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EU債務危機と龍年中国

 

2011年12月4日、浙江省温州の新しいビジネスビルの屋上で作業員が太陽光パネルを設置。これも発展モデル転換の一環(新華社)

2012年は龍年である。龍が中国のイメージキャラクターとなって久しい。龍は巨大なパワーをもつ存在として歓迎される半面、得体がしれないという点で警戒される存在でもある。世界経済が混沌としている中、2012年の中国龍はどんな活躍をするのか。

3度目の危機に挑戦

このところ、世界経済には「一度あることは二度ある。二度あることは三度ある」のたとえが当てはまるような事態が続いている。即ち、1997年のアジア通貨危機、2008年のリーマンショック、そして、2011年のEU債務危機の発生と、この15年間に世界経済は三度の危機を経験している。

中国は、アジア通貨危機には大方の予想に反し、人民元レートを据え置きアジア経済の安定に一役買った。さらに、金融危機では4兆元の財政出動で国内経済の持続的成長を維持し、世界経済を下支えたが、現在、中国政府が最重点課題として抑え込みに注力している物価上昇の遠因ともなったとする識者は少なくない。

中国とEUが表舞台に

さて、EU債務危機だが、中国の対応に世界の関心と期待が高まっている。

EUの財政危機に限ったことではないが、世界経済の混迷の遠因は、今から40年前のニクソンショック(金とドル紙幣の兌換停止)にまでさかのぼれよう。これにより、戦後の世界経済の枠組みであった米国主導の「ブレトンウッズ体制」が崩壊。1985年、「プラザ合意」で協調的なドル安(注1)を図ることが合意され、1995年に国際貿易機関(WTO)が設立されるが、世界経済の発展を指し示す強力な「枠組み」「国際的コンセンサス」は今日でも構築されていない。

金融危機、リーマンショック、財政危機も世界経済の協調体制が組めない中で発生しているといえる。この間、世界経済にとっての最大の変化として、中国経済の台頭、EUの発足が指摘できよう。

積極的対応には否定的

そのEU経済が危機に瀕している。一方の中国経済は成長率でみる限り相対的に好調(注2)を維持していると見られている。さて、中国のEU債務危機への対応だが、先頃、商務部は2012年に投資代表団を欧州に派遣し債務危機下の欧州で新たなビジネス機会を創出するなどの計画を明らかにしている(『中国経済』2011年11月28日)が、EUの期待に積極対応する状況にはないという見方が大勢を占めている。

孫冶方経済科学基金会理事・財政経済委員会呉暁霊副主任委員は、「EUに問題が起これば、その累は中国にも及ぶ。EUの債務危機を『対岸の火事』視するものではないが、『中国不必去救世界、也救不了世界(中国は世界を救いたくても救えない)』。EUを救う上での前提条件は中国の投資安全が保証できるかにかかっている」(『第一財経日報』2011年11月29日)としているが、混沌としているEU債務危機への中国の対応を代弁した言葉である。

また、2011年11月、G20首脳会議(カンヌサミット)に出席した胡錦濤国家主席も、仏紙『フィガロ』の取材を受けた際、「中国はユーロ圏の指導者が、欧州には債務問題を解決する決意、能力、資源があるとたびたび表明することに注目している。(中略)中国はユーロ圏の経済とユーロの安定維持を心から望んでいる」(人民ネット2011年11月3日)と、当事者の自助努力に言及している。

発展モデル転換が先決

また、アジア太平洋経済協力会議(APEC)のCEOサミットで胡錦濤国家主席は、中国の未来の発展の青写真として、第12次五カ年規画の綱要を踏まえ、「経済モデルの早急な転換を主軸とし、改革開放を深化させ、国民生活の保障と改善に力を入れ、経済の長期的で安定的かつ急速な発展と社会の調和安定を促進するとの方針を堅持する」(人民ネット2011年11月14日)という点を強調した。

現在、中国の最大の課題は、経済発展モデルの転換、経済構造の調整である。即ち、省エネ、環境保護、生活重視の経済運営への転換ということに集約される。これまでも再三提唱されてきた「古くて新しい課題」が、改めて強調されたわけだ。即ち、高投入―低産出といった従来の粗放型成長モデルの転換、世界第一位の炭酸ガス排出国からの決別、具体的にいえば、「世界の工場」から「新工場」への脱皮、文化産業の育成、中国で急速に進む「都市化」などへの対応が先決事項となっているということであろう。

東アジア共同体への夢

EU債務危機と中国の対応に話を戻そう。再び、胡錦濤国家主席の言葉を借りたい。「国際経済システムの改革を推進し、国際経済秩序がより公正で合理的な方向へと発展することを促進する。主要経済体とのマクロ政策における協調を強化し、国際的な経済金融組織の中でより大きな役割を発揮していく」とした上で、「自由貿易圏戦略の実施を加速させ、主要貿易パートナーとの経済連携を強化し、その他の新興市場国家や発展途上国との実務的な協力を深化させる」(人民ネット同上)と表明した。

現在、世界において最も成長が著しい東アジアには、EUのような経済共同体は存在していない。この地域には、EUにおける独仏のような強力なリーダーシップを握る国・経済体が存在していないことが主因ではあるが、共同体成立に向けた関係各国の思惑が交錯しているのが現状である。

中国は東南アジア諸国連合(ASEAN)を軸とした自由貿易協定(FTA)(注3)を基軸に、最近では日中韓FTAの締結に積極的な姿勢に転じている。ASEAN+3(日中韓)、あるいは、日本が目指すASEAN+6(日、中、韓、インド、オーストラリア、ニュージーランド)の広域自由貿易圏の確立に向けた動きである。最近、さらに広域的な環太平洋戦略的経済連携(TPP)締結の動きが活発化しつつあり、中国の対応に関心が高まっている。

ブレトンウッズ体制の崩壊、WTOドーハラウンドの未妥結など不確実な世界経済にあって、胡錦濤国家主席が強調する「自由貿易圏戦略の実施を加速させ、主要貿易パートナーとの経済連携を強化」、即ちアジア共同体への道を拓く上で、今回のEUの債務危機の発生は、『対岸の火事』ではない。2012年は中国龍の巨大なパワーの発揮に関心が高まることだけは間違いないであろう。

注1:例えば、円の対ドルレートをみると、1971年の1ドル/308円から「プラザ合意」翌年の1986年には150円台と急速な円高が進み、日本経済は不況と停滞の「失われた10年」(1991~2002年)を経験する。
注2:2011年第1~3四半期のGDP成長率は全年同期比9.4%。
注3:中国はASEANにとって最大の貿易相手国であり、また中国にとってもASEANは3番目の貿易相手地域。双方の間の貿易は1991年から20年間で約37倍増加。2015年までにASEAN共同体が設立する予定。

(財)国際貿易投資研究所(ITI) チーフエコノミスト 江原規由

1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ北京センター所長、海外調査部主任調査研究員。2010年上海万博日本館館長をを務めた。

 

人民中国インターネット版 2012年2月29日

 

 

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