機熟す中国企業の対日進出
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日本で開かれた中国・四川省の「招商引資」説明会(写真提供・筆者) |
省・市政府が、いわば地元企業の親代わりとなって現場に乗り込み陣頭指揮を取りつつ誘致活動を展開するところは旧態依然としていますが、このところ目立つのが、いずれのミッションも日本の中小企業の誘致に熱い視線を送っているということです。日本経済の低迷で生き残りをかけて、あるいは、新たな発展の機会を求めて、海外進出を検討している中小企業が多いはず、と見込まれているわけです。日本の中小企業は、世界的に定評のある「メード・イン・ジャパン」を支えている高い技術を有しているところが多く、こうした企業の誘致に成功すれば、「メード・イン・チャイナ」の品質向上、さらには、当該省・市の経済発展、産業力強化、そして、イメージアップにもつながることになります。
ミスマッチが浮き彫りに
筆者には、中国各地の駐日代表事務所に多くの友人がいます。彼らは、派遣元(省・市)の招商引資の最前線にいて、同ミッションの先兵となっていると言っても過言ではありません。彼らが口をそろえて言うのは、「かつてと違い、日本企業の誘致活動は思うようにいかない。日本の中小企業が今日ほど海外展開に眼を向けていることはなかったはずなのに、なかなか中国に進出しようとしない」という点です。彼らの言うとおりですが、何かミスマッチがありそうに思えてなりません。
日本貿易振興機構(ジェトロ)の発表によると、2011年の対中投資(実行ベース)は前年比9.7%で、10年(同17.4%)に比べ鈍化する中、日本の対中直接投資は、中国各地で伸び、全体で49.6%増と高い伸び率を示しています。国・地域別対中投資で日本が第3位に浮上し、プレゼンスが高まっていることで、各省・市が「いざ鎌倉」とばかりに、日本企業の誘致に「いざ日本」という図式を描くのもあながち的外れではないといえます。同発表は、さらに、「日本・欧米市場の先行きが不透明で円高基調の中で、中国での競争力強化と内販拡大に向け、統括会社設立や能力増強投資が、大手企業を中心に本格化している」と分析しています。つまり、新規投資はあるものの、足腰を強くするための投資が多く、中小企業の対中投資に至っては、中国側が期待するほどに目立っていないということになります。対中投資予備軍としての中小企業は増えてはいるわけですが、対中進出を暗中模索している中小企業がほとんどで、なかなか重い腰を上げようとしないというのが現実です。
対日投資説明会が効果的
筆者が駐日代表事務所で勤務している中国の友人によく言うのは「日本の中小企業に対しては対中進出を大いに促進してもらいたいが、その一方で、中国からの対日進出、すなわち『逆招商引資』のための説明会も大いに実施すべしと、派遣元の政府にもっと提案するべきではないですか」ということです。即ち、「対日投資の勧め」です。対日投資の可能性ある地元企業を選別して来日し、日本各地で中小企業相手にビジネス・アライアンス説明会を開催する方が、日中両国が希求する戦略的互恵関係(ギブ・アンド・テーク)にかなうのではないでしょうか。目下、中国政府は、「走出去」(中国企業の海外進出など)を国家戦略として、「引進来」(外資導入など)同様、積極的に推進しており、その環境づくりを急ピッチで進めています。また、日本政府も今後10年以内に対日直接投資を倍増させるとしているなど、むしろ、中国企業の対日進出の方が機は熟しつつあるのではないでしょうか。
2011年の日中貿易は過去最高(前年比14.3%増、3450億ドル)となりましたが、その大きな特徴の一つに、日中貿易がますます水平貿易の度を増しつつあることを指摘できます。特に注目すべきは、部品の相互輸入が増えてきている点です。こうした日中貿易の現状から、両国が相互補完性を高め、双方の市場に合ったより高品質な製品づくりを目指していることがわかります。
日本で日中両国企業が新たな提携関係を構築し、例えば、メード・イン・ジャパンを、中国市場で売り、また、世界市場を狙うというのは、実にビジネスの理にかなっていると思われますが、相次ぐ招商引資ミッションの説明会で、今年も、地元企業の「走出去」に言及することがなかったのは不思議でなりません。
ハイアールなど対日展開
以下は、今年に入ってから4月までの中国企業の対日展開の主要事例(成立・不成立・交渉中のものを含む)です。
ハイアール社(世界的な家電大手) 2011年の三洋電機白物家電事業の買収に続き、同社アジア本部と研究開発センターを設立と発表(2012年2月)
上海超日太陽能科技股份公司と天華陽光控股有限公司 日本に太陽光発電所を共同で設立すると発表(2012年4月)
鴻海精密工業株式有限公司(台湾) 51億元を投じてシャープの筆頭株主へ(2012年4月)
海潤光伏科技(中国の太陽エネルギー企業) 日本で100%子会社の海潤光伏科技日本株式会社を設立すると発表(2012年4月)
弘毅投資(中国大手私募ファンド) 米大手私募ファンドのTPGと共同でエルピーダ(会社更生手続き中の国内半導体大手エルピーダメモリ)買収を開始(2012年4月)など。
大手民営企業の対日進出がほとんどですが、それでもまだ多くありません。前述したとおり、日中両国政府の政策が同方向を向いているところもあるなど、中国企業の対日展開の余地は大きく残されていると言ってよいでしょう。因みに、2009年の中国の対外直接投資残高に占める対日直接投資残高の比率はわずか0.3%に過ぎません。
大中小の規模を問わず、日本企業にもこうした流れに敏感かつ積極的に対応する時期が来ていると言えないでしょうか。日本企業の対中投資より中国企業の対日投資のほうが拡大の可能性がはるかに大きいと言っても過言ではないでしょう。
(財)国際貿易投資研究所(ITI) チーフエコノミスト 江原規由 1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ北京センター所長、海外調査部主任調査研究員。2010年上海万博日本館館長をを務めた。 |
人民中国インターネット版 2012年8月6日