神秘的な文字をもつ少数民族
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シュイ族特有の象形文字「水書」(撮影・李瀟)(茘波) |
貴州省の省都・貴陽から車で4時間余り、広西チワン族自治区に隣接する茘波県。県の総人口の90%以上をプイ族、シュイ族、ミャオ族、ヤオ族など漢族以外の少数民族が占める。
中でもシュイ族は独特の象形文字「水書」を持つことで知られている。水書は父から息子へ、男子にのみ受け継がれ、もともと「水書先生」と呼ばれる「鬼師」や「師人」、すなわち神との対話や占術ができ、人々から尊敬される存在のみが使用する神秘的な文字であった。
生活環境の変化に伴い、現在水書の読み書きができるのは90%以上が60歳以上のお年寄りで、若い人はほとんど水書を解さなくなってしまったことから、維持・保存への声が高まり、「世界の記憶」プログラムにも申請された。
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色鮮やかなもぎたての木いちご(茘波) |
そんなシュイ族の人々が暮らす村のひとつが、亜熱帯カルスト地形に稀少な動物や原生林が残る茂蘭自然保護区内にある。
人口百人に満たないその村では、1人当たりの平均年収は650元、日本円にして1万円足らず。茘波県全体の平均が1700元というから、現金収入の手段を持たない、県内でも極めて貧しい地域だ。74歳のおばあさんも毎日畑仕事に出ている。一部、保護区内からの移転を余儀なくされた家や耕作を禁止された土地もあるが、基本的に村はそのまま保存の方向だ。
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茅台酒の有名な貴州だが、ほかんも少数民族のさまざまなお酒がある(貴州・青岩) |
ここでは生活による環境汚染を防ぐため、伐採を禁じ、家畜の糞尿などを利用したメタンガスによる発電や、煮炊きが可能な設備の導入が推進されている。設備は2000元余り。半額を政府が負担するが、莫大な出費には変わりない。それでも、自然を守り、世界遺産に登録されることで、自分たちの生活もよくなると信じる人々の身を切るような投資で、少しずつ普及率は上がっている。
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マーケットには、民族衣装を着た人たちの姿も(貴州・青岩) |
「自然保護って知ってる?」
「知ってるよ。火に気をつけなくちゃいけないし、山の木を切っちゃいけないんだよ。木の根っこは石をつかんでいるから、木を切ってしまったら雨が降ったとき、山が崩れてしまうんだ」
この村で生まれ育った呉国攀君(9歳)は、胸を張って元気に答えてくれた。世界自然遺産に申請、といわれても何のことかピンとこない年端のいかない子供でも、自然を大切にすることを知っている。
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高山植物の豊かな貴州ではさまざまな漢方薬が揃う(貴州・青岩) |
さらに奥へと分け入り、樟江風景名勝区を歩くと、どこか懐かしさを覚える光景が目の前に広がる。豊かな水をたたえた森の中の、水中に沈む木が透けて見える湖に、日本人なら上高地の風景を思い出すかもしれない。小七孔と呼ばれる橋の下を流れる水は、翡翠のような色がまぶしい。その上流では勢いよく流れる滝の水が頬を打ち、マイナスイオンに癒される。身も心も清められるような秘境だ。
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