中国という機会、そして脅威
19歳当時より慶應義塾大学在学中にベンチャー企業を設立し毎日忙しくしていた頃、しばらくして私はふと海外にも目をむけてみようと突然思いたち、日中政府の支援する青年交流プログラムに参加する機会を得ました。これが私の最初の中国との出会いです。その時2001年の訪中体験を言葉で簡潔に表せば、まさに「発展と希望」であり、同時期に日本で感じていた「停滞と閉塞」との対照イメージに血気盛んであった私の心に何かが熱く燃え上がったことは今でも忘れられません。
社会人としてビジネスに従事しながらビジネススクールにも通う、いわゆる欧米型のキャリアアップ計画をたて、大学卒業後英国留学を経て北京にも生活の根を下ろしました。以来8年間、刺激的な中国式ビジネスの実務と先進的な欧米式のマネジメント研究に没頭し現在に至っています(近年は特にアニメ・コンテンツ産業)。中国は、個人・私企業から見れば大いなる「競争上の機会」であると同時に、日本という国家からは「競争上の脅威」でもあると言われる昨今ですが、私自身はその機会増加と国際関係安定のために必要な二国間情報ギャップを埋める助力となることを目的に活動しています。
クールジャパン成功の鍵は、中国式ウェーブ×日本式エッセンス抽出の可否
私が大学院で中国進出を目指してきた日本企業を研究していますと、中国市場で日本企業が予測しえなかった「擬似代替商品」による失敗例は多くありましたが、近年では日中両国政府の関連法制度への取り組みの改善効果が徐々に出てきたようです。また、これらの制度的追い風よりも更に重要な中国市場でのビジネス成功要因は、多くの産業分野において中国の素早い市場成長によるポジティブな効果が、制度的発展途上段階のビジネスモデル構築不確実性によるマイナスの効果を上回る波(タイミング・地域・セグメント)を見極めることといえます。これが所謂、中国式ビジネスの「手法」といわれるものでしょう。
最近私が最も関わるエンターテイメント・アニメ・コンテンツ産業におきましては、これまで日本のビジネスモデルをそのまま「移動」することではまったく歯が立たなかった中国市場で、中国企業によりコンテンツビジネスの中国式新手法が確立しようとしています。まさに、日本は「クールジャパン」としてアニメ・コンテンツを発信したい立場でありますので、元来よりこの中国式コンテンツビジネスの担い手として、中国企業だけでなく日中両国企業の積極的コラボレーションが期待されていますが、この日本企業が中国の波にのるチャンスは、モノヅクリ産業と異なりビジネスモデルの単純な地理的移動ではなく、如何に日本式ビジネスのエッセンスを細分化して中国市場に「カスタマイズ・移植」できるか、という事業意識変革にかかっているでしょう。
今年こそ、「友好」を捉え直そう!
コンテンツ産業の例のようにビジネスの世界では、次第に日中両国の制度的・商習慣的・価格的ギャップが埋まってきています。そして、中国式の斬新なニューウェーブが発見されてきています。こうした事例から転じても「日中友好」という両国関係性の概念そのものの発信者を、これからは十分に活力のついた民間セクターからより増やしていく必要があるのかもしれません。
今年は日中国交正常化40周年であります。真の日中友好は、常に変化していく日中両国関係の上で積極的に見直すべきであり、ギャップの大きかった時代からの古典的・セレモニー的な点と点の友好事業ではなく、日中両国の各セクターが同じ土台にたち真摯な努力の結果として、豪華さはなくとも相手国市民への自国イメージ向上に繋がる持続性ある友好事業が展開されることが期待されますね。
中川幸司(なかがわ・こうじ)
慶應義塾大学商学部卒業、英国留学を経て、2006年より北京大学大学院光華管理学院博士課程にて経営学(戦略マネジメント)を研究。研究結果を政策立案・国際コンサルティング実務にも活用し産学連携を提唱する。主な研究内容はNGOマネジメント、国家産業イノベーション戦略、中国におけるコンテンツ産業戦略など。
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