部長補佐は言う。2009年ごろから中国政府はLEDランプの普及を呼びかけているが、ほとんどの電球をLEDにしたのは、上海万博であり、「LED技術を集中的に展示して、今後の普及の契機を作り上げた」と熊氏は見る。

 万博会場では毎日飲料水を供給しなければならない。水道水を直接飲めるようにすることが、努力目標の一つだった。117の蛇口は、数千万人の来場者に十数トンの水を提供してきた。「活性炭+PVC超合金フィルター+紫外線」という技術を使って、細菌の駆除率は、99.9999%に達し、ウィルス駆除率も99.99%まで上げた。水道水の直接飲用は、水を沸かす過程によるロスも節約できた。この飲料水供給方式は、今後、中国の各都市にも普及していくとみられる。

 通信関連の最新技術、第四世代通信方式(4G技術)も万博では使用されている。中国の通信社のカメラマンは、TD-LTE技術を使って撮影し、無線でハイビジョン映像を送る。

 通信関連の技術についても、1G段階ではネット技術、設備、端末のすべてを輸入に頼っていた。2Gでは国産化率は20%になり、3Gとなると、通信関連のチップ、基板、ソフトなどの国産化がさらに進み、4Gでは、ハイビジョンの送信技術で示したように、万博では中国独自で開発した技術が実際に使われた。

 中国はやっと農産物、手作業で作った工芸品以外に、近代の都市生活、それにかかわる科学技術を中心に中国のイメージを全面的に海外に展示できるまでに成長した。  「ビザを持たずに、世界を周遊しようとすれば、何かいい方法があるか?上海万博に行こう」というキャッチフレーズは、万博前から流行っていた。地方に行けば、多くの都市に「ワールド・パーク」があり、世界の名勝地を一カ所に集めて、住民に楽しんでもらっている。しかし、都市をテーマにして、5.28平方キロの広いエリアを使って、世界各国が自らその歴史、理念、近況を紹介したのは、上海万博だけだろう。

万博会場の80%以上の夜景照明は省エネのLED技術を使っている(新華社)

 サウジや日本などのパビリオンは、最先端の映像技術、建築技術を駆使して、アラビアの歴史、最先端の近代都市生活、環境保護などを紹介している。来場者はそれだけ鑑賞しているより、むしろまだあまり情報のない世界、具体的なイメージがはっきりしない近未来の暮らしをここで自分の肉眼で見ることに興味を持ったはずだ。サウジのパビリオンは、遠い砂漠の国のイメージと「千夜一夜」をない交ぜにした幻の世界を再現してくれた。一方、日本のパビリオンは、きわめて現実的で、4、5年先に、あるいはもう少し頑張れば、今の普通の人でも手が届く近代生活を展示していた。30年前、家族全員で十数年間に貯めたお金で初めて日本製の12インチのカラーテレビを買い、次に求められそうなものはしばらくないとあきらめていた当時の市民感覚とはかなり違う。エコ家電でも、省エネ自動車でも、本当に買おうとすれば、万博を見に行った人ならば、できないことではないだろう。

 イギリスのパビリオンは、無数のガラス管でタンポポの花の形を作っている。その一つ一つの管に、種が入っていることが象徴しているように、万博は来場者の見聞を種にして、7000万人の心に播いたと思われる。

 都市化を磁力にして、近代中国の変化、これから目指すところ、さらなる夢を一つのエリアに引き寄せた。都市と農村の人口は、ちょうど今、中国全人口の半々を占めているが、今後、工業化の推進によって都市人口は徐々に増大していくだろう。上海万博は中国の都市化の現状を総括したと同時に、世界からその知恵を借り、新しい都市化を目指そうとしている。

 「万博から始めよう」というキャッチフレーズが、上海の空に響き、都市化における新しい理念の模索、新たな実験などがすでに始動している。都市化の転換点に開催された上海万博は、今後、末長く人々の心に残るだろう。

 

人民中国インターネット版 2010年11月

 

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