取材協力=観光庁
2003年、国土交通省は訪日外国人旅行者1000万人を目標に掲げる、訪日旅行促進事業(ビジット・ジャパン)を発足、10年後の2013年、ついにその目標を達成した。特に中国人旅行者の増加は中でも群を抜いており、日本の各メディアでもその活況ぶりはしばしば紹介されている。
順調に増加する中国人観光客のさらなる誘致は、地方活性化の面からも大いに注目されている。そこで、国土交通省観光庁の久保成人長官へのインタビューと観光庁のデータをもとに、今後の展望を探ってみた。
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「新聞やテレビの報道に左右されず、自らの目で見て感じていただきたい。『百聞は一見にしかず』です」と語る久保成人長官 |
内陸部の潜在力に注視
日本政府観光局は現在中国では北京・上海・香港に事務所を構え、微博(中国版ツイッター)や微信(ウィーチャット)などのソーシャルメディアを使った情報発信、旅行博への出展、メディアや旅行会社などの日本への招聘、主要駅構内での屋内広告宣伝などに加え、現地旅行社を通じての情報収集や市場調査を行ってきた。
昨年7月から9月にかけて行われた訪日外国人消費動向調査から中国人の居住区の割合をみると、上海市22.4%、北京市15.3%と、大都市の沿海地区が大半を占めている。よって今後は発展著しい内陸部に対して積極的にプロモーションを展開していく予定と久保長官は語る。
多彩な魅力は地方にあり
都道府県別訪問率を見ると、上位3位は東京都71%、大阪府46.3%、京都府32.1%と、東京、関西に集中している。この現状に対し久保長官は「恐らく日本を訪れている中国人旅行者のほとんどが初来日で、東京、大阪、京都といった大都市を行き先に選ぶのはある程度当然のことだと言えます。しかし日本の多彩な魅力を知っていただくために、今後はあまり注目されてこなかった地方を重点に情報発信していきたいと思っています」と語る。
地方の魅力PRに期待されるのが大型クルーズ船である。九州などを中心に各地に寄港しているため、旅行者が地方へ足を運ぶきっかけとなり、さらに寄港地の地域振興にもつながると久保長官は期待を寄せる。もちろん旅行者にとってもメリットは多い。船中泊のため、移動に伴う荷物の煩雑さがなく、荷物の重量制限が飛行機よりも緩いのは、買い物好きな人にとっては大きな魅力だ。
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2014年11月に出展した時の模様。着物や日本家屋風のセットで効果的にPRをはかる |
ビザ緩和で訪日観光を促進
昨年11月、北京で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の閣僚会議において、王毅中国外交部長と岸田文雄外務大臣は中日外相会談を行い、商用目的の訪問者、文化人および知識人、個人観光客に対する数次ビザの発給要件緩和を発表した。導入は2015年1月19日からで、より一層の訪日観光が促進される。
久保長官は、今後期待できる中国人へのアピールポイントをこう分析する。「日本には、例えば鑑真和上が建立した唐招提寺のような、中国とゆかりがある寺が多数あります。中国ではウインタースポーツが流行の兆しと聞きますが、ニセコに代表される日本のスキー場は、三浦雄一郎氏が太鼓判を押すような素晴らしい雪質に恵まれており、見どころ、遊びどころに事欠きません」「旅行の大きな楽しみは『食』ですが、その点でも日本は魅力的です。日本食は一昨年にユネスコ無形文化遺産に登録されていますし、世界一ミシュランの星を獲得しているのも日本です。また日本酒をはじめとするお酒も魅力のひとつで、今後はウイスキーにも要注目です。昨年、イギリスの『ワールド・ウイスキー・バイブル2015』において、日本のウイスキーが歴代最高得点を獲得、世界最高のウイスキーに選ばれました」。今後のPR展開については「他にもまだスポットライトを浴びていない観光資源が多数あります。それをどう掘り起こし、どう伝えていくのかが今後の課題です」「情報発信方法は、中国の旅行社を日本に招待し、実際に体感した日本を生の声で中国の皆さまに伝達していただくのが一番効果的であると思っています。同時に、ソーシャルメディアの活用も引き続き強化していきたいと思っています」
国連世界観光機関(UNWTO)によると、2013年における中国人の海外旅行客は約1億人。中国の人口約13億からするとまだほんの一握りである。かつて中国人にとって「夢のまた夢」だった海外旅行が徐々に手に届くものとなっており、この旅行ブームはまだ当分続くであろうと考えられる。巨大な中国市場に日本の魅力をどうアピールしていくか、手腕が問われる。
人民中国インターネット版 2015年2月
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