入館者も手作り体験「三民」工芸博物館
高原=文 馮進=写真
工芸品が並ぶ屋台で、可愛いらしいしん粉細工や、精緻な切り紙細工を目にしたあなたは、自分でも作ってみて、友人にプレゼントしたいと思うのではないだろうか。最近、こうした民間手工芸品づくりを教える体験型ワークショップが、上海で流行し始めている。一般的なのは、切り紙やしん粉細工、刺繍、編み布ボタン、陶芸、篆刻を教える店で、ほかに唐傘づくりやろうけつ染めを教える店もあるが、こちらは「授業料」が当然のことながら高めに設定されている。
今回紹介する上海民族民俗民間工芸博物館(地元では、ふつう「三民文化センター」と呼ばれる)では、さまざまな中国民間工芸のワンストップ体験ができる。ここに来れば、民間工芸を学ぶためにあちこち訪ね回らなくてすみ、コストも省けて、たいへんリーズナブルだ。
ミニ唐傘づくりに挑戦
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わたしたちは、「撑花鋪」というワークショップで、唐傘づくりの職人が見事な絵が描かれた傘生地に桐油を塗っているところを見学した。古風で素朴な風格をもつ傘には有名な「上海・金山農民画」が描かれていた。唐傘の風格と絵がぴったり合って、なんともいえない雰囲気をかもし出す。現代社会では、唐傘は雨や強い日差しをさえぎる実用品ではなく、室内装飾品として伝統的な情趣のシンボルになっていると言ってもいいだろう。傘の骨は竹で作られているが、竹には「節々高昇」(どんどん向上する)の意味がある。丸い形は団欒と円満を象徴し、傘生地に塗られる赤色と桐油には厄払いや、吉祥を永く保つといった意味が込められている。
現代の詩人、戴望舒には有名な『雨巷』の詩があり、次のように詠われている。「彼女は雨の降るうら寂しい路地をひとりさまよい歩く 唐傘を差して 私と同じように 私と同じように黙々と歩く 寒く寂しく もの悲しく そして憂鬱につつまれて」。この詩を味わうと、唐傘への愛着がいっそう深まるのは、わたしだけだろうか。
唐傘の歴史は明末清初にまで遡ることができる。最初、傘の骨には四川省南部の標高800メートル以上の山から伐り出される楠木が使われた。強靭で、防湿、防虫の効果もある。
現在の唐傘づくりは、竹の骨を削り出すことから、紙を切り石版で色刷りし、骨に紙を張り、乾燥させて桐油を塗るまで、100近くの制作工程があるが、近代的な機械はいっさい使わず、400年前の伝統的な制作方法にこだわっている。このワークショップでは唐傘制作の基本的な工程がすべて見学できるほか、手のひらサイズのミニ傘に、自分で図案を描き、桐油を塗り、乾かすという作業を体験することもできる。ミニ傘ながら、一種の達成感を味わうことができるだろう。
上海情緒豊かな工芸品
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頭髪刺繍作品を実演する職人 |
毛糸刺繍は最初ヨーロッパで流行し始めた。1930年代に、上海の毛糸刺繍芸術家が配色技術を改良し、使う色をそれまでの数十種から1000種近くまで増やし、その上、色の組み合わせや、色を重ねる技法も創出して、人物肖像画を生み出してから、上海の民間工芸として有名になり、今日に至っている。毛糸刺繍の人物肖像画はグラデーションがとりわけ豊かで、生き生きとした表情までも描き出すことができ、絶品とたたえられている。
この毛糸刺繍よりもさらに「海派(上海情緒)」の特色が豊かなのが竹編みと麦わら絵だ。「海派」芸術には一貫して濃厚な「文人気質」があり、工芸は精巧で、清新と淡雅を特徴としている。竹編みと麦わら絵はその代表作だと言えよう。
宋代の文豪、蘇軾の詩句には「食に肉なくべくも、居に竹なかるべからず」(食事に肉を欠いてもいいが、住まいには竹をあしらうことが、どうしても必要だ)とあるが、中国文人の竹に対する強い愛着がこの詩からもうかがえる。竹編み工芸はこうした「気質」から生まれたもので、竹に対する要求が高く、特定の品種を用い、数十の工程を経て取り出される竹の繊維は、50キロの竹からわずか50グラムほど。髪の毛のように細く、セミの羽のように薄く、腐らず虫にも食われない。その作品は生き生きとし、真に迫っている。創作者に対する技術的な要求はきわめて高く、作品の一つひとつが念入りに仕上げられる。
麦わら絵も竹編み工芸に似ている。「海派」芸術特有の細やかさと優雅さをもち、また麦わらの天然の光沢と色を生かし、独特の効果を生み出す。心強いのは、この二つのワークショップで制作にあたるメーンスタッフが皆、非常に若いことだった。わたしたちは伝統工芸の伝承にいっそう自信を持つことになった。
伝統文化の精華を堪能
竹編みはきわめて精緻な工芸だと言えるが、三民文化センターには、より以上の精緻さ繊細さを特徴とする手工芸があり、それが頭髪刺繍だ。文字どおり人間の髪の毛を使う刺繍で、ここの頭髪刺繍ワークショップの主人は蘇州刺繍の伝統を引き継ぐ人だった。彼女の作品は、大きな仏像が主で、その輪郭線はまるで流れるかのようだ。この美しい輪郭線が一定の形状になりにくく、しかも結び目のある髪の毛で刺繍されていると思うと不思議でならなかった。
こうした高度な技術が求められるワークショップでは、切り紙、篆刻、しん粉細工のワークショップのように自分で体験することはできないが、これほど完璧な工芸技術と作品をつぶさに見ることは、決して無駄な旅とは言えない。体験区のほか、三民文化センターのメーン展示ホールでは、不定期の文化テーマ展を楽しむこともできる。わたしたちが訪れた時には、ちょうど故宮秘蔵歴代書画古典芸術大展が開かれており、精巧な複製品による古典芸術の粋を堪能することができた。民間工芸も詩情あふれる宮廷芸術も、どちらも中国の伝統文化の精華だ。わたしたちはその両方をしっかりと目に焼き付けたのだった。
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竹編みの茶具 |
竹編み作品を実演する職人 |
人民中国インターネット版 2011年8月