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期待される経済の新たな枠組み

 

1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長を務めた。
米国のニクソン大統領の訪中が発表され、歴史的な中米国交正常化の基が築かれたのがちょうど40年前の1971年。その翌年、ケネディ大統領のブレーンで『不確実性の時代』や『大恐慌』などのベストセラーを多数著した世界的な経済学者・ガルブレイス氏が訪中します。当時、彼は米国経済学協会の会長であり、米国経済学者の中国経済視察団の団長を務めての訪中でした。1972年9月8日から22日の15日間にわたって、セミナー・討論会への参加、工場、百貨店、マーケット、学校、病院、人民公社などを視察しています。訪中後の報告で、訪中の成果をある雑誌で次のように締めくくっていました。

「以上が私の見た中国の経済である。中国を訪問した人の多くは、結論的な表現を避けようとする。ただ、ここで言えることは、中国経済は米国のものでもヨーロッパのものでもなく、真に中国の未来そのものであり、中国人にとってそれが希望ある方向に向かっているということである」(注1)

中所得国としての落とし穴

今や、中国は世界第二位の経済規模を有するまでになり、ある試算によると、2019年か2020年までには、国内総生産(GDP)で米国を超えるとされています。世界経済を牽引してきた欧米、日本の経済が停滞する中、中国経済はガルブレイス氏の言ったとおり、米国経済、ヨーロッパ経済の「もの」でないのは無論ですが、その成長は世界経済の発展に大きく関わっていることに異論を挟む余地はないでしょう。中国経済が1%成長すると、その5年後に世界経済が0.4%成長するという試算結果も出ています(注2)。 経済規模で世界の最前列に出ようとしている中国は、一人当たりGDPでも4000米ドル水準に達し、「中所得国」の仲間入りを果たそうとしています。急速な経済成長は当然のことながら個人の所得向上に反映されますが、今、中国経済は、その「中所得国」としての「落とし穴」(6大「両難」(注3)つまり、あちらを立てればこちらが立たない六つの課題など)に落ちないよう注意する時代を迎えているようです。

10大問題と六つの主要課題

ある調査結果によると、昨年もっとも人民の注目を集めた10大問題は、①物価、②住宅価格、③医療改革、④食品安全性、⑤教育改革、⑥住宅改革、⑦社会保障、⑧雇用問題、⑨所得配分改革、⑩腐敗問題となっています(注4)。

この調査結果を見ると、中国人民は、各種改革と物価安定など生活向上面に、より高い関心をもっていることが分かります。

あえてガルブレイス氏の言葉を借りれば、こうした人民の関心にどう向き合うかが、「中国人にとってそれ(中国経済)が希望ある方向に向かっている」カギといっても過言ではないでしょう。

昨年12月に開催された中央経済工作会議では、今年中国経済が取り組むべき主要課題として、次の六点が強調されていました。

新鮮な野菜が並ぶ上海市内のスーパーマーケット。3連休だった今年の年初にも食料品の価格は安定していた(新華社)

❶マクロ調整 ◇積極財政、慎重な金融政策

◇人民元為替レートの合理的水準維持など

❷現代農業発展

◇インフラ建設強化、補助金増など

❸経済構造の戦略的調整

◇投資構造の合理化、需要構造の調整(消費条件の改善等)、省エネ・排出削減の強化など

❹公共サービスの基本完備

◇年金、保険、生活保障の向上など

❺経済発展モデルの転換

◇所得格差の是正など

❻国際的経済協力の余地拡大

◇外需の拡張、サービス分野の積極・安定的対外開放

上記10大問題への処方箋が六つの主要課題への対応ということでしょう。総じて、2011年の中国経済は、積極財政と慎重金融によって高成長を維持しつつ発展パターンを転換させ、生活向上や6大両難などの難しい課題に立ち向かう第1年と位置づけられるでしょう。

世界経済へ与える大きな影響

もう一点、経済規模が大きくなればなるほど、国内の経済諸課題への対応が急務となる一方、国際的協力での中国の役割に内外の期待が高まります。

例えば、1997年のアジア通貨危機に直面した際、中国は今回同様、積極財政と適度に引き締める通貨政策を採り、インフレ率を5%以内(2010年の消費者物価指数は5%上昇)に抑制する方針を打ち出しました。

また、対外的には、世界が予想した人民元の切り下げを実施せず、アジア経済の安定に貢献し、アジア各国・地域の期待に応えたとされています。

昨年末の中央経済工作会議でも「人民元為替レートの合理的水準維持」が重要課題として取り上げられました。2011年には人民元レートの切り上げ圧力がさらに高まることが想定されますが、切り上げ、切り下げのいずれにしても、その行方はアジア通貨危機の当時以上に世界経済へ与える影響は少なくないはずです。

もう一度40年前に戻りましょう。1971年、米国は米ドルと金との交換義務を一方的に放棄しました。これにより、世界経済は兌換紙幣ドルを基本とした固定相場制(ブレトンウッズ体制)が崩壊し変動相場制へ移行します。いわゆるニクソン・ショックです。このニクソン・ショックは、その後、1995年のプラザ合意(ドル安誘導)を経て、世界経済発展の枠組みを大きく変えました。今日の円高傾向、人民元レートの行方も、ニクソン・ショックの延長線上にあるといえます。

今年1月、胡錦濤国家主席の訪米が発表されました。1970年代と比べ時代的背景や世界経済の発展段階は異なるものの、中国には、自国経済の発展パターンの転換と同時に、世界経済の発展のための新たな枠組みづくりに大いに貢献してほしいものです。

人民中国インターネット版 2011年4月

 

 

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