年の差カップル『北京遇上西雅図』
文・写真=井上俊彦
ここ数年、興行収入急上昇の勢いは止まらず、ますます多くの作品が公開され、さまざまな話題が生まれている中国映画です。そこで、このコラムでは地元・北京の人々とともに映画館で作品を鑑賞し、新作や映画界の話題を紹介していきます。同時に、そこで見聞きしたものを通して、北京の人々の生活も感じ取っていければという姿勢で映画館通いをしていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
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ポスター |
タン・ウェイが妊婦を熱演
『ラスト、コーション』(2007年、アン・リー監督)で注目を集めたタン・ウェイ主演の『北京遇上西雅図』が3月21日から公開されました。この週末は、『ダイハード/ラスト・デイ』『バイオハザードV:リトリビューション』も公開されましたが、これらの強敵を向こうに回して、最初の週末だけで7500万元の興行成績を上げトップとなりました。『失恋の33日』以来の「小清新」(上品であっさりした文化的なものを好む若者)映画の大ヒットと話題になっています。
トム・ハンクス、メグ・ライアン主演の『めぐり逢えたら』(Sleepless in Seattle)が大好きという文佳佳(タン・ウェイ)は、裕福な不倫相手・老鐘の子どもを出産するためにシアトル(西雅図はシアトルのこと)を訪れ、アルバイトで送迎車の運転をしているさえない中年男性フランク(ウー・シウボー)と出会います。もぐりの出産センターに入所した佳佳は金にあかせてわがまま放題、経営者の黄太(エレイン・ジン)や先に来ている周逸(ハイ・チン)らを怒らせます。ところが、中国にいる老鐘は仕事を理由に見舞いにも訪れず、やがて彼の妻によって佳佳のクレジットカードが凍結され、老鐘本人の行方もわからなくなってしまいます。窮地に陥った彼女を気遣ってくれたのはフランクと彼の娘のジュリーでした。親しくなるにつれ、彼女はフランクの秘密を知るようになりますが……。
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春分には雪も降った北京だが、すでにあちこちで桃の花も咲き始めておりすっかり春めいてきた。桃の木の下にはたくさんのアマチュア・カメラマン |
主演のタン・ウェイですが、今回は「小三」(不倫の第三者)で「败金女」(ひどい浪費家の女性)という北京っ子を演じ、これまでになかった面を見せています。冒頭で出会ったばかりのフランクを罵倒する言葉のすさまじいこと、彼女に抱いていた上品なイメージが一気に吹っ飛んでしまいました(笑)。でも、その後佳佳がフランクたちと触れ合ううちに次第に優しく気遣いのできる本来の姿を取り戻していく変化も見事に演じています。その変化の過程では、女性監督ならではの細やかな演出も光っていました。
今の中国では“おじさん”がモテる!?
一方、相手役の味わいある中年男性を演じているのがウー・シウボーです。1968年生まれで中央戯劇学院卒業、中国では多数のヒットドラマに出演してきた人気俳優です。昨年は『四大名捕』『人山人海』という2作の映画でいずれも個性的な悪役を演じました。現在放送中のテレビドラマ『趙氏孤児案』では主役の程嬰を演じており、最も注目される“中年俳優”の1人と言えるでしょう。
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『北京遇上西雅図』のほか、『ダイハード/ラスト・デイ』『バイオハザードV:リトリビューション』などが公開され、にぎわうチケット売り場 |
この2人が演じるのが26歳と42歳という年の差カップルです。なんでも最近は「大叔控」(おじさんコンプレックス)がブームで、若い女性の間で中年男性が人気なのだそうです。同世代の男性より経験が豊富で落ち着いており、包容力があるというのが理由だと言われます。日本にも「カレセン」(枯れた男専門)という言葉もありますが、社会が豊かになり成熟してくるに従って中国の女性の好みも多様化しているようです。そうした風潮をストーリーにうまく取りこんだことが、「小清新」の興味をそそったようです。
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映画館そば、西単のバス停では乗客がきれいに列を作ってバスを待つ姿が。北京市民の交通マナーもずいぶん変わってきた |
シアトルやニューヨークの景色も美しいロマンチックなラブ・コメディーですが、よく見ると今の社会を反映した背景が使われていることに気づきます。実は最近では、中国の富裕層が子どもに米国国籍を取らせようと、わざわざ米国に出向いて出産するケースがあり、そのためのセンターもできているそうです。女性が出産のためにシアトルまで行くというのは、決して映画の中だけのことではないのです。ただ、彼女の場合は上記とは少し事情が違います。未婚で不倫の子を身ごもった彼女は、国内で出産するのが難しく、出産した場合に子どもの戸籍も問題になることから、シアトルに向かったという設定なのです。
【データ】 北京遇上西雅図(Finding Mr.Right) 監督:シュエ・シャオルー(薛暁路) キャスト:タン・ウェイ(湯唯)、ウー・シウボー(呉秀波)、ハイ・チン(海清)、エレイン・ジン(金燕玲) 時間・ジャンル: 123分/愛情・コメディー 公開日:2013年3月21日
首都電影院 所在地:北京市西城区西単北大街大悦ショッピングセンター10階 電話:010-66086662 アクセス:地下鉄1号線・4号線西単駅から徒歩4分、F1出口から北に進み左手のビル |
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プロフィール |
1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。 1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。 現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。 |
人民中国インターネット版 2013年3月25日