ヒロインに讃!『阿嬤的夢中情人』
文・写真=井上俊彦
ここ数年、興行収入急上昇の勢いは止まらず、ますます多くの作品が公開され、さまざまな話題が生まれている中国映画です。そこで、このコラムでは地元・北京の人々とともに映画館で作品を鑑賞し、新作や映画界の話題を紹介していきます。同時に、そこで見聞きしたものを通して、北京の人々の生活も感じ取っていければという姿勢で映画館通いをしていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
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新政策適用第1号の台湾映画が公開
中国大陸部と台湾地区の文化・娯楽分野における交流はますます盛んになっています。映画界でも合作は当たり前という状況で、以前のように両岸の俳優が共演すること自体を売りにする作品は姿を消し、普通にキャスティングした結果こうなりましたという感じのものが多くなりました。
そうした中、今年から台湾映画がこれまでの外国映画枠をはずれました。広電(ラジオ・映画・テレビ)総局は今年1月に「両岸の映画合作・管理の現行法強化について」という文書を公布し、「映画公開上映許可証」を取得した台湾映画は輸入映画の割当制限を受けないことを発表しました。この適用を受けた最初の作品として、『阿嬤的夢中情人』が台湾と大陸部でほぼ同時期の公開となったのです。
『あの頃、君を追いかけた』の九把刀(ギデンズ)監督の新作もこの協定の対象になって近日公開予定ということで、北京にいながら台湾映画の新作を見られるようになったのは、ファンとしてうれしいところです。ただし、台湾での大陸部の映画公開はまだ年間10作に制限されています。報道によれば今年は『一九四二』や『捜索』『神探亨特張』などの上映が決まりましたが、『人再囧途之泰囧』は残念ながら“抽選”にもれたそうです。
けなげなヒロインに魅了される
さて、その『阿嬤的夢中情人』は古くからの台湾映画ファンにはたまらない作品でした。人類が初めて月に降り立った1969年、劉奇生(ラン・ジェンロン)は台湾語映画の売れっ子脚本家として忙しい日々を送っていますが、大スターの万宝龍(ワン・ボーチエ)がいれば脚本など適当でいいという社長にプライドを傷つけられています。そんな時、奇生は宝龍の熱烈なファンの蒋美月(アンバー・アン)と知り合います。彼女の明るさ、ひたむきさに魅かれた奇生は、監督を任されたのを機会に、彼女を主役に抜擢し、社長の借金を肩代わりして撮影に臨みますが……。
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さまざまなポスターが飾られ、ゆったりしたソファも複数カ所に用意されているなど、観客重視の姿勢が見える |
1号ホールを除く19ホールが地下1階にあるが、きゅうくつな感覚はまったくない。カラフルなシートのホールも映画を見るワクワク感を高めてくれる |
ストーリー展開には、いささかごつごつした部分もありますが、台湾映画らしく、映画を愛する人たちの夢と苦難を、心温まる人間関係をからめほのぼのと描いていて好感が持てます。そして、何よりヒロイン役のアンバー・アンが輝いていました。際立った美人というより親しみやすい顔立ちの女優さんですが、無邪気で明るく一途なヒロインを、実に魅力的に演じています。上映会にもぐり込むために披露する踊りや、台湾語がうまく話せないため苦戦するオーディション場面などでは、可愛らしさがスクリーンから発散されていました。彼女と彼女の魅力を引き出した監督に、日本の「いいね!」に相当する「讃!」を贈りたいと思います。
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華誼兄弟公司が配給する『西遊降魔篇』のポスターも。同作品はこれまでの記録を塗り替える勢いで大ヒット中 |
2月24日は旧暦1月15日の元宵節で、同シネコンではチケットの半券3枚で景品がもらえるキャンペーンを実施中だった |
そういえば、最近は若者のミニブログ用語に台湾由来のものが数多く流行しています。「這様子」を「醤紫」と表記するのも、巻き舌をほとんど使わない台湾式の北京語発音からきたもので、台湾式普通話(標準語)を意味する「台普」という言い方もあるほどです。今後より多くの台湾映画が公開されると、さらにいろいろな流行語が出てくるかもしれません。
ただ、言葉やその時代の事物を使ったギャグの数々は、イマドキの北京の若者には分かりづらい部分も多かったかもしれません。ヒロインの名字「蒋」にからめた台湾ならではのギャグなどは、私たち以外に唯一の観客だった若いカップルにはまったく伝わらなかったようで、彼らはしばらくいゃいちゃした後、席を立って帰ってしまいました。
【データ】 阿嬤的夢中情人(Forever Love) 監督:北村豊晴、シャオ・リーシウ(蕭力修) キャスト:ラン・ジェンロン(藍正龍)、アンバー・アン(安心亜)、ワン・ボージエ(王伯傑)、ティエンシン(天心) 時間・ジャンル: 124分/愛情・コメディー 公開日:2013年2月22日
新影連・華誼兄弟影院 所在地:北京市朝陽区広順北大街16号望京華彩ショッピングセンターB1 電話:010-57620488 アクセス:地下鉄10号線太陽宮下車、B口を出てすぐのバス停から966路のバスで9つ目の停留所・利沢中街西口で下車、目の前の望京華彩ショッピングセンターの地下 |
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プロフィール |
1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。 1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。 現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。 |
人民中国インターネット版 2013年2月25日