上海万博の184日間
1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長を務めた。 |
筆者も舞台に上がり、全館長による中国を代表する民謡『ジャスミン』(茉莉花)の合唱に加わりました。六カ国語(中国語、英語、フランス語、スペイン語、ロシア語、アラビア語)で各言語グループが次々と最前列に出て歌うという演出は、閉会式の華やかさにさらに花を添え、会場との一体感を感じさせました。『ジャスミン』という歌は、日本館のロボットが演奏し見学者の人気を博した曲でしたので、ひときわ感無量でした。
笑顔の朱鷺がお見送り
最終日の31日は、日本館は2万3000人余のみなさんに見学していただきました。会期中の見学者総数は541万人で、一日平均3万人に見学いただいたことになります。
何ごとも最終日となると、一抹の寂しさ、感慨があるものです。日本館では最終回の見学者がメーンショーを見て出口に向かう際、朱鷺の扮装をしたアテンドさんをはじめスタッフ全員がフェアウェル・ラインをつくりニコニコ顔で握手をしながら見送りました。「ありがとうございました」「さよなら」というと、見学者からは、「辛苦了(お疲れさん)」、また、日本語で「ありがとう」という言葉が返ってきました。中には、見送りの列に涙を流してくれる見学者もいました。
お互いの気持ちが通じるというのはこういう瞬間かもしれないと、最後の一人まで、見学者と握手をするたびに感じたものです。見学者総数541万人を今見送っている、そんな意識をスタッフ全員が感じたと思います。万博参加の醍醐味を感じられる瞬間でもありました。
日本館には541万人
●日本館来館者総数は541万8343人(内、イベントステージ来館者総数は137万8368人)
●プレショー、メインショー実施回数は6619回
●イベントステージは44ステージ
●VIP/メディア来場件数は804件
●BIE(博覧会国際事務局)表彰は4000平方メートル以上の敷地面積をもつパビリオンは展示部門で銀賞受賞。受賞理由はいろいろな技術がコンビネーションよく展示されていたこと。
上海万博は、万博史上、歴史に残る万博になりました。最多の見学者があったというだけではなく、これ以上の規模を誇れる万博はもう二度と開催できないのではないか、とも言われるように、まさに万博史に燦然と輝く万博であったと思います。
中国の多様な文化を発信
閉幕が直前に迫ったある日、万博会場で、あるスローガンを見て、ふと考えさせられました。それまで何度も見ていたのですが、万博ももうすぐ終わりだと思うと、それまで見過ごしていたものが、新鮮に見えてくるようです。
そのスローガンとは、「中国元素」と「中国看世界、世界看中国」(中国が世界に、世界が中国に目を向ける)の二つで、同時に至近距離に掲げられているのを見るのは、その時が初めてでした。
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フェアウェル・ラインをつくり、トキの扮装で最終回の見学者を見送るスタッフ(写真・江原規由) |
前者には「中国オリジナル」という意味があると思われます。上海万博では、この中国元素、例えば、中国の多種多様な伝統、文化が万博会場から世界に発信されました。紅色の中国館の威容に、パビリオンの入館を待つ人々の列に、また、会場を貫く黄浦江の悠久な流れの中にも中国元素を感じ取ることができました。
元素とはものごとの基礎的要素(成分)の意味ですが、上海万博での中国元素は、何といっても、中国人民一人ひとりということになるのではないでしょうか。万博開催の醍醐味のひとつは、世界が開催国のことをより理解し開催国が世界をより知るというところにあるといえるでしょう。7000万人以上の中国人が万博会場を訪れ、会場内で凝縮された世界を百聞一見し、また、世界に等身大の中国が紹介されたわけです。「中国看世界、世界看中国」が大いに実践されたということでしょう。
縮まった世界と中国の距離
上海万博のテーマは、「より良い都市、より良い生活」でした。都市化が急速に進展している中国にとってこのテーマは時宜を得ています。今後、交通網(鉄道、航空、道路網など)の整備・高速化で都市間の移動時間を縮め、また、世界と中国の都市間の時間的距離も、万博会場の各国・地区のパビリオンの移動時間ほどにはいかないまでも、急速に縮まるでしょう。時間的距離を尺度にした地球儀を作るとしたら、中国は日々年々急速に小さくなっていくのではないでしょうか。
こうして、世界と中国の都市間で往来が増えるようになれば、時間的距離同様、中国と世界との心理的距離がさらに縮まり、地球上でお互いが身近な存在として意識されていくと期待できます。
万博のもつ醍醐味を、世界の人々が、そして中国の人々が堪能した、そんな上海万博だったのではないでしょうか。
人民中国インターネット 2010年1月