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2011年は経済転進の起点

 

1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長を務めた。

中国史上、記憶に残る年は少なくありません。さて、2011年はどんな年となるのでしょう。中国近現代史をひもとくと、2011年は辛亥革命から数えて百周年、同じく中国共産党結党90周年、世界貿易機関(WTO)加盟から10周年の節目の年にあたります。さらに、第12次五ヵ年規画(「十二・五」、2011~2015年)の開始年でもあります。

こうしてみると、2010年は歴史的な節目の年であるとともに、今後5年の国民経済の行方を左右する重要な第一歩を記す年といっても過言ではないでしょう。

小康社会の実現を目標に

21世紀に入ってから10年たちましたが、中国がこれほど世界の衆目を集めた10年間は、中国史上稀有といえます。その主だった出来事を上げると、WTO加盟(2001年12月)、中国経済の飛躍(2008年、「改革開放」30周年)、北京五輪(2008年8月)、新中国成立60年(2009年10月)、上海万博(2010年5月~10月)などが指摘できます。

次の10年、すなわち2011年から2020年に、中国はどんな変化と発展を遂げ、その過程で人民の期待にどう応え、世界とどう向き合っているのでしょうか。

2020年までに中国は、「小康社会」(いくらかゆとりのある社会)を実現するとしています。中国にとって、これが、今後10年間の最大の目標の一つであることに間違いはないでしょう。今後10年間に地域・所得・階層間の格差が是正されていくということです。例えば、内陸を代表する重慶市を例にとると、2015年に同市の一人当たりの国内総生産(GDP)が8千ドルを超え「小康社会」に入るとの見通しを明らかにしています(2010年11月25日の同市人民代表大会常務委員会)。

国際的には、「責任ある大国」の実践ではないでしょうか。2010年11月、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に参加するため、訪日した胡錦濤国家主席は、スピーチでこの方針を強調しています。

2011年は、気候変動問題など地球的規模の課題や混沌とする世界経済の再構築などに対する中国の貢献に国内外でますます期待が高まってくるでしょう。

「中国モデル」への挑戦

「中国模式」(中国モデル)の4文字が雑誌や新聞紙上を賑わせています。この用語には決まった定義があるわけではなく、その内容などに賛否両論があるのは事実です。日本も1960年代以降に急速な経済成長を遂げたことに対し、「日本モデル」が内外で取りざたされたことがありました。「中国模式」の4文字にも、世界第2位の経済規模を有するまでになった高成長の秘訣を解き明かそうとする姿勢があります。そこから、近い将来、これに継ぐ、世界経済の発展に貢献する「国家モデル」や「地域モデル」が出てくると見られますが、どのモデルにも課題や矛盾がつきものです。

重慶市が建設した貧困層向けての低家賃住宅。入居したばかりの住民たちは明るい笑顔(新華社)

世界が注目する「十二・五」

第12次五カ年規画の具体的な中身については、2010年12月3日時点では公表されてはいませんが、「中国モデル」の趨勢を見る上での重要な視点であり、また、これまで以上に、世界が注目する「五カ年規画」となるといってよいでしょう。

それは、中国経済が面舵をいっぱいに切ろうとしている中での五カ年規画であり、2011年はその起点年となるわけです。面舵とは船舶の航行において、進行方向右に舵を転ずること、言い換えれば、卯(東)の方向に舵をとることです。

蛇足ですが、2011年はウサギ年です。偶然の一致とはいえ時宜を得た面舵いっぱいになると期待したいと思います。

世界各国の共通モデルへ

面舵いっぱいの中国経済が目指すところは、「緑色」(環境にやさしい)、「低碳」(低炭素=CO2排出量の削減)、そして「創新」の経済・社会の建設です。具体的には、人民生活や地球環境にやさしく独創性に満ちた経済・産業構造への転換・構築、経済運営の実践であり、「小康社会」の実現と「責任ある大国」の実践に大いに関係しています。

この点、2010年開催の上海万博は、「中国モデル」の雛形を提示したともいえます。そこでは、中国はよりよい都市生活をテーマとし、また、海外パビリオンの多くが環境保護や省エネなど地球環境の保全をテーマに関連技術を展示しました。

中国と世界が、「経済成長とその後」、即ち、成長の果実をどう享受し、かつ課題にどう向き合うのかを、上海万博は問題提起したといってよいでしょう。

経済成長の過程で発生する数々の課題に対し、どんな処方箋が有効なのか、2011年が第1年目となる「第12次五カ年規画」で提示・実践され、「中国モデル」が経済成長を目指す各国・各地域にとっての「共通モデル」誕生に向けた初年度となってほしいものです。

 

人民中国インターネット版 2011年2月22日

 

 

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