現代世界の「管鮑の交わり」
G8と発展途上国首脳との会議に参加するため札幌に着いた中国の胡錦濤国家主席 |
今日ほど、世界各地で大小さまざまな会議が招集され、いろいろな課題が議論されている時代はないでしょう。フォーラムであったりサミットであったり、二国間もあれば多国間もあり、政府主導であったり民間主導であったりと、「会盟」華やかな時代といってよいでしょう。それだけ世界は多くの課題を抱えているということでもあります。
7月には日本でG8(注1)による洞爺湖サミットが開催されます。主催国日本は主な議題として環境・気候変動、アフリカ開発、世界経済関連(世界経済の持続的成長、投資、貿易、知的財産権保護、新興国の台頭、資源問題など)などを考えており、議題のいずれもが経済の発展と関連するものといってよいでしょう。
発言力大きい中国
江原規由 1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長。
世界経済において存在感を強めている中国は、アウトリーチ(主催国から参加を要請された国)の立場で、3日目の主要経済国会合を中心に参加することになっています。GDPの規模で世界第3位の中国は、G8のメンバー国でないとはいえ、経済発展関連の各議題に大きく関わっています。例えば、中国は新興国のトップランナーであり、中国の環境・資源問題は今や世界の課題となっています。また、中国経済の持続的成長はアフリカ開発にも貢献しています。中国は「盟約」に大きな発言権を持っているといえます。
中国の発言権(チャイナパワー)の基盤は経済力でしょう。中国が「改革・開放」政策に踏み切った1978年には、西独(当時)のボンで第4回サミットが開催されましたが、その際の主な議題は経済成長政策、インフレ対策、エネルギー政策、そして主要各国通貨の安定などでした。こうした議題はまさに今日の世界経済そして何より中国経済が抱えている課題と同じです。つまり中国は物価上昇、人民元高、内需主導への成長路線の見直しなどの問題を抱えているのです。
「会盟」の拠点である東アジア
この30年間、世界経済で何がもっとも変わったかといえば、なんといっても中国経済の台頭でしょう。例えば、2007年でみると、GDPは1978年当時世界の1%ほどであったものが5%以上となり、世界第4位。対外貿易では額にして78年の105倍となり、世界第3位(世界全体のほぼ8%)と躍進しています。外貨準備高は世界第1位で、2008年4月末現在、その額(1兆7600億ドル)はG8のうちロシアを除くG7の合計額を上回ったとされています(注2)。
中国経済はますます国際化しているわけですが、今後は東アジアとのいっそうの連携強化が期待されます(注3)。目下、東アジアは世界の成長センターとして、世界の生産拠点であり、かつ有力な投資先、貿易相手となっています。世界経済の中で東アジア経済が今日ほどプレゼンスを高めている時代はなかったと思います。これに大きく貢献しているのが中国と日本ではないでしょうか。今後、日中両国は東アジアで自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)の締結などをめぐって「会盟」する機会が増えることになるでしょう。
戦略的互恵関係の構築へ
「会盟」というと、斉の桓公が有名で、春秋時代に最多の9回招集し、諸侯間の問題を平和裏に話し合いで「盟約」させたとありますが、その業績の影には時の宰相、管仲の働きによるところが大きかったといわれます。その管仲を桓公に推薦したのが鮑叔でした。2人は「管鮑の交わり」(利害によって変わることのない親密な交際)として後世に語り継がれています。21世紀の日中両国は、「会盟」の主舞台となる可能性のある東アジアで、いずれが桓公になったとしても、利害調整などで「管鮑の交わり」の故事を実践し、両国の戦略的互恵関係を確固としたものにしてほしいものです。
さて、8月には北京五輪が開催されます。スポーツの祭典ではありますが、中国にとって史上最大の「盟約なしの会盟」といえるでしょう。中国の「和平崛起」に世界が注目しています。(0808)
注1 | 日本、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、ロシア、英国、米国の8カ国。このほか、中国、韓国、インド、インドネシア、オーストラリア、メキシコ、ブラジル、アルジェリア、エチオピア、ガーナ、ナイジェリア、セネガル、南アフリカ、タンザニアの各国首脳及びアフリカ連合(AU)委員長がアウトリーチとして参加。 |
注2 | チャイナネット2008年6月3日 |
注3 | 2007年、中国の輸出入総額の42%が東アジア各国・各地との交易によっており、そのうち輸入は48%(約4600億ドル)だが、商務部によれば、中国は今後5年間にアジアから2兆ドルの商品を買い付けるとしている。(中国証券ネット2008年5月19日) |
人民中国インターネット版 2008年8月31日