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貴州の茅台酒 中国が世界に伝える芳香

 

文=謝念

酒神の君臨する地

言葉にならない思いが沸いた。

貴陽市から北へ向かい遵義を経て、さらに西北へ。旅の興奮が200キロの移動のうちに消えていこうとするその時、漂ってきた淡い酒の香りに、思わず息を深く吸い込み、元気がまた沸いてきた。

その場所は、茅台鎮から数キロの場所だった。多くの人々がこうして芳香のとりこになり、赤水河の谷間にある小さな村に向かったに違いない。赤水河の航空写真を撮影した記者から、空中でも香りをかぐことができたと聞いたことがある。

中国では、赤水河の面積はそれほど大きくないが、名前はよく知られている、中国の国酒である茅台酒があるだけでなく、茅台鎮を数十キロ下ると、同じく「中国伝統の八大名酒」に属する「四川郎酒」がある。そのため赤水河は、「美酒河」とも呼ばれている。またかつて共産党軍は、長征において、「四渡赤水」の有名な戦術をとった。「四渡」のうち、「第三の渡」は、茅台である。

貴州は酒神の君臨する地である。赤水河から17万平方キロにわたって広がる絶景の山水、あふれる緑、汚れのない世界をみれば、酒神が縦横に腕を振るいたくなる気持ちが分かるというものだ。「中国伝統の八大名酒」は、遵義市が二銘柄を獲得している。茅台のほか、独特の制法による「薫酒」がある。加えて、「習酒」「珍酒」「鴨渓窖酒」「湄窖」などがあり、貴州北部の大酒蔵を支えてい る。遵義のほか、興義の「貴州醇」、鎮遠の「青酒」、安順の「安酒」、金沙の「回沙窖」、徳江の「天麻酒」などがさらに彩りを添える。

貴州の山々を巡れば、米酒、黒もち米酒から、「杜仲酒」「クコ酒」「キヌガサタケ酒」「ヤマモモ酒」など家々で美酒が醸造されている。

「女酒」「母酒」「鶏のとさか酒」「牛角酒」「定情酒」「占い酒」「敬客酒」「散歩酒」「交杯酒」「九遷酒」「ビアンダン酒」・・・・・・など「朝晩、日々酒」という言葉は誇張ではなく、酒と貴州の人々の生活は切り離せない。酒を欠く席はこの地にはありえない。

欠かせない「晩酌」

黔南プイ族ミャオ族自治州都匀市の烙多苗寨では、土製のかまどと鉄鍋を用いて酒を蒸留する古来の方法がまだ至るところで行われている(盧慶文)
貴州の人々にとって、茅台酒は国酒であるが、それよりも故郷の田舎酒である。よその土地からやってきた旅人は、貴陽の夜の屋台街で、土地の人々が安い焼肉をかじりながら高価な茅台酒を飲んでいる風景に驚かされる。

酒は貴州人の血のなかに入り、貴州の特色ある地方文化となり、民族文化の重要なプラットフォームである。

1915年、焼き物のカメに入れられた貴州の茅台酒は、アメリカ、ロスアンゼルスで開かれたパナマ万国博覧会に参加し、中国の役人があわててカメを地面に放り投げた瞬間に、香りが四方に満ち、茅台酒は金賞を得、世界の三大名酒となった。中国は世界に向け、芳香の名刺を差し出したのである。

1949年以降、茅台酒は、ジュネーブでの外交、中国とアメリカの国交回復、中国と日本の国交回復などの中国の政治史のなかで特殊な役割を果たし、数々の名酒コンテストで優勝し、「国酒」の名に恥じない。茅台には、内外の政治的指導者が茅台酒を味わう写真が数百枚もある。

多くの外国人にとっては「マオタイ」は、中国の白酒(雑穀などを原材料とする中国の蒸留酒)の代名詞であり、中国を直接に代表し、往年の陶磁器のような存在である。

もし、茅台酒がみなの才能を代表するものだとしたら、漢字では表記できない「ビアンダン酒」は、貴州の酒の親しみと田舎の雰囲気を代表するものである。

「ビアンダン酒は、酔わなくても3日は眠る」といわれる。農家が米を用いて醸造する米酒は、魂を奪うような女性に似て、一見、穏やかだが、飲みすぎると恐ろしい結果を招く。

貴州では、毎日のように、夕方になると顔を真っ赤にした男を道端でみかける。毎日、太陽に背をむけ、顔を地面に向けて暮らしている彼らは、酒が醒めればまた対峙しなければならない、日々の生活のわずらわしさを、天のかなたに放り投げることに成功したのだ。飲んだ者が歌う小唄、よろよろとした足取りは、夜の市場の屋台外の茅台酒とともに、貴州の人々の豪放さ、自由な生活のありさまを映し出す。

 

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