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「先富論」 の申し子たち

 

(財)国際貿易投資研究所(ITI) チーフエコノミスト 江原規由

山東半島の開放都市煙台市の中心部から南西に60㌔ほど行ったところに栖霞市(煙台市所属の県級市)があります。「リンゴの郷」の名を冠するこの都市は優秀観光都市でもあります。その数ある観光名所の中で、圧巻は民間の小故宮の異名を取る「牟氏荘園」(北方で最大規模)と言ってよいでしょう。かつての荘園主は広大な不動産を所有し、また、1735年に建設に着手し、1935年に完成したというその邸宅は、宅地面積にして2万平方㍍、部屋、楼閣は480を数えます。この大邸宅を見ていると、栄枯盛衰の世の常を実感すると共に、往時の牟氏が小宇宙とも表現できる荘園の経営によって天文学的な富を得ていたことが分かります。

不動産関係が上位  

今年9月、胡潤(フージワーフ)研究院が恒例の中国富豪番付(注1)を発表しました。中国1の富豪に輝いたのは、三一集団(中国第1位、世界6位の建設機械大手)の董事長(会長)の梁穏根氏で、資産額は700億元(約8兆4000億円)。以下、飲料大手ワハハの宗慶後氏(670億元)、検索大手の百度の李彦宏氏(560億元)がトップ3となりました。  

ここ数年の長者番付の特徴は不動産関係者が上位を占めていることでしょう。今回の発表を見ると、上位10傑のスーパー富豪のうち5人(2009年6人、2010年4人)までが不動産関係者で、富豪1000人の内では23.5%を占めたと報じられています(『北京日報』9月8日)。また、今年4月発表の「胡潤財富報告」によると、中国にいる1000万元以上を所有する富豪(96万人)の内訳は、企業経営55%、不動産関連20%、株式投資15%、資産家10%です。  

目下、不動産は中国企業にとって蓄財の「打出の小槌」にされているようです。「三三制現象」という言葉があります。『経済参考報』によると、本業投資、不動産投資、株式投資にそれぞれ3分の1ずつ投資している企業行為を指しています。これが高じると、今後、生産活動の空洞化や不動産バブル化が進み成長率の低下や格差の拡大につながらないか懸念されると報じるメディアが少なくありません(『経済参考報』2011年8月24日付けなど)。

農地にマンション群  

牟氏荘園のある栖霞市から北東へ60㌔ほど行ったところに、やはり煙台市所属の県級市龍口市があります。中国を代表する港湾を有するこの人口60万人余の地方都市は、秦の始皇帝の命を受け不老不死の生薬を求めて日本へ渡ったとされる徐福が出航した伝説の地でもあります。

栄枯盛衰を偲ばせる牟氏荘園とザクロ(写真・江原規由)
 

栖霞市から龍口市に向かう高速道路をしばらく走ると、左手に目を奪われるほど広大な高層マンション群が農地に蜃気楼のように忽然と姿を現します。「南山・世紀花園」と名づけられたこのマンション群(開発建設規模約120万平方㍍)は、完成後には一般向けに販売する(一部完成・販売中)ほか、周辺農民の住居とし彼らの農地を再開発する予定だそうです。  

この高層マンションの建設を手がけているのが、龍口市を拠点に多角経営(エネルギー、アルミ、紡織、建材、観光、教育、不動産など)を展開している南山集団です。2011年の中国企業富豪番付(注2)で163位(山東省では9位)にリストアップされた山東省を代表する企業です。  

この南山集団はさらに大きなプロジェクトを手がけています。「人工島群圍填海工程」(人工島埋め立てプロジェクト、総面積44平方㌔、うち埋立地部分33平方㌔)がそれです。2014年の完成を目指すというこのプロジェクトは、今後10万人に就業機会を提供し、30万人が住む海上新都市を形成するとのことです。現場に立っていると、海上新都市のイメージが浮かばないほどの広大さに圧倒されます。目下、こうした広大なプロジェクトは、煙台市に限らず、全国津々浦々で展開されており、近年の不動産関係者・企業が富豪番付に登場する現実が見えてきます。

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