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ロンドン五輪で目立った「メイド・イン・チャイナ」

 

8月中旬に閉会したロンドン・オリンピックに続き、同月末にパラリンピックが開催されるなど、この1カ月余、世界の目が英国・ロンドンに向けられました。ここでの中国選手の活躍はめざましく、例えば、オリンピックを例にとると、メダル獲得数88個は、4年前の北京オリンピック(110個)に及ばなかったものの、堂々たる結果を示しました。そうした選手の活躍と同様、各所で「中国のプレゼンス」も大いに目立っていました。そこから、世界における中国の置かれた現実が垣間見られるようです。

観光客数でも「金メダル」

ロンドン五輪のマスコット「ウェンロック」を製作中の江蘇省塩城彩虹工芸品有限公司の従業員
ロンドン・オリンピック開催中およびその前後の期間を含め、中国から英国・ロンドンを訪問した中国人観光客(ロンドン訪問客は25万人)は、どの国・地域からの訪問客よりも多かったといわれます。訪問客数だけでなく、財布のヒモも最も緩かったようです。英国観光局によれば、ロンドンでの中国人観光客一人当たり消費額はアラブ首長国連邦のそれを10%ほど上回って第1位だったとのことです。

さらに、公共バス車体の中国製品の広告から、大手百貨店などでの中国語の出来るセールス担当者の配置、銀聯カードによる支払い便宜など、ロンドン市街のあちこちで「中国元素」が目立っていました。

マスコット、花火も中国製

その「中国元素」の代表は何と言っても、目下、世界を席巻している「メイド・イン・チャイナ」だったのではないでしょうか。ある統計によれば、ロンドン・オリンピックでは、マスコットの「ウェンロック」や「マンデビル」を含め、関連記念品の六五%が中国製だったと報じられました(中国新聞ネット2012年8月11日)。記念品のみならず、例えば、開会式での参加国・地域の選手団のユニホームや開会式を飾った花火、メイン会場の人工芝、椅子、参加十カ国余の国旗(注1)など、ロンドン・オリンピックにおける「メイド・イン・チャイナ」のプレゼンスは枚挙に暇なしでした。

しかしながら、こうした「メイド・イン・チャイナ」のロンドン・オリンピック・デビューは順風満帆だったわけではなかったようです。

例えば、今大会最多の金メダルを獲得した米国の選手団が入場行進で着用していた公式ユニホームは、大連のアパレル企業が生産したものでしたが、米国上院議員がこれを「米国の恥」として非難、ブレザーとベレー帽による入場服を焼却すべきと主張したとのこと。このアパレルメーカーの創業者は、「まさか、ユニホームの出来(品質)が悪いから『焼却せよ』ということではないでしょう」と、皮肉ったといいます。同社は、米国のラルフローレン社からこれまで2回、オリンピック米国選手団ユニホームを受注した実績がありました。議員の主張に、「メイド・イン・チャイナ」に対して最多のアンチダンピング(調査)を発動している米国の姿を思い浮かべた中国ビジネスマンは少なくなかったはずです。

安さよりも高品質に自信

大会マスコットの「ウェンロック」を製造したのは、江蘇省大豊市の玩具製造企業でした。同社には、2010年のバンクーバー冬季オリンピックのマスコットを受注した実績がありましたが、今回、会長自らがウェンロックの試作品を携えロンドン・オリンピック組織委員会の門をたたき、マスコットの生産特許を有するBOBO・BEAR社に接触し受注にこぎつけたといいます。同会長は、BOBO・BEAR社との商談を振り返り、「彼等はより品質を重視している。安さを求めていたとすれば、インドや東南アジアのどこかが受注していたはずだ」(注2)と、ここでも品質重視の姿勢を強調しています。

その一方で、英タブロイド紙サンの報道が同社を襲います。曰く、「同社は、労働者を劣悪な労働環境下で低賃金で働かせている」と。ロンドン・オリンピック組織委員会は調査委員会を派遣し現地聞き取り調査などを行いますが、報道にあるような事実はなかったという結論が出されます。オリンピックに限らず、世界的なイベントで「メイド・イン・チャイナ」のプレゼンスが大いに増しつつある反面、「出る釘は打たれる」的な対応にさらされる中国企業は少なくないようです。中国のあるメディア(注3)は、「ロンドン・オリンピックから一部西洋人の中国に対する傲慢、偏見を検証する」との見出しで、「メイド・イン・チャイナ」のおかれた状況を報じています。

中小企業の日中連携の道

スポーツ選手にとって、オリンピックへの出場は大変な名誉であり、そこでの活躍は世界の賞賛を得ることになります。「メイド・イン・チャイナ」も、ロンドン・オリンピックで大活躍したといえますが、その主役だった民営中小企業は、果たして、それに見合った世界的な認知をまだ得ていないのが現状です。中国には、世界的企業に成長した民営企業(注4)は少なくありません。こうした企業にとっても、ロンドン・オリンピックにおいて大連市のアパレルメーカーや大豊市の玩具メーカーが味わったと同じようなケースに直面しています。「メイド・イン・チャイナ」を支える民営中小企業が、世界で「出る釘が打たれなくなる」ための方策はあるのでしょうか。これまでオリンピック関連製品の発注を受けた民営企業に対するアンケート調査によると、「中国の民営企業の更なる発展には、産業転換と高度化、規制のないものづくりの環境が必要で、そうでなければ、たとえ、オリンピック関連製品の受注企業になれたとしても、持続的発展はおぼつかない」とのこと(『中国経済週刊』2012年7月16日)。

筆者の独断ではありますが、中国の民営中小企業は、総じて、国内外大企業に部品や製品を供給するといった「縁の下の力持ち」に甘んじるところは少なく、上昇志向のバイタリティがあります。この点、名よりオンリーワンの技術と品質にかけることをよしとする日本の中小企業とは対照的です。

共通項をあえてあげれば、発展のための外部環境が大きく変わったことでしょう。例えば、中国の民営中小企業では、価格面で後進諸国の追い上げがあり、日本の中小企業には後継者不足や受注元企業の海外展開によるビジネス機会の縮小などがあり、高品質、安全、安心が代名詞でもある「メイド・イン・ジャパン」から日本の「中小企業要素」が少なくなっているなどが指摘できるでしょう。これまでどおりのやり方では生き残れないことは自明となっています。その打開策のひとつとして、今後さらに、日中の中小企業連携の道が増えてくることは、想定内でしょうか。

注1 中国新聞ネット 2012年8月11日
注2 『法制晩報』(2012年8月25日)によれば、2011年の中国における月平均一人当たり労働賃金は3538元、ベトナムのそれは540元で、両者には2998元の開きがあるとしている。また、英国のメディア報道として、『中国経済週刊』(2012年7月16日)が伝えるところでは、世界的なドイツのスポーツ用品メーカーADIDAS社の発注を受けロンドン・オリンピック特許製品を製造したカンボジアの工場の月平均一人当たり賃金は850元未満、同中国蘇州のそれは2500元以上という。
注3 中国経済ネット 2012年8月13日
注4 例えば、華為技術有限公司、蘇寧電器集団、聯想控股有限公司 (レノボ)など。

(財)国際貿易投資研究所(ITI) チーフエコノミスト 江原規由

1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ北京センター所長、海外調査部主任調査研究員。2010年上海万博日本館館長をを務めた。

 

人民中国インターネット版 2012年11月19日

 

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