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「中国模式」は時期尚早

 

中国政府は再生可能エネルギーの推進に力を入れており、各地方政府も相次いで省エネ・排出削減のために、クリーンエネルギーへの転換を打ち出している。2009年12月、太陽電池パネルを取り付けている山東省の藍晶易炭新能源有限公司の従業員たち(東方IC)

1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長を務めた。
10年ほど前の中国は、地域発展戦略の第2弾にあたる西部大開発を発表し、2010年の国内総生産(GDP)を2000年の2倍とするという目標を設定し、世界貿易機関(WTO)に加盟するなど、内外から大いに注目されていました。

21世紀に入っても中国は高成長を維持、2001年にGDPで世界6位であったのが2007年には世界3位に飛躍しました。こうした中国経済の急成長の故に、「中国奇跡論」「中国脅威論」「中国崩壊論」「中国機会論」が出てきたのです。

「北京共識」と「中国模式」

中国の今年の経済成長率は9%超で、世界2位の経済規模になると予想されています。百年に一度とされる金融危機下で2桁に近い経済成長が見込まれるのは、中国をおいてほかにはないでしょう。そんな中、「中国模式(モデル)論」が内外の議論を呼んでいます。

この「中国模式論」は、2004年に米国の中国問題専門家であるジョシュア・クーパー・ラモ氏が発表した研究報告「北京コンセンサス(北京共識)」に端を発しています。

「中国模式論」とは手短にいうと、「中国の発展モデルは、高成長路線、人民の努力と革新、国家の主権と権利の死守、エネルギー集積などの特徴がある」ということになります。

これに対し、中国の識者の間では、「これは中国が打ち出したものでもない。『模式』という言葉には手本とか、それを他国に売り込もうとする含意があるが、中国にはそうした考えはない。むしろ、中国の経験、中国の事例などと表現した方が中国の実情に合っている」とする意見が強い。外国発の「中国模式論」はそのままでは受け入れることはできず、内外のコンセンサスを得るには時期尚早とする意見がほとんどです。

中国は昨年10月に新中国成立60年を迎えました。成立当初は「ソ連模式」を、また、1978年以来の「改革・開放」政策の過程では「西方模式」を参考に、中国の特色ある社会主義路線、そして独自の成長路線を歩んできたといってよいでしょう。

その間、毛沢東思想、鄧小平理論、3つの代表(注1)、そして、現在の科学的発展観といった中国の実情に基づいた国家の指導概念を発展させてきています。その意味で、外国発の「中国模式論」が時期尚早といわれる所以は、科学的発展観による検証をまだ得ていないことにあるといってよいでしょう。

中国発の「中国模式」に期待

中国に対する世界の関心が高まる中、言い方はともかく新世紀の世界の発展に貢献する「中国発の中国模式」へのコンセンサスを期待する内外の声は少なくありません。

社会主義市場経済の下、外資系企業は、労働力の活用拠点、部品・原材料の供給拠点としての中国に大挙進出し、対外開放された膨大な中国市場で大きなビジネスチャンスを得てきたといえます。一方、中国は、2020年までに一人当たりGDPを4000ドルにするとした目標を今年には達成することが確実な状況にあるなど、今の中国が目指す小康社会(いくらかゆとりのある社会)と和諧社会(調和のとれた社会)の実現にまい進しています。

国際的には、1997年のアジア通貨危機の際、中国は憶測された人民元の切り下げを行わず、アジア経済の安定に貢献しました。また、現在の世界的金融危機の下では、急成長を遂げる中国に世界経済復興への貢献が期待されています。そのいずれも社会主義市場経済の発展に拠るところが大きいといえます。

「中国模式」には、経済発展だけでなく、その国の文化や政治システムなども含まれますが、経済発展についていえば、社会主義市場経済の構築は「中国発の中国模式」といえるのではないでしょうか。 気候変動への取り組み

さて、昨年12月、デンマークのコペンハーゲンでCOP15(国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議)が開催されました。人類が地球を救う最後の機会といわれるほど、COPでの気候変動問題に対する取り組みは、地球環境や世界経済の発展にとって最大の課題といっても過言でなく、その前進には関係各国の「共識」が前提であることに異論はないでしょう。このまま温暖化が進むと、2050年には「上海が海水による浸水を受ける可能性」(注2)を指摘する研究報告すらあります。

中国は、COP15開催直前の11月27日、「2020年までに単位GDP当たり二酸化炭素(CO2)排出量を2005年水準の40~45%削減する」との目標を提示しました。COPが定める「共通だが差異ある責任」に対する中国の当面の姿勢といってよいでしょう。

そのもとで、中国は国家、地方、企業、人民レベルで環境意識の高揚も含めた「緑色・低炭素経済」の発展に取り組むとしています。例えば、産業構造の転換によるCO2排出量の削減、クリーンエネルギー源(注3)の開発・発展、省エネ、新エネ自動車の発展などが指摘できます。

目下、中国は最大のCO2排出国であり、同時に世界第2位の経済大国です。中国経済は世界経済の回復に大きく貢献していますが、この排出規模と経済成長との関係は、科学的発展観で検証されるでしょう。2050年に「上海が海水により浸水」というようなことにならないよう、中国の「緑色・低炭素経済」の経験と発展が世界の「共識」を得て「中国模式」となることを期待したいものです。

 

注1 中国共産党が先進生産力の発展の要請、 先進文化の前進する方向、人民の根本利益を代表するとしている。
注2 『広州日報 』2009年12月7日付け。
注3 太陽・風力エネルギー、原子力など。

 

人民中国インターネット版

 

 

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