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辛さと酸味――貴州の美食文化

 

貴州省の略称は「黔」あるいは「貴」であるため、貴州料理は「貴州菜」あるいは「黔菜」と呼ばれる。貴州料理は、現地の少数民族料理文化と外来の飲食文化が混ざり合ってできたものである。貴州料理は辛さと酸味が際立っており、「純粋な辛さ、鮮烈な酸味、豊かな香り、濃厚な味わい」を追求した料理である。今日、貴州省各地の名物料理が観光客に供されており、豊かな少数民族文化を背景にしたさまざまな地方色あふれる貴州料理は、中華料理の体系の中の一つの重要な構成部分になっている。

各家庭にトウガラシが常備されている
歴史上、貴州は塩の産地に恵まれず、交通も不便だったことから、数百年間、塩の不足に悩まされてきた。民間では長い間、トウガラシと醸造酢が塩の代わりとなり、少数民族地区ではさらに幅広く穀物や魚、エビ、トウガラシとトマトで酸味料が作られた。

中国の俗諺に、「四川人不怕辣,湖南人辣不怕,貴州人怕不辣(四川人は辛さを恐れず、湖南人は辛くとも恐れず、貴州人は辛くないのを恐れる)」ということばがある。貴州人の辛いもの好きは一般のそれとは全く程度が違う。貴州の一般家庭でもトウガラシを使った料理を5、6品作ることは珍しいことではない。現在、中華料理の1品として広く知られる「宮保鶏丁」は実は伝統的な貴州料理の一つで、これは貴州人であった清朝の名臣・丁宝楨が考え出した料理である。

貴州料理はトウガラシを多用した辛さがその主な特色であり、有名な料理の大半がトウガラシと密接な関係にある。貴州人はトウガラシを用いるにあたって、その加工を体系的に行い、特徴的な調味料にまで高めた。貴州料理の辛さはそれぞれ異なり、料理の辛さは「油辣(ラー油の辛さ)」、「煳辣(焦がしトウガラシの辛さ)」、「干辣(干しトウガラシの辛さ)」、「青辣(青トウガラシの辛さ)」、「糟辣(糟漬けトウガラシの辛さ)」、「酸辣(すっぱく辛い)」、「麻辣(花椒を加え、しびれるように辛い)」、「蒜辣(にんにくを加えた辛さ)」の8つに分けることができるといわれる。

貴州料理は「蘸水(チャンシュイ)」と呼ばれるつけだれにも特徴がある。主にトウガラシ、おろしニンニク、刻みショウガ、刻みネギ、花椒(サンショウ)、うまみ調味料などを適量混ぜ合わせて作る。加えるトウガラシの製法によって、つけだれも数種類に分けられる。料理によって合わせるつけだれも異なり、同じ料理でも違うつけだれを使うとまた違った口当たりになる。

貴州料理のもう一つの大きな特徴は酸味で、昔から「三天不吃酸、走路打蹿蹿(三日すっぱいものを食べないと、歩く足がおぼつかなくなる)」という民謡が広く歌われているほどだ。それぞれの家で酢漬けを作り、食べれば食欲を増し消化を促すという効果がある。酸湯(酸っぱいスープ)は天然発酵させたさっぱりとしたスープだが、酸味が食欲をさそい、油脂の消化を助ける作用などもある。その最も有名な料理が「酸湯魚」である。

酸湯魚は今日の黔東南ミャオ族トン族自治州に住むミャオ族が生み出した料理で、来客をもてなしたり祝祭日の時に必ず用意される。現在では国宴菜(国賓をもてなすための料理)にも選ばれている。酸湯魚を食べるときはまず一口スープを飲む。するとたちまち両の頬内に唾液があふれ、そのあとで新鮮でやわらかな魚の身に箸をすすめる。貴州省の農民の中には、この酸湯魚のごちそうさえあれば、魚を食べつくしたあとは、スープにご飯を浸してスープもご飯もきれいに平らげてしまう者も少なくない。貴州を旅する以上は、民族の特色が豊かなこのきりっと酸味の効いた料理を食べないわけにはいかない。その独特な酸味と鮮烈な味わいは他の地方の料理にはないものである。

貴州にはさまざまな小吃(シャオチー=軽食)がある。香り高い辛さや味わい深いうまみがあるだけでなく、色彩も鮮やかで、その形もまた美しい。貴陽市内では本場の「貴州味」の小吃が手軽に楽しめる。

貴州は山が多く、貴州料理に使われる材料は山の奥深くの汚染のない環境で取れたものばかりで、自然のままの味が活かされている。貴州の特徴的な地形と民族文化が、貴州料理の郷土色をずっと保ち続けてきたのである。

貴州料理は省内各地のさまざまな料理の粋を集め、辛い・酸っぱい・うまみがあるという特徴に、少数民族の豊かな文化やそれぞれの地方の特徴が融合されて、中華料理の逸品へと昇華したのである。

貴州料理は今日、上海や北京などの沿海大都市でも多くのグルメから歓迎されており、貴州料理レストランはどこも連日満員の活況を呈している。

布依牛干粑

豆麺糍粑

苗嶺酸湯魚火鍋

 

貴陽市合群路の「小吃夜市」

貴陽市に滞在して心を動かされることの一つに、貴州人の自由闊達なライフスタイルがある。市の中心部に位置するにぎやかな合群路の夜市(日が暮れてから屋台店が並ぶ夜間の市)に足を運べば、そのライフスタイルを存分に味わうことができる。

数百メートルの長い道なりに、さながら龍が横たわるかのように小吃の屋台がずらりと並んでいる。種類豊富な串焼きから鍋煮込み、麺類、生春巻まで、デザートには各種の果物からアイスクリームまで、何でもありの小吃夜市は、さながら貴州小吃のオンパレードといった感がある。夜市は深夜まで営業している。

 

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