大阪都構想と中国の経済圏構想
日本では、消費税率アップ(5%から10%へ)、大阪都構想に大きな関心が集まっていますが、中国でも、目下、税制改革と地方再編が注目されています。事情はやや異なるものの、日中両国は同じ問題に向き合っていると言ってよいでしょう。
税制改革でも民生重視
中国には、日本の消費税に相当する増値税があります(注1)。その標準税率は17%ですから、日本の消費税率よりかなり高目となっています。筆者は中国で長年生活しましたが、17%という高い税金を払っていると意識したことはありませんでした。生活必需品などに軽減税率、ゼロ税率などが適用されていたからかもしれません。ただ、対中進出した外資系企業は別で、当局の増値税の徴収・還付には大変苦労したようです。目下、中国では、民生向上が最優先課題となっています。そうした姿勢は最近の税制改革にも反映されています。
「パイ」を新基準で分配
例えば、個人所得税。昨年9月、「三険一金」(養老保険、医療保険、失業保険、住宅公共積立金)の費用を差し引いた所得が3500元以下(それまでは2000元以下)のサラリーマンは納税の義務がなくなりました。その結果、給与所得者全体に占める納税者の割合は28%から8%以下に減少し、納税者は8400万人から2400万人へ激減したとされています(注2)。
次に、不動産税(日本の固定資産税に相当)。昨年1月、上海と重慶で試行が発表されました。この新税は、①市民が2軒目以上の住宅を購入する場合②非居住者が新規に住宅を購入する場合③高級分譲マンションを購入する場合などが課税対象になっています。投機的な住宅購入に歯止めをかけ、住宅価格の値上りや不動産の乱開発を防止する狙いがあります。条件がまとまり次第、全国規模で導入することになっています。
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メガロポリスの核として期待される上海の浦東新区 |
さらに、資源税改革。昨年11月、国務院は新たな資源税制を全国規模で実施する方針を決定し、原油、天然ガスなどの税率が調整(従量定額法から従価定率法)されます。資源の乱採掘や浪費を抑え、省エネ・排出削減を促進するとしています。資源税は地方税であることから、地方政府の財政強化、民生の保障・改善につながると期待されています。
こうした税制改革は、高度経済成長で大きくなってきたパイ(富)の分け方の基準を提示していると言えるでしょう。その姿勢は、近年盛んな中国の区域(地域・地区)発展計画にも反映されています。また、旧態の枠に囚われない発想で区域を再編しようとしている点で大阪都構想を彷彿とさせるものがあります。
枠越えた広域発展構想
大阪都構想は、府市合併による二重行政の解消という点に焦点があてられているようですが、中国にも従来の枠に囚われない広域発展構想が各地にあります。
まず、首都経済圏構想。北京市、河北省、天津市の二市一省の経済的一体化を図ることでメガロポリスを誕生させようとの構想で、既に、国家戦略となっています。敢えて、日本の関西地方にあてはめると、大阪市、大阪府、神戸市の地域経済一体化ということになるでしょうか。首都経済圏構想は必ずしも大阪都構想が目指す行政の統一を目的としているわけではありませんが、二市一省にはそれぞれの事情もあり実現までには解決すべき課題が少なくないようです。首都経済圏構想には、河北省が積極的、北京市が中立的、天津市が消極的といわれます(注3)。北京市は中央直轄市で「政治、文化の中心」、天津市も中央直轄市で華北地区の「経済の中心」として機能しているという現実が反映されているようです。両雄並び立たずの状況にあるということでしょうか。
大阪都構想でいえば、大阪府が河北省、大阪市が北京市、大阪都構想には含まれませんが、神戸市が天津市ということになるでしょうか。一府(都)二市がけん引する関西都市圏といった方が、首都経済圏との比較では適切な表現になるかもしれません。
中国には首都経済圏のほか、長江、珠江の河口周辺地区を中心に二大デルタ都市圏が発達しています。前者は「一主二副」、即ち、上海を中心(軸)に杭州(浙江省の省都)と南京(江蘇省の省都)を副中心(従)とする融合発展の空間が存在しています。後者は「双中心」、即ち、広東省の省都広州市と経済特区のある深圳市を二大軸として発展している点で、首都経済圏に似たものがあると言えるでしょう。